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今さら人に聞けない、写真再入門 Vol.1 「写真集」とは何ぞや? 僧侶収集家による贅沢レクチャー

今さら人に聞けない、写真再入門 Vol.1 「写真集」とは何ぞや? 僧侶収集家による贅沢レクチャー

お洒落なカフェや洋書店でよく見かける定番アイテム「写真集」。カルチャー系の雑誌でも「写真特集」ならぬ「写真集特集」が人気を呼び、その年の写真集が鍵になる有名な賞も。そもそも写真集の魅力ってどんなものだろう? どうせ「今さら」教えてもらうなら、最高の先生に学びたいもの。そこで日本随一の写真集コレクター、金子隆一さんを訪ねました。

じつは金子さんは、300年以上続くお寺の住職であり、東京都写真美術館の学芸員としても活動してきた人物。今回はそんな専門家のコレクションからキーとなる数冊を拝見しつつ、写真集の楽しみ方を伺いました。写真集の上手な見方、出会い方、おすすめの古本屋なども質問。写真集の奥深い魅力を楽しむヒントを学びます。

PROFILE

金子隆一(かねこ りゅういち)
1948年生まれ。写真評論家、写真史家、写真集コレクター。本業は僧侶。立正大学文学部卒業。元東京都写真美術館学芸員。武蔵野美術大学非常勤講師。日本写真史、特に日本の芸術写真(ピクトリアリスム)を専門とし、東京都写真美術館の企画展はもちろん、国内の様々な写真展を企画している。主な著書として、写真集を写真撮影してアーカイブした『日本写真集史1956-1986』(2009年、赤々舎)などがある。
 

膨大な数がある写真集。「最初の1冊」はどうやって選ぶのが正解ですか?


金子隆一さんは、写真好きなら知らぬ人のいない写真集コレクター。国内外の写真集を2万冊以上も収集し、写真評論家・写真史家としても活躍しています。今回はそんな彼のご自宅(お寺)を訪ねての取材、ワクワクしつつ東京・谷中の住所に向かいます。

江戸中期から300年以上続く由緒ある「正行院」の第32代住職、それが金子さん。袈裟姿で小脇にウィリアム・クライン(20世紀の重要な写真家。『VOGUE』誌での仕事や、大都市を荒々しくとらえた作品で知られる)写真集を抱えて説法なさる姿を妄想したものの、現れたのはピンクのセーターを着こなす軽妙洒脱なおじさまでした。

金子隆一
金子隆一

金子:はいはい(笑)、ちょうど最初にご紹介しようと思っていたのがクラインの『New York』(1956年)です。初めて買った洋書の写真集でしたね。大学での写真部時代、評論家を招いた特別講義があり、自分がそれまで見てきた写真とはまったく違う世界に出会ったんです。それが『New York』。1967年のことでした。

それまで金子青年がふれてきた名写真家には、今も写真賞にその名を冠する木村伊兵衛や、庶民から仏像までを独自のリアリズムでとらえた土門拳、日本人初のマグナム・フォト寄稿写真家になった濱谷浩などがいたそう。

金子:彼らの写真は個性こそ違えど「何が写っているのか」が明確でした。でも『New York』はまったく違った。単純に言えば、強烈な「ブレ、ボケ」手法も用いて、急成長する大都市のエネルギーをとらえたもの。でもそれは、当時写真家への道にも憧れていた私にとって「自分にこういう写真が撮れるかどうか?」すら判断できない、初めての「見る体験」でした。

ウィリアム・クライン『New York』(1956年)
ウィリアム・クライン『New York』(1956年)

その衝撃が忘れられず、銀座の洋書店で小遣いをはたいて手に入れた『New York』。それが今も金子さんのもとにあります。

金子:後に東京都写真美術館がこのシリーズから20点を収蔵することになり、その選択を担当しました。絶対にこれをと決めていたのが、写真集のラスト……ではなくその直前の1枚です。壁一面のガラス越しに眺める、NYの風景。窓の反射で、室内に豪華な美術品が並ぶのもわかります。まるで墓標のような摩天楼のラストも強烈ですが、私はこの豪邸からの写真のほうが、NYの繁栄、または虚栄をとらえていると思った。ただそれも、冒頭からページの流れを通してこそ感じること。ですから私はこの1冊で、写真の可能性と「写真集でしか伝えられないこと」を教わったと思います。

ウィリアム・クライン『New York』(1956年)
ウィリアム・クライン『New York』(1956年)

たしかに、さまざまな躍動や喧噪を経て辿り着くこの夜景には、何とも言えない気持ちにさせられます。やはり写真集はこうやって順番にページを味わっていくのが王道?

金子:でも1冊ずつ、それぞれに合う見かたがあると思いますよ。最初から順序良く、は作り手の意図も実感できるので王道ですが、私は一度そうして見終わった後に後ろから見直したり、好きな箇所を開きながら眺めることもあります。そうすれば、いつになっても新しい発見があるんです。

と、その言葉通り、購入から40年以上を経ても、初めて『New York』を手に取ったときのような目の輝きが印象的な金子さんでした。

ところで、写真集との出会いを求めて書店へ出かけても、膨大な作品をどれから手に取ればいいか迷ってしまいそうです。自分の「最初の写真集」を選ぶヒントも聞いてみました。

金子:「ハッと感じたら買うがよろし」(笑)。じつはこれ、戦前のカメラマン・安井仲治がその極意を列挙した「写真家48宣(よろし)」の1つ、「ハッと感じたら写すがよろし」のもじりです。最近はインターネットも便利ですが、自分の世界を超えた何かと偶然出会うには、やはり本屋に出かけるのがいい。私も昨年に東京都写真美術館の学芸員職を引退したばかりなので、また書店巡りの時間を増やしたいですね。


内田伸一

1971年生まれ。ライター、編集者。『キャプテン翼』命なのに卓球部の中学生、The Clashに心酔するも事なかれ主義の高校生、心理学専攻のモラトリアム大学生として成長し、初対面が苦手な編集者として『A』、『Dazed & Confused Japan』、『REALTOKYO』、『ART iT』などに参加。矛盾こそが人生哉。

Shinichi Uchida | 内田伸一

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