こんにちは八嶋智人ですさてこれから皆さんを不思議なアートの世界へお連れしたいと思っています早速ですが…あよいしょはいこの絵をご存じですか?これ江戸時代の浮世絵なんですが…描かれているのは隅田川の風景画面の手前にいるのは仕事中の船大工さんですさてこの絵の中に奇妙なものが描かれていますお気づきですか?はいこれですこれ!これ東京スカイツリーですよね?はいいいですか?はい実写はい絵はいほらね?この絵は…これ一説には井戸を掘るためのやぐらを誇張して描いたといわれていますですが私には浮世絵師歌川国芳が未来の姿を予見していたと思えてなりません江戸時代には天才と呼ばれる絵師たちが数多く生まれました彼らが描こうとしたものそれはいまだかつてないイマジネーション未来への挑戦ですではそんな奇跡の数々をご覧いただきましょう
時は江戸
神業のような筆さばきで未来に挑んだ3人の天才絵師がいた!
江戸時代に3D!?
見る者を仰天させる円山応挙の大仕掛けとは?
歌川広重が描いたはるか上空から見下ろした江戸の町
一体どうやって!?
伊藤若冲のめったに見られない大作!
そこにある秘密が!
あぁ〜!
若冲と…
さあさお立ち会い!
ほほほ…おぉ!わぁ妖怪ウォッチやっぱり超おもしろいねこれねなかなかお伝えできないんですけどねこれキャラクターが3Dで飛び出してくる…おぉ!あぁ…あすいませんお恥ずかしいところをお見せしてすいませんでしたいや息子がハマりにハマってまして私もドハマりでございますウィスパー!これこれ!いやぁなんかねこいつがいちばんボクに似てるような気がしてね好きなんですよわぁ〜お!さて皆さんこのキャラクターのように幽霊といえば足が描かれていないのが一般的ですよね?実は幽霊のこのビジュアル江戸時代の絵師円山応挙が作り上げたものでした応挙がこの幽霊を描いて以来みんなこれをお手本にしたというわけですこの誰もが知るイメージを作り上げた円山応挙という男は実は生涯をかけてあることに挑んでいましたそれが…これですえ?ありのままを描いたって?いやいやいや…こうして見てください立体的に浮き出る仕掛けになってるでしょ?そう!なんと円山応挙江戸時代に早くも3Dを意識して絵を描いていたんです
江戸時代中期に京都で活躍した絵師…
その名は天下に響き渡りなんと1,000人以上の弟子がいたっていうんだから驚きです
人気も実力も日本一
何しろこの男に描けないものはありませんでした
応挙はまず当時の誰よりも見た物を正確に写し取る「写生の技術」が卓越していました
得意としたのは描かれた物の重さまで伝わってくるような表現
子犬は抱き上げたくなるようなかわいさで描いています
一方写生で培ったテクニックは想像上の生き物にも応用
この龍ですがトカゲや蛇といったさまざまな生き物を写生したからこそリアルに感じるんです
そして幽霊
あるとき応挙の夢の中に亡き妻が現れたんだとか
それが今に至る幽霊の定番スタイルに
古典落語には『応挙の幽霊』なんてはなしもあるほど応挙の名声は江戸まで届いていたんです
さてそんな円山応挙を長年研究している佐々木教授は応挙が究めようとしていたことがあると言います
例えばこの絵何が描かれているか分かりますか?
ただの線にしか見えない?
でも近づいてよ〜く見てください
実はこの線の中に鯉が隠れているんです
そうこれは鯉の滝のぼり
すべてを描かなくても人の目が鯉の姿を想像で補うのでそう見えるのです
そんな円山応挙が視覚の研究の末にたどり着いた究極の芸術表現それが…
なんとこの円山応挙という男江戸時代に早くも3Dの発想を絵に持ち込んでいたと言うのです
さて現在エンターテインメントの世界では3D全盛!
特殊なメガネをかけて飛び出してくる映像を楽しむのがテーマパークのアトラクションや映画館でも一般的になっています
楽しいかい?
さらにメガネをかけずに3Dを楽しむこんな施設も
そうトリックアート美術館です
すらりと伸びたセクシーな足が見る角度を変えると短い足になったりして
おぉジーザス!
いい感じ?あいいねいいね
こちらでは絵の中の人に服をつままれて記念撮影
この絵は見る位置を変えると不思議なことが…
ほら建物が動いて見えますよね?
一体どういうことなのか近づいてみると…なるほど絵が飛び出していたんですね
平面の絵を立体的に楽しむこのトリックアート美術館は実は日本発祥の体験型施設
その制作工房を特別に見せてもらいました
こちらは新作のトリックアートだそうです
制作のポイントってどういうところなんでしょうか?
驚いたり笑ったり体験して楽しんでもらえるように…
江戸の町がテーマだというこの作品は垂直な面に描かれていますがなにやら仕掛けがあるそうで
アナモルフォーズっていう原理を使っていましてある特定の方向から見ると像が結実してしっかりした形に見えるっていう原理を使っていますねはい
絵の中に入ってポーズをとりこの方向から写真を撮ってみると…垂直に描かれたものがすっきり一枚の絵になっています
いよっ!出初め式!
こちらの工房では日々視覚の研究を行い平面に描かれた絵をいかにして3次元的に見せるかということを追求しているのです
今にも食べられそうになってしまうような…
さてさて円山応挙もまた生涯を視覚の研究にささげ平面の絵を3次元的に見せるためのさまざまな仕掛けを絵に施しました
そんな応挙の3次元的な仕掛けの数々を見られる場所が兵庫県の香住にあります
城郭のような石垣を持つ山陰の古刹…
この客殿13ある部屋の襖と壁面を手がけたのが応挙一門でした
すべてが国の重要文化財に指定されています
応挙みずからが担当したのは3部屋
そのすべてにさまざまな「3次元的な仕掛け」が施されているのです
その驚くべき発想とは?
円山応挙が描いた兵庫県・大乗寺の襖絵
応挙はそこに当時としては斬新な「3次元的な仕掛け」を施していました
では応挙の手がけた部屋を1部屋ずつ見ていきましょう
まずは客殿でいちばん大きな部屋孔雀の間
松の木の下で戯れる原寸大の孔雀たち
金地に墨一色
繊細かつ大胆な筆遣いで気品に満ちた孔雀の姿を描き出しています
応挙がこの部屋に施した3次元的な仕掛け
皆さん分かりますか?
きょうはよろしくお願いいたします
大乗寺の副住職山岨さんに教えてもらいました
孔雀の間に応挙が仕掛けたことって一体どんなことなんでしょうか
まず左側のこの大きな襖を開けてみますねそうしますと…こうしますとね下の松を隠して松が1本になりますねそして枝がこの幹につきますね
(山口)はぁ!
襖を開けても…このとおり絵がつながりました
こちらの襖も同様
開いたときに柱を隔てて隣の襖の枝とつながるように描かれています
実はこの孔雀の間奥に仏間があり襖の開閉が多いため応挙は開けても閉めても絵がつながるように工夫したのです
さらには
この松の枝は今こうやって見たら宙に浮いているようですけど絵としてはこの上をず〜っと余白を通ってそこの松につながっているように感じますでしょう?
(山口)はぁ…
(副住職)描かなくても描けているんですよ枝が
大地に根ざす松の幹
浮いたように見える松の枝
描かれてはいないけれど欄間のあたりを通って枝がつながっているように感じさせる
これこそ応挙の仕掛け
想像力がすごいですね
さらにまた違った3次元的な仕掛けがあるというのがこちらの部屋
描かれているのは雄大な水辺の風景
位の高い僧侶や殿様を招くために大乗寺で唯一上座が設けられている「山水の間」です
こちらへどうぞこういう形でまずねバ〜ンと向こうの床を見ていただきますねこういう形で絵がありますね家があって岬の突端があります
床の間の壁に描かれた岬に建つ家
視線をずらすとなんとそれぞれの絵につながる別の風景が描かれているんです
なるほどお見事!
でもこれはまだまだ序の口
応挙の仕掛けの真骨頂はここからです
絵を3次元的に見せるために絵以外の物も利用していたのです
右のほうの床板を見ていただきますとね絵が映っているでしょう?はい反射して
(副住職)ねぇところがあの…
(副住職)建具ですねいわゆるなるほど
応挙は空間も絵の一部と考えました
木を反射する床板は波のない穏やかな海といったおもむき
同じようにこちらはほとんど金の色ですね金箔でで下のほうに波ちょこちょこと描いてますね海ですねそうですねその下にほら…
(副住職)ということはあの…この空間全部がつながってるんですね
こちらでは畳の目を波打つ海面に見立てているんです
日本海の大海原があたかもそこに広がっているかのように見えてきませんか?
応挙さんは2次元の平面にこだわらずに絵を2次元の平面をこう立体的に配置することによって3次元になるその間にできた空間に絵をつなげていくというそういう工夫をしているように思いますねはぁ…
応挙は絵の配置を工夫し畳や床板といった部屋のしつらえまでをも利用することで2次元の絵を3次元的に見せようと試みたのです
さらに応挙はこの部屋全体にもある仕掛けを施していました
側面に描かれたこちらの絵がある効果をもたらすのだそうです
それがなんだか分かりますか?
上座と下座に分かれて座ってみるとその効果が分かるというので早速実践
下座に座ると側面の絵が斜め上に向かっているので上座に座る人を見上げるような気分に
一方上座からは絵が斜め下に下りていくように見えるため下座の者を見下ろす気分が増すというわけです
そうですかやっぱりこうだいぶ高いとこにねお座りになってる…ありがとうございます
応挙の絵は単に部屋を飾るための物ではなく部屋の用途をより際立たせるために描かれていたのです
2次元の絵で3次元の空間全体を演出していたとはいやはや恐れ入りました
続いて3部屋目は芭蕉の間
ここにも応挙はある意外な方法で3次元的な仕掛けをしていました
そしてこの大乗寺に描かれた…
それは一体!?
大乗寺の襖絵にさまざまな3次元的な仕掛けを施した絵師・円山応挙
応挙が3次元的な発想へと進むことになったのは少年時代のある出会いがきっかけでした
江戸時代中期の1733年現在の京都・亀岡市で農家の子として生まれた応挙
15歳の時に人形や玩具を扱う店尾張屋に奉公に出た応挙はこのころから絵を描くようになりました
そのとき京の町で大層はやっていたのが西洋生まれの「のぞき眼鏡」
箱の中に遠近法で描かれた風景画を入れてレンズをのぞき込むと絵が立体的に見えるという物
これが当時の人たちにとっては珍しく驚くべきものだったのです
応挙もこれに大きな影響を受けました
絵は単なる平面ではなく立体的に表現することができる
幼少期の原体験がその後の応挙を決定づけたのです
さて応挙がさまざまな形で三次元的な仕掛けを施した大乗寺
最後の3部屋目を見てみましょう
そこは「芭蕉の間」
金地に鮮やかな色彩で描かれているのは中国・唐の時代の政治家郭子儀と芭蕉の葉で遊ぶ子供たち
この部屋でも円山応挙はある意外な方法で絵に三次元的な仕掛けを施していました
まずこっち立ちましょうかそしたらはいどうぞこちらからねそこのおじいさんと落書きしてる子供を見ますねこっちのほうおじいさんの視線ね
(山口)はいホントですねのぞいてるでしょ?このあの部屋の中でね視線がやりとりしてるんですよ
襖に描かれた郭子儀
その視線の先にあるのは…すぐ横に描かれた子供ではなく向こうの襖に描かれた子供たち
応挙は襖絵と襖絵の間に視線のやりとりをつくることで部屋全体を三次元的に演出しようと試みたのです
さらに…
ちょっとここに…蝶々が描いてあるんですよねはい子供を背負ってるお姉ちゃんがこの蝶々を追っかけてますね?理由があるんですよね?理由があると思います
なにやら障子を開けるとその理由がわかるそうです
現れたのは前庭
こうして見ると蝶がまるで庭から部屋の中に飛んできたかのように見えませんか?
そうこれも応挙の三次元的な仕掛け
あたかも外の世界と連続しているかのような空間を演出していたのです
ここの空間と実空間とが1つになっていると一体感を感じられるんですねそうですね
ここ大乗寺は応挙にとって挑戦の場
長年にわたる視覚の研究で培った技術をすべて投じていたのです
見る者に驚きを与える奇跡の三次元空間を作り上げた応挙
その天才ぶりを表すある真実がありました
じゃあ来てないのにこの空間を頭の中だけで想像して描いたということなんですよね?そうですね
なんとこれだけの空間を現地に一度も足を運ぶことなく作り上げたっていうんだから驚きです!
天才の頭ん中っていうのは一体どうなっているんだか…
大乗寺の2階には応挙の弟子長沢芦雪の絵が残っています
この芦雪などの弟子が大乗寺の綿密な視察を行い師匠に報告
応挙自身はすべて京都で描いたそうです
円山応挙実はこの「松に孔雀図」を描き上げた3か月後にこの世を去っています
最晩年は目を患い制作は難航したと文献が伝えています
しかし応挙はどうしてもこれをやり遂げたかった
幼少期に絵の立体的な表現に触れた応挙は生涯にわたって視覚の研究を行いました
写生を極め人気と実力の頂点に立った男が人生の最後に挑んだ表現
それが絵筆で三次元的な空間を描き出すことだったのです
さて皆さん女性がキュンとくる男性のしぐさベスト3ってわかりますか?私の独自の調査によりますと第3位は!ダカダカダカ…ドンッ!「ネクタイを緩めるしぐさ」きょうのプレゼンもうまくいった第2位は?ダカダカダカ…ドンッ!「メガネをくわえるしぐさ」どこにキスをしようかな?そして第1位は?ダルダルダル…ドンッ!「助手席に手をかけながら車をバックさせるしぐさ」ただこのしぐさ過去の遺物になりつつあるんですよね〜その要因がこれです真上からの映像で駐車をサポートするアラウンドビューモニターですでは実際にやってみますねえ…慎重に…おお…ほらっこのとおり!車の真上にカメラがあるわけじゃあないんですまあ簡単にひと言で言えば見えないアングルを高度な仕組みで作り上げているということなんですさて江戸時代にも実際に見ることのできないアングルに挑戦しそれを描きあげた絵師がいたんです
東京都・文京区江戸時代創業の木版画専門工房にお邪魔しました
職人さんたちは江戸時代から変わらぬ伝統的な手刷りを継承しています
今刷っているのは浮世絵版画
お目見えしたのは…
歌川広重の代表作のひとつ…
羽を広げた大きなワシが鋭い目つきで地上をにらむ
作品を見る人も一緒になって空に舞い江戸の町を見下ろしているような気分にさせてくれます
それにしても飛行機もヘリも高層ビルもない時代に一体どうやってこんなアングルを描いたのか…不思議でなりません
「見ることができないアングルから描く」
これは現代テクノロジーにおいてもいまだ挑戦が続けられているテーマなんです
自分の車を真上から見下ろした映像を映し出し車庫入れをサポートするアラウンドビューモニター
車の真上にカメラが付いているわけじゃありませんよ?
そのからくりは車に付けられた4台のカメラ
前・後ろそして両方のサイドミラーの下に付けられています
その4つの映像をリアルタイムで加工することでまるで真上から眺めているかのような映像を作り出しているっていうわけです
パーキングの線もよく見えますし駐車するときに非常に便利だろうと
その技術は現在車庫入れだけではなく走行中の事故防止にも活用できるよう開発が進められています
画像処理の技術を向上させることでほらこんな映像までリアルタイムでできるというんです
見ることができない映像を作り出す
そのこだわりには感心させられますね〜
さて話は戻って150年前
歌川広重はどうやって江戸の町を真上から描いたのか…
その前に広重って人物について紹介しましょう
1797年に生まれた歌川広重
言わずと知れた浮世絵界の巨匠です
特に評判が高かったのが風景画
一躍その名を天下に知らしめたのが幕府の行列に加わった際目にした景色を描いた…
出発地である江戸・日本橋と到着地の京都
そしてその間に点在する53の宿場町を描いた55枚からなる連作の浮世絵木版画です
そこには四季折々の風景を巧みに織り交ぜながら当時の庶民の暮らしぶりがリアルに描かれています
これが売れに売れ広重は大成功を収めたそうです
世界有数の浮世絵のコレクションを誇るこちらの美術館でも広重の作品は目玉のひとつ
広重の浮世絵の特徴について伺いました
非常にこの風景というものにですね向き合った人物ですまあ現代で言うとですね…
日本各地の風景を描いてきた広重
彼が晩年死の直前まで取り組んでいたのが120枚からなる連作…
春夏秋冬4つの部に分けられ四季折々の江戸の素顔を描き出した作品には生まれ育った江戸の町に対する広重の深い愛着が感じられます
さらに1枚1枚に広重の並外れたテクニックをかいま見ることができます
こちらはにわかに降りだした夕立の風景を描いた…
この絵は世界で初めて雨を描いた作品と言われています
広重は雨を線で表しました
広重の独創的な表現力は海を越えゴッホやモネなどヨーロッパ印象派の巨匠たちにも影響を与えました
ゴッホは「大はしあたけの夕立」を模写した作品を残しています
構図や雨の描き方まで広重とまったく同じ
広重に対する尊敬の念がうかがえますね
モネは広重の作品をモチーフに自宅に庭を作りそれを描きました
そして今回の「深川州崎十万坪」は名所江戸百景の中でも特に異彩を放つ1枚
広重は一体なぜ見ることができないような上空からの風景を描いたのでしょうか?
このあと…
浮世絵界の巨匠歌川広重の作品は現在も人気が高くこちらの工房でも国内外からの注文が絶えません
こうした木版画は通常20回から30回ほど色を重ねて完成させます
その特徴はなんといっても空から見下ろす構図
江戸時代では不可能な視点で描かれています
絵の舞台となった場所は現在の江東区
広重が生きていた時代この辺りは埋め立て地でした
さてワシが見下ろしていたのはどれくらいの高さになるのでしょうか?
試しにヘリコプターで地上1,000mまで来てみました
なるほどこれくらいの高さまで来れば町をふかんしてみることができますね
ヘリに乗らなくても高層ビルもあるし今なら高いところからふかんした絵はなんとなくイメージして描けそうなものですが…
広重は一体どうやって実際に見ることができない空からの風景を描いたんでしょう?
そのヒントを探るためある方を訪ねました
延木由起子さんは空から地上を見下ろしたような絵を専門に描く画家です
その技法は皆さんもきっとなじみがあるはず
例えば観光情報誌なんかで掲載されています
これは「鳥瞰図」と呼ばれる図法です
ではどうやって空からの風景を描くのかというと延木さんの場合ヘリに乗るわけでもないし航空写真を使うわけでもないんだそうです
まず描く場所に足を運び地上の建物などをスケッチしてまわります
一応自転車に乗ってあの…真ん中のほうに描かれてた町なんですけどそれはうんと…全部回りましたね
現地で描いたスケッチを元に制作に入ります
ここで用意するのが等高線の入った地形図
それをベースにマス目を描き区画分けしたら…遠近感をつけて山や建物を配置
実際の標高を参考にメモリをつけてその数値どおりに土地の高さを持ち上げるように描いていきます
こうした作業を繰り返して鳥瞰図を完成させるのです
さて話は戻って広重の「深川州崎十万坪」
描かれた1857年に標高まで示す地形図はなかったはずです
広重も現地まで足を運び周囲の状況を観察したうえで制作に臨んだことでしょう
江戸時代に描かれた広重の鳥瞰図を延木さんに見てもらいました
手前のほうのこれは松だと思うんですけれども松が背が高く大きく描かれてて後ろに行くにしたがって小さくなっていくすごくよく描けていますよね
風景画で磨いた観察眼と遠近感を演出する卓越した技法によって広重は見えない風景を描ききったのです
なかなか結構やっぱり…空間を把握するって難しいんですよね…いちばん問題でしてなかなかほかの絵師できない広重自身たぶん天才的にそういうのができたんだろうなといううまさがありますね
広重の空間を演出する天才的な能力は「名所江戸百景」の他の作品にも見受けられます
例えば羽田の渡し船から見た玉川弁財天を描いたこの作品
船頭の顔が見えないくらいクローズアップした大胆な構図です
渡し船に同乗しているかのような感覚を味わってほしい
そんな狙いがあったと言われています
こちらは宿場町の風景
馬の尻があることで町の息づかいやにおいまで漂ってきそうな感覚にさせられるんだから不思議です
画面の手前に極端なまでにクローズアップした対象物を配置し奥に風景の広がりを描く
この構図は「深川州崎十万坪」にも用いられています
広重は空から見た江戸の世界に見る者を引き込もうとしていたのかもしれません
ん〜なぜ広重は空から見た構図を描こうと思ったのでしょうか?絵を見た人を驚かせたかったから?いやいや…実はそんな単純な理由ではありませんでした
実はありえない視点で描かれた背景には意外な事実がありました
ワシが見つめる視線の先にあるのは海に浮かぶ桶のような物体
ここに広重がこの絵を描くに至ったある想いが込められているのです
それはいったい…?
奇抜な構図でありえない視点からの風景を描いた歌川広重の「深川州崎十万坪」
実は広重がこの絵を描いた背景には意外な事実がありました
この「名所江戸百景」が刊行された時期というのが…
江戸の町を襲った安政の大地震
5,000人もの死者が出たと言われています
生まれ育った江戸の町の惨状を広重は目の当たりにしたに違いありません
そして広重は…
筆をとったのです
「名所江戸百景」が描かれ始めたのは震災の4か月後のことです
ワシの視線の先にあるのは海に浮かぶ樽
この樽は遺体を納め葬る棺という説があります
この絵には破壊された町への鎮魂の想いと復興の願いが込められていたのかもしれません
あはっ!あはっ!あぁ…
(シャッター音)最近のスマホはキレイに撮れますね画素数が多いからつい撮りすぎちゃうんですよね連写もできますよハハハハハッ!
(シャッター音)あっところで画素数っていったい何のことかわかりますか?例えばボクが画素数の多い八嶋だとしますでコイツは画素数の少ない八嶋何だと!?お前少ないからって何だっつんだバカヤローコノヤロー!もう嫌ですね〜見た目が粗いからことばづかいまで荒くなっちゃっておい!画素数上げろバカヤローコノヤロー!ん?おいちょっとやめろ!オレの画素数を奪うな!グヘヘヘヘ!ついにオレ様の時代が来たぜ〜皆さんはじめまして本当の八嶋ですオメェ何言ってんだよ!はい画素数というのは簡単に言えばマス目の数ですマス目が多ければ細かい表現ができるし少なければ粗くなります実は江戸時代にもこんなデジタル的な表現に挑んだ絵師がいたんです
ここ数年ブームになっているある絵師の作品が保管されています
状態を維持するため1年のうち数週間しか展示されないという貴重なもの
今回特別に見せていただきました
おっ屏風ですね
描かれているのは…白い象?
現れたのは左右2隻あるうちの右隻
つまり右側の屏風
江戸の奇才伊藤若冲作「樹花鳥獣図屏風」
1790年頃に描かれた若冲の代表作の1つです
左右両方の屏風にさまざまな動物が水辺で戯れる様子が描かれています
右隻は「獣尽くし」と呼ばれ当時日本には存在しなかった動物も描かれています
ちなみに私がこの中でいちばん気に入っているのはやっぱりこのトラ
まるで草食動物みたいに優しい顔をしているでしょう
その隣は竜じゃなくって麒麟
空想の生き物もいるんです
そしてなんといっても真ん中にデデンと構える真っ白な象の存在感が際立っています
続いて左隻左側の屏風を見てみましょう
こちらは「鳥尽くし」と呼ばれにわとり孔雀七面鳥
それに画面中央に描かれているのはきらびやかな鳳凰です
これはまさに鳥肌もんの逸品ですね
なんといっても目を引くのは鮮やかな色使い
江戸時代と言えば和室が普通だったでしょうからこのキテレツな屏風がどんなふうに飾られていたのかっていうのも気になるところ
そうそうキテレツっていえばこの屏風色の塗り方も相当変わっていまして…
よ〜くご覧ください
お気づきになりましたか?
そうこの屏風小さなマス目で区切られていてマス目ごとに色が塗られているんです
およそ1cm四方の方眼が実に11万個
しかも一つ一つのマス目の中は一色ではなく濃い色と薄い色を合わせて塗っているんです
いったいどうやって描いたのでしょうか?
その描き方を再現してもらいました
まず墨で縦横に線を引き全体に方眼を作ります
この時点ですでにひと苦労
実にきめこまやかな作業が続きます
その上から絵柄に合わせた淡い色を薄く塗って下地を作ります
そして方眼一つ一つを濃い色で正方形に塗り込んでいく
こりゃあ気の遠くなるような作業だ
はぁ…
11万個のマス目に対し使われている色は10万色を超えるとも言われています
いったい何のためにこんなに根気のいる作業をして描かなければならなかったのでしょうか?
この途方もない描き方を行った人物こそ江戸時代の奇才…
若冲がこだわったマス目の表現は現代テクノロジーにも通ずる発想なんです
それをひもとくためやってきたのは東京都千代田区のオフィスビル
こちらはデジタル画像処理技術の研究を行うベンチャー企業
カメラの手ブレ補正技術などを研究してきた社長にまずデジタル画像の概念についてうかがうと…
例えば皆さんがご覧になっているテレビに関して言うと…デジタル画像ということになります
そうカタログなどに画素数という表示を見かけたことがあるかと思いますが実はテレビの画面は画素と呼ばれるマス目の集合体で表現されているんです
実際テレビの画面にぐ〜っと近づいてみると…
ほら小さなマス目が見えますよね
これが画素
緑青赤の3色で構成されています
少し離れて見ると画素の色が混ざり合い自然な1枚の画像に見えます
テレビに限らずデジタルカメラの画像やスマートフォンの写真もすべて画素で構成されています
画素の数が多ければ多いほど微妙な色の変化を表現できるようになります
デジタル画像の概念である画素すなわちマス目は現代になくてはならないテクノロジーなんです
さて話は戻って若冲の屏風
デジタル画像のプロの感想は?
これすごいですね
(スタッフ)どう思われます?はいはいはいはい…ものすごい根気がいる作業ですよね今でしたらデジタル画像処理でもうこれぐらいの画素をあっという間に作ることができるんですけれどもそれこそ1秒かからないあるいは数ミリ秒とか何千分の1秒とかでたぶん作ることができると思うんですけれども
そうこれがデジタル画像なら今の時代特別驚きもしません
でも描かれたのは200年以上前
知れば知るほど謎が深まります
実はこれと似た技法を得意とした画家がフランスにいました
新印象派の創始者ジョルジュ・スーラです
代表作「グランド・ジャット島の日曜日の午後」はセーヌ川に浮かぶ中州での優雅な休日の様子を描いています
この絵をよ〜く見ると独特な方法で描かれているのがわかります
小さな点で構成する点描法と呼ばれる手法です
赤青緑異なる色を隣どうしに塗り離れて見てみるとほら茶色に見えますよね
これは視覚混合という現象が起きているんです
一方若冲の屏風
点描画をヒントにしたのかと思いきやなんとスーラよりも100年近く前に描いていたんです
しかもマス目によって色の濃さを微妙に変え立体感や陰影までも表現した若冲
一体どんな人物だったのでしょうか
裕福な家庭で育てられたいわゆるボンボン
仕事よりも趣味の絵に夢中になっていったそうです
次第に普通の絵では飽き足らず誰もやったことがない技法で描きたいという欲求が膨らんでいきます
自分だけの技法とは何なのか
考えた末に若冲がたどり着いたのはただただニワトリを観察し続けるということ
来る日も来る日もニワトリばかりを見続けました
そして1年後ようやく筆をとります
若冲はひたすら観察したニワトリをきめ細かく描きました
写実的な表現に徹したのです
ご覧ください
完璧なまでに描かれたニワトリはまるで高画質写真のよう
まさにスーパーリアルと呼べる領域に到達しています
その後10年もの歳月をかけて写実的な表現を追い求めた30作品からなる大作「動植綵絵」を完成させます
こちらはその中のひとつ「南天雄鶏図」
画面の中で存在感を放つ黒いシャモ
周りを彩る真っ赤な南天の実と黒のコントラストがシャモの力強さをより強調します
これは海の中の様子を描いたものでしょうか
いろんな種類の海の魚が一方向へ泳ぐ姿を描いています
タコの足に絡みつく子どものタコ
吸盤ひとつひとつを息をのむほど緻密に描き一筆にかける若冲の執念が伝わってきます
ひたすら対象物を観察し正確に描き出すという手法で唯一無二の世界を表現した若冲はさらなる高みを目指しました
それが…
制作したのはなんと若冲が70歳を超えてから
若冲は敬けんな仏教徒でした
晩年にさしかかり仏の元に動物たちが平和に暮らす楽園を夢見ていたのでしょうか
ただ追い求めて来たそれまでの写実的な絵とは一線を画す画風です
若冲を研究する日本美術史家の小林忠さんは若冲の狙いをこう分析します
現実的でありながら…現実的でない理想的な
マス目で動物を描いたのは非現実的な雰囲気を醸し出すため
空想の生き物である鳳凰や異国の動物さらに見たことのない動物を描くのにリアルではないもっと独創的な技法が必要だったのです
でもニワトリだけは妙に写実的
若冲の原点とも言えるニワトリのことは忘れていなかったようですね
今までにない新しい絵で見るものを驚かせたい
そんな思いを若冲は生涯追い求めてきた絵師でした
あまりにも革新的な絵は時に凡人の理解を超えていましたがそこには若冲のある思いがあったと言います
同時代をもう超えてる……方かもしれませんね
まだ若冲の死後200年しかたっていませんが今その評価が高まっています
若冲の思いを引き継ぎ進化させようとしているクリエーター集団がいます
そのオフィスを訪ねてみるとこれまでに見た事もないような来客対応のシステムで迎えてくれました
2000年の設立後挑戦的なデジタルアート作品を次々と世にはなって来たチームラボ
クリエーターたちは最先端の技術を駆使して新時代のアートに挑み続けています
例えばこれは江戸時代初期俵屋宗達が描いた屏風の傑作
この作品がチームラボの手にかかると…
波が踊るように水しぶきを上げるデジタルアートに進化しました
まさに江戸と現代のコラボ
日本の傑作絵画をデジタルアートとして再構築するチームラボ
その活動のきっかけになったのが若冲の屏風でした
なんかこう…自分たちはデジタルを使ってアートを作ったりしているんだけども…
このあと若冲の世界が200年のときを経て驚きの進化を遂げる!
チームラボが「樹花鳥獣図屏風」を現代に蘇らせた!
この絵が一体どうなってしまうのか?
あ〜!いたよ!動いてるよ!
マス目書きといういまだかつてない技法に挑んだ江戸の絵師・伊藤若冲の作品が現代によみがえりました
あ〜!あっ!うわわわわ…あ〜!いたよ!動いてるよ!あ!これはスゴイね
なんと伊藤若冲が描いた動物たちは動いています!
♪〜
200年の時を経てチームラボは「樹花鳥獣図屏風」をデジタルアート作品として進化させました
若冲の原点とも言えるニワトリもご覧のとおり
このマス目のひとマスひとマスも微妙にこれがデザインとして変わってるんですね動くからはぁー!このいちばんの迫力のゾウが…うわ〜動いてるほんとは伊藤若冲っていう人はこういうことをしたかったんじゃないかなぁというふうに思ったりしますねこういうの見ていると
江戸時代の絵師たちが挑んだはるかなるイマジネーションの世界
その魂は現代脈々と受け継がれています
そんな見方で絵を見てみてはいかがでしょうか
2015/03/28(土) 16:00〜17:15
テレビ大阪1
奇跡の江戸絵師 〜筆一本で未来に挑む〜[字]
伊藤若冲 歌川広重 円山応挙 ▽江戸時代に登場した3人の天才絵師たちが描いた絵は、現代の最新テクノロジー=未来を予見して描かれていた!?
詳細情報
出演者
【出演】
八嶋智人
山口恵(テレビ大阪アナウンサー)
【ナレーション】
桃月庵白酒
番組内容
▽伊藤若冲
超細密な描き方で当時の人々を驚かせた、若冲。
中でも晩年に描いた「樹花鳥獣図屏風」は、想像を絶する方法で描かれていた…
それは、現代のテレビやデジカメなどを構成する技術に通ずるものだった…
番組内容2
▽歌川広重
東海道五十三次や名所江戸百景で知られる浮世絵師、広重。
広重を代表する1枚「深川洲崎十万坪」には、あり得ない目線で描いたものだった…
それは、現代のカーナビなどにも用いられている発想だった…
番組内容3
▽円山応挙
斬新な描写で独自のスタイルを築いた、応挙。
その集大成が詰まっているという兵庫県・香住にある大乗寺には、彼が描いた襖絵が現存するが、それはまさに時代を先取りした「3D絵画」だった…
ジャンル :
情報/ワイドショー – その他
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz
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