長野県松本市の相沢病院は26日、脳内の神経伝達物質が減って体の動きが不自由になるパーキンソン病の患者に、脳の深部に電極を埋めて持続的に電気刺激する「脳深部刺激術(DBS)」の新たな方法を実施、成功したと発表した。この患者は従来の方法で治療を受け、1度は歩行障害が改善したものの、病気が進行し再び歩行困難になっていた。橋本隆男・神経内科統括医長は「難治の歩行障害があるパーキンソン病患者に有効な治療法が一つ増えることが期待される」としている。
パーキンソン病は、神経伝達物質ドーパミンを作る脳の細胞が減り、脳からの運動の指令が全身にうまく伝わらなくなって体の動きが不自由になる病気。患者は人口千人に1人の割合で、50〜60代で発症することが多い。
治療はドーパミンを補うなどの薬物治療が基本で、それでは限界がある場合に手術療法を行う。DBSは従来、症状に合わせて脳の視床(ししょう)、視床下核(かかく)、淡蒼球(たんそうきゅう)のいずれかに電極を埋めて電気刺激する。効果がなかったり、その後症状が進行したりした場合の治療法はなかった。
新しいDBSを受けた患者は県内の70代女性。9年前に県外医療機関で淡蒼球のDBSを行い、1度は歩行障害が改善したが、病気が進行し移動に車椅子が必要になった。そこで歩行に関与しているとされる脳幹の「脚橋核(きゃくきょうかく)」に電極を埋め込むDBSを計画。神経内科、脳神経外科、ガンマナイフセンターが連携し、2月24日に手術した。
橋本統括医長によると、脚橋核のDBSは2007年にカナダのチームが論文で初めて実施を報告。これまでに世界で数十例行われているが、国内ではまだ2例目という。女性患者は症状はまだ残るものの、スムーズに歩けるようになるなど歩行障害が大幅に改善したという。
相沢病院で26日開いた記者会見で、橋本統括医長は「治療の効果がどれぐらい持続するかなど、まだ分からない部分も多い。症例を重ねて明らかにしたい」と話した。