たとえラテン音楽ファンでなくても、ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブのことをご存じの方は多いことでしょう。ライ・クーダーが“発見”したキューバの老ミュージシャンたちを集め、『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』という一枚のアルバムにまとめたのが1997年のこと。全世界で400万枚以上のセールスを記録し、この年のグラミー賞を受賞しました。そして、本作を元にヴィム・ヴェンダース監督がドキュメンタリー映画『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』を撮影。1999年に公開されると、これまた全世界で大ヒット。アルバムは持っていなくても、映画は観たという方も多いはずです。
そんなワールド・ミュージック界では希有な大フィーバーから10数年。当時お蔵入りだったという未発表音源(97年から04年録音)が『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ~ロスト・アンド・ファウンド』として、このたび発表されました。
「Lost and Found – New Album」
これを聴いて驚いたのは、オリジナルと比べても引けを取らない素晴らしい内容であるということ。すでに故人となった人もたくさんいますが、こうやって新しい歌や演奏を聴けるというのは感無量です。
今回は再び話題になっているブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブを、あらためて聴き直してみようという企画です。キューバ音楽の至宝といわれるシンガーやミュージシャンたちの名演を、じっくりとお楽しみください。
※Youtubeを閲覧の際「この動画はyoutubeでご覧ください」というメッセージが表示されることがあります。その場合にはプレーヤー右下の「YouTube」ロゴをクリックすると新規ウインドウで動画を閲覧可能です。
Buena Vista Social Club
「Chan Chan」
ブエナ・ビスタといえばこの曲ですね。もともとはコンパイ・セグンドが80年代に作曲した楽曲で、彼が少年時代に学んだキューバのフォルクローレからヒントを得ているようです。アルバムの冒頭を飾り、映画でもテーマ曲のように扱われているので、この曲を聴くとライ・クーダーと息子のヨアキム・クーダーがサイドカー付きオートバイでオールド・ハバナの街を走る映像が目に浮かぶことでしょう。カーネギーホールのコンサートでクライマックスを迎えるこの映画は、キューバ音楽入門にもぴったりです。
Compay Segundo
「Guantanamera」
さて、ブエナ・ビスタの主役格といえば、やはりコンパイ・セグンドでしょうか。アルバム発表時ですでに90才という高齢にも関わらず、溌剌として歌声を聞かせてくれました。この曲は、コンパイが映画がヒットした後に新録した2001年発表のアルバム『Las Flores De La Vida』に収録。ピート・シーガーなどもカヴァーしたこの曲は、キューバ音楽の代名詞といってもいいくらいに有名なナンバーですが、コンパイの十八番としても知られ、さすがの貫禄で生き生きとしたヴァージョンに仕立て上げています。
Ibrahim Ferrer
ブエナ・ビスタのもうひとりの主役といっていいのが、ユニークなキャラクターを持つイブラヒム・フェレールです。50年代に人気だったのですが、すっかり忘れ去られていて、このプロジェクトで再び脚光を浴びることになりました。アルバム発表時は70才でしたが、まるでナット・キング・コールのようなクルーナーぶりは健在。ボレロを得意とするだけあって、死後2年経った2007年に発表されたラスト・アルバム『Mi Sueño』には、この曲のような甘いムードのメロディがたくさん詰まっています。
Omara Portuondo
「Flor De Amor」
レジェンドばかり集められた企画だけに故人も多いのですが、オマーラ・ポルトゥオンドはまだまだ現役で精力的に活動を続けている数少ないシンガーのひとりです。50年代には女性コーラス・グループで活動していましたが、1958年にアルバム『Magia Negra』でソロ・デビューして以来、フィーリンと呼ばれるメロディアスなキューバ音楽を歌い続けてきました。ブエナ・ビスタ以降も多くのソロ・アルバムを残していますが、凛とした歌の力は磨きがかかるばかり。来日公演も何度か行っています。
Rubén González
「Siboney」
映画の中でとても印象的だったのが、ルベーン・ゴンザレスが弾くピアノに合わせて、子どもたちがバレエを踊るシーンです。40年代からキューバ音楽界のトップスターだったアルセニオ・ロドリゲスのバック・ミュージシャンとして参加し、ジャズやソンなど数々のバンドで活躍していました。80年代末には引退していたのですが、ブエナ・ビスタのおかげで再び最前線に復帰。軽妙かつエレガントなプレイは、ベースのカチャイートとの名コンビぶりも手伝って、キューバの古き良き時代を彷彿とさせてくれます。
Eliades Ochoa
「Píntate Los Labios María」
老ミュージシャンの中において、カウボーイ・ハットがトレードマークのエリアデス・オチョアは当時50代後半だったということもあり、まだまだ若手といってもいい存在でした。とはいえ、70年代に参加したサンティアゴ・デ・クーバのグループ、クアルテート・パトリアの中核としてすでにベテランとしての風格を漂わせていたのも事実。この曲もバンドをバックにした1999年のアルバム『Sublime Ilusion』に収録されていて、軽快なソンのリズムに乗せて渋い歌声を披露してくれます。
Barbarito Torres
「Corazón De Chivo」
ブエナ・ビスタ関連の音源を聴いていると、ときおり変わった楽器の音色が聞こえてくることがあります。パーカッションはもちろんですが、バルバリート・トーレスが弾くラウーと呼ばれる弦楽器もそのひとつ。もともとはスペインで発展したリュートの一種で、ヨーロピアンの雰囲気をキューバ音楽に加える要素として大活躍しています。とはいえブエナ・ビスタではどうしても脇役的存在なので、彼の好プレイを聴くなら1999年発表のソロ・アルバム『Havana Café』がおすすめ。イブラヒム・フェレールなども参加した極上盤です。
Amadito Valdés
「La Fiesta De Amadito」
キューバ音楽ではパーカッションは大切な要素なのは常識ですが、ブエナ・ビスタのゆったりとしたサウンドではこれまた脇役的存在。しかし、アマディート・バルデスのティンバレスをはじめとするパーカッションは、盛り上がりを作るための重要なファクター。決して前に出すぎないながらも、決めどころではバシッと締める職人技はお見事。ブエナ・ビスタとダブるメンバーで構成されたアフロ・キューバン・オール・スターズにも参加しており、キューバ音楽シーンのキーマンのひとりでもあります。
Roberto Fonseca
「Triste Alegría」
イブラヒム・フェレールの動画を見てピンと来た方はは、かなりのキューバ音楽通。流麗なピアノを弾いているのが、キューバのジャズ・シーンを牽引するピアニストのロベルト・フォンセカです。欧米のジャズ・フェスなどでは自身のグループを率いてコンテンポラリーなラテン・ジャズを演奏しますが、アフロ・キューバンの要素を取り入れた作風は唯一無二。ブエナ・ビスタ関連の仕事も多く、オマーラ・ポルトゥオンドのワールド・ツアーに参加するなど、若手(といっても40才ですが)の最重要人物です。
Mateo Stoneman
「Piensa En Mi」
さて、番外編ということでマテオ・ストーンマンも紹介しておきましょう。彼は生粋のアメリカ人ですが、キューバ音楽に取り憑かれ、実際にキューバに赴き、ブエナ・ビスタに参加したミュージシャンたちとセッションしたというユニークなシンガーソングライター。犯罪歴があったりと経歴も面白いのですが、美しい歌声には古き良きキューバの薫りがぷんぷんと漂います。ボレロやフィーリンをキューバ人以上に歌い上げる技術もなかなかのもので、ラテン・ファン以外にもアピールする個性が注目されています。
■この筆者「栗本 斉」の関連リンク
HP:http://www.tabi-rhythm.com/
twitter:@tabirhythm
facebook:https://www.facebook.com/tabirhythm
blog:http://blog.livedoor.jp/tabi_rhythm/
■この筆者「栗本 斉」のコラム
読むナビDJ 第143回:21世紀のイタリアン・ポップス入門10選
読むナビDJ 第139回:現代音楽入門~実験音楽の世界10選
読むナビDJ 第136回:現代音楽入門~無調音楽の世界10選
読むナビDJ 第132回:アンビエント・ミュージック入門パート2、アンビエント・ハウス以降
読むナビDJ 第129回:アンビエント・ミュージック入門パート1、アンビエント・クラシック
読むナビDJ 第128回:2010年以降デビューの洋楽二世ミュージシャンまとめ
読むナビDJ 第123回:シティ・ポップ「サマーブリーズ」編10選
読むナビDJ 第120回:ウルグアイのポップ・ミュージック入門編10選
読むナビDJ 第119回:伝統と革新がミックスされたコロンビア音楽10選
読むナビDJ 第113回:ハワイアン・スラックキー・ギターの名手10選
読むナビDJ 第110回:大韓ロック・70~80sクラシックス10選
読むナビDJ 第107回:MVの閲覧は要注意!ラテン美女シンガー10選
読むナビDJ 第103回:ロバート・グラスパー周辺と新世紀ジャズの世界
読むナビDJ 第102回:ラテン・ロック入門編10選
読むナビDJ 第100回:続・2010年代に聴くべき、新しいピアノ・ミュージック
読むナビDJ 第99回:2010年代に聴くべき、新しいピアノ・ミュージック
読むナビDJ 第98回:ダフト・パンクだけじゃない!フレンチ・エレクトロ定番特集
読むナビDJ 第95回:クリスマス・ソングで世界一周!!ワールドミュージック編10選
読むナビDJ 第94回:フツーはもう飽きた?変わり種クリスマス・ソング10選
読むナビDJ 第91回:アルゼンチン音響派・再入門10選
読むナビDJ 第90回:新装刊記念!「Light Mellow 和モノ」10選 パート2
読むナビDJ 第88回:新装刊記念!「Light Mellow 和モノ」10選 パート1
読むナビDJ 第85回:オリンピックと音楽の深い関係
読むナビDJ 第79回:知っていると自慢できるアントニオ・カルロス・ジョビンの10曲
読むナビDJ 第77回:誰もが知ってるアントニオ・カルロス・ジョビンの超名曲10選
読むナビDJ 第70回:グスタボ・サンタオラージャの映画音楽作品集10選
読むナビDJ 第64回:エレクトロ・ディスコ界のレジェンド、ジョルジオ・モロダー・ワークス10選
読むナビDJ 第61回:アルゼンチン・タンゴ meets ロック&エレクトロニカ
読むナビDJ 第58回:キューバ音楽の新潮流
読むナビDJ 第43回:アルゼンチン発コンテンポラリー・フォルクローレの世界
読むナビDJ 第42回:静かなる音楽~クワイエット・ミュージックを知る名作10選