球春再来。ペナントレース開幕は、春本番を告げる風物詩。八十年の歴史を刻んだプロ野球は、すっかりこの国の文化になった感がある。八十一番目の新しい足跡を、ファンと一緒に残したい。
人気低迷と言われながらも昨年は、セ、パ合わせて、二〇〇五年以降、最多の観客動員を記録した。中でも広島とオリックスは、前年に比べそれぞれ約二割ずつ、動員数を伸ばしている。優勝したチームより、優勝を争ったチームの方が増えている。
人気復活は本物か。巨人人気、テレビ中継に頼らずに、上向きをどう維持するか。そのキーワードはこの国全体と同様に、女子と地域ではないか。
広島の観客増は、「カープ女子」を抜きには語れない。
関東の若い女性を新幹線代球団負担で広島の本拠に招く観戦ツアーが話題を呼んだ。
当日限定品が豊富なカープグッズも女性たちの人気の的だ。
「カープ女子」の存在自体が“看板”になり、球場に新たなファンを引き寄せた。
十二球団唯一親会社を持たない独立採算球団が試みる、独自の経営努力のたまものだ。
数年前の八百長メール問題でどん底を見た大相撲を、蘇生させたのも女子力だった。
日本相撲協会の女性職員(32)が「国技館のテーマパーク化」を目指して、ツイッターで土俵外の力士の様子を発信し始めた。それを見た女子たちが、相撲という文化に興味を覚え、国技館に足を運んで勝負の面白さを知った。
「スージョ」と呼ばれる若い女性ファンたちは、ただ見るだけではもの足らない。人気力士に“お姫さま抱っこ”をしてもらえるというイベントには、定員の千倍を超える応募が殺到した。柔軟な女子の発想力が、ファンと力士をぐんと近づけた。
高度な技術、全力プレーは当然のこと。観客増のかぎをにぎるのは、新鮮な付加価値だ。プロ野球も国技の変化にならいたい。
地上波ゴールデンタイムのテレビ中継枠が減り、“全国区”の人気は保ちにくい。巨人以外の球団は、これをチャンスと考えたい。
大リーグの高額年俸を蹴って古巣広島に戻った黒田博樹投手に対する地元ファンの歓迎ぶりはすさまじい。
各球団が地元ファンとの距離感をどれだけ縮められるのか。今季の見どころの一つである。
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