人前でも関係なく怒鳴り散らす。階段でも「走れ」「走れ」と急かせてくる。トラックで移動中は喫煙しまくり。歩道を女の子が歩いていると意味なくクラクションを鳴らす。世間知らずの未成年だった筆者には衝撃的だった。
アルバイトをしていた時期と期間
筆者が学生の時に某大手引越し業者で1年間アルバイトをした。通常時は週3日、学校が長期休みの時は週6日。自分は学生ではなく引越し屋を専業としてやっているのではないかと勘違いすることがよくあった。
引越しにもいろいろな種類がある
1年間でいろいろな引越しに携わった。
- 同じマンション内での移動
- 文化住宅から新築への引越し
- 結婚で実家からの門出
- マンションの大規模改修による仮住宅への一時転居
- 海外転勤(日本での荷物移動のみ担当)
- 会社のオフィス移動
- 夜逃げのような引越し
今ぱっと思い出せるだけでも以上のとおり多岐にわたっている。
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引越し業者のチーム編成
一般家庭の引越しではトラック一台に2~5名の作業員が乗り込んで作業にあたる。
リーダーは社員
リーダーであり責任者は社員が担当する。社員以外は全員アルバイトということもよくあった。
アルバイトのランク
アルバイトの中にもランクがあった。長いことやっているバイトは「メイン」と言われていた。メインの助手という意味だ。新人バイトでも1ヶ月もすればメインになってしまう。
新人バイトに関しては特定の呼び名はなかったが、便宜上「サブ」と呼称する。
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トラックの座席でランクが分かる
作業員5名の場合は次のような乗車位置になる。
- 運転手はリーダーであり責任者である社員
- 助手席がメイン
- 運転席と助手席の間にある真ん中がサブ
- 荷台ではない後部座席もサブ
以上をシンプルに図解すると次のとおり。トラックを上から見た状態だ。グレイの丸はハンドル、オレンジの波線はカーテン。カーテンに隠れた部分に人を乗せていいのかどうかは不明。乗車定員3名のトラックだと道路交通法違反だ。
トラックが左折する時は、メインの助手が左後方を毎回確認して「左OKです。」や「原付来てます。」というようなことを言う。
後部座席がないトラックの場合、荷台が箱型であるのをいいことに荷台に新人を乗せているリーダーもいた。これも道路交通法(ry
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新人作業員は人格を無視される
新人作業員の立場から
引越し業者はブラック企業だとよく言われるが、筆者も同じ感想だ。新人作業員の勤務初日は、階段しかないマンション5階の引越しなどをあてがわれやすい。一番しんどい作業をさせて使える人間かどうかを見極められる。
作業員のリーダーやメインの助手から偉そうに指示される(チームによってはそうでないこともあるが)。疲れのためにゆっくりと階段を昇降していたら「走れ」と怒鳴られる。
引越し業者が作業員を常時募集している理由は、作業自体が過酷な肉体労働である上に、こういった人格無視の職場環境のために新人がすぐに辞めてしまうからだ。
リーダーが「お前帰れや」と言うと本当に帰る新人もいれば、新人が作業の途中で突然消えることもある。
未成年の頃の筆者はリーダーを自分とは違う人種と割りきって、怒鳴られたところで右の耳から入って左の耳から抜けていた(ただし内容には従っていた)。言い方を気にしない特殊能力のお陰でその職場に1年居続けられたんだろう。
メインになった時の立場では
引越し屋で1ヶ月もアルバイトをすれば、いつの間にかアルバイトの半数は後輩になっている。続けられる人が少ないからだ。
自分がメインになると、チームのリーダーである社員から「お前も新人をしっかり働かせろ」と命令される。甘やかすとすぐに手を抜くからしっかり管理せよとのこと。
未成年だった筆者が、失業で仕方なく引越しのアルバイトをしに来た20歳代~50歳代の大人を相手に「走れ」「しっかり持てや」などと言っていた。
新人の時とは逆に、メインになると他人の人格を無視した言動をさせられた。業務と割り切っていたが、言われた方は不快だっただろうな。
怪物と闘う者は、その過程で自らが怪物と化さぬよう心せよ。おまえが長く深淵を覗くならば、深淵もまた等しくおまえを見返すのだ。
メインの仕事は荷物を最初に出すこと
荷物を出すときは、メインの助手が部屋に入り荷物を出していく。リーダーがトラックで荷物を積み込む。その間をサブの助手がバケツリレー方式で荷物を渡していく。メインの助手は適当に荷物を出すのではなく、リーダーが積みやすいように配慮する必要がある。
荷物を新居に入れていく時は、メインの助手がトラックから荷物を出し、リーダーが室内を担当する。やはりサブの助手たちはその間をバケツリレー方式で走り回る。
荷物を出す順番がそのリーダーの期待通りになっていないと後で皮肉を言われたりもするが、リーダーの意見は理にかなっていることが多いので勉強になったな。
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仕事ができるとリーダーの態度が変わる
最初は横柄な態度で口の悪かったリーダーだが、助手として使えるようになってくるとそういった態度が少しずつ改まっていった。せっかく育ってきたメインの助手に愛想を尽かされると、また新人を1から教えるという面倒な作業が待ってるしね。
リーダーたちは分別なく怒鳴っているのではなく、理由があって横柄な態度なんだと後から分かった。
アルバイトを始めて初日や2日で辞めた人たちは、最悪な一面だけを見てそれがすべてだと判断したはずだ。すべてではないものの、大筋で合ってるからそれはそれでいいと思う。事実だしね。
長くいると比較的楽な引越しも回ってくる
当時の筆者は年上の人たちに気に入ってもらえることが度々あり、社員の中でも古株の人にとても気に入られメイン助手としてその人にずっと指名され続けた(筆者もその人も異性愛者)。
社員の中でも長いこと務めている人への配慮か、楽な引越しに当たる割合が少しだけ増えた。なお、引越し作業の割り振り方に偏りがあると、不利な扱いをされた人が文句を言うので露骨な贔屓はできないようだった。
新人の時は大阪市内での移動で完結する引越しばかりで移動時間が短かくてトラック内で休む暇がなかったが、メインになってからは大阪から名古屋への当日中の引越しなどもあった。移動中は休憩みたいなものだ。座っているだけの簡単なお仕事だ。
エレベーターのある建物の引越しの割合も増えてくるし、長いこと続けていると新人よりも待遇が良くなった。こういう意味でも1年間続けられたんだろうな。(使えない新人を怒鳴りつけるという嫌な作業は最後まであったが)
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慣れてくると素手で荷物を運ぶ
リーダーやバイトでも長いことやっている人たちは素手で荷物を持ち運んでいた。筆者は最後まで次のゴム付き手袋を手放せなかった。これがないとダンボールが滑って余分な力を使ってしまう。
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隠語で客を分類する
営業担当が客の荷物を見積もりに行って感じたことを記録として残している。そこにはあからさまに「クレーマー」や「やくざ」といった言葉を残せない。それがバレると余計なクレームが増える。
よって、「X」であったり「Y」であったりと隠語で客の属性を分類する。引越し業者の本部とトラックに乗ったリーダーが無線でやりとりする時に、本部は「Xですのでくれぐれも気をつけてください。」と口頭でも再度伝えていた。
Xと聞いて行ったらまともだったこともあったが、確かにXだと思えるような客もいた。本部としては余計なクレームが来ると対応が面倒なので、クレーマーっぽい客はすべてXとして伝えていたんだろうな。
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たった1年だけど社会勉強になった
引越し作業員同士の人間関係はさておき、他人の引越し作業の中で学んだことを一言で言えば、「その家庭や組織の考え方が持ち物に反映されている」だ。もちろん筆者の独断と偏見による感想だが。
多くの家庭では引越しの準備をきちんと終えており、我々引越し業者が到着したときにはすぐに運び出せるようになっていた。しかし、たまに梱包が間に合わなかったどころか、ほとんどしていない家庭もあった。
一方、家族が一丸となって引越しに取り組み、新居での荷物の配置をきちんと計画していて、引越しという面倒なイベントでも楽しもうとしている家庭もあった。親は子を尊重し、子は親を尊敬する、そういう家庭が実在するんだなとカルチャーショックを受けたこともあった。
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まとめ
他人の人格を無視した発言をさせられる方も不快だ。筆者は二度と引越し業者で働くことはない。また、筆者は自分の持ち物をすべて持ち運べるほど荷物が少ないので、引越し業者に仕事をさせることもない。
街中で引越し業者の引越し風景を見ると懐かしくなる反面、あんな過酷な作業をよく1年も続けられたものだと思う。このページがこれから引越し屋でアルバイトする人の参考になれば幸いだ。