久永隆一
2015年3月27日18時01分
「生きていけなくなると思った」――。生活に行き詰まったひとり親家庭の母親が、中学生の長女を殺害した罪に問われている。事件があったのは、家賃滞納で県営住宅を立ち退く日の朝のことだった。生活が苦しい人の相談にのる新制度が4月に始まる。これで、行政の支援は助けが必要な人に行き届くだろうか。
起訴状などによると、昨年9月24日、千葉県銚子市にある県営住宅の一室で、母親(44)は中学2年の長女(当時13)を窒息死させたとされる。学校で使った赤い鉢巻きで首を絞めたという。母親は殺人容疑で逮捕、起訴された。母親は警察に「退去すれば生きていけなくなると思った」と供述したという。
どんな理由があっても殺人は許されない。けれど、なぜこんな事件が起きたのだろう。県と銚子市への取材を総合すると、母娘の暮らしぶりの一端が見えてきた。
母親は給食センターでのパート収入が年間で100万円に届かない程度あったとみられる。そのほかの収入ははっきりしないが、児童扶養手当などを月約5万円受け取っていたという。
県営住宅の家賃は収入によって違う。2人の場合は最も安い月1万2800円だったが、支払いは2012年7月分から止まる。督促しても支払いがなく、県は裁判に踏みきり強制執行になった。
ひとり親家庭は貧困になるリスクが高い。厚生労働省が12年に公表した調査では、「母親がパートなどの非正規雇用」の場合、働いて得る収入は1年間で平均125万円。ひとり親家庭の貧困率は54・6%(12年)で、国際的にも最悪レベルにある。
相談も促した、と県住宅課は説明する。訴訟前に母親あてに送った文書には「事情のある方は相談に応じます」と明記していた。「それでも相談はなかった」と担当者。
18歳未満の子どもがいる母子家庭向けに、「母子生活支援施設」という住まいの選択肢もある。県によると、こうした情報提供はしなかった。
県営住宅がある銚子市も、この家庭と接点があった。
市によると、母親は13年4月、銚子市役所を訪れた。国民健康保険の保険料を滞納し、保険証が使えなくなっていたからだ。保険年金課で滞納者が短期間だけ使える保険証をもらう手続きをした。生活苦を察した職員に促され、母親は社会福祉課という生活保護の担当窓口にも行った。
この時の「面接記録票」という書類が残されている。
生活保護が利用できるか、判断にかかわる収入と預貯金はともに「未聴取」。保険料滞納の理由も書かれていない。担当者は「聞くべき点が聞けていなかった」と振り返る。母親は生活保護制度の概要を聞き、帰路についた。再び相談はなく、市からも連絡しなかったという。
事件を受け、県は滞納者を提訴した場合、その人が住む市にも連絡し情報共有することにした。銚子市も庁内の連携強化を確認したという。
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