3月ですが雪が舞う岐阜市に来ています。
こんばんは。
石田ひかりです。
見て下さい!この立派なだいこん!これが1本100円。
そして時にはなんとこれが無料になる事もあるんです。
だいこんが売られているのは繁華街にある駐車場です。
今は普通の駐車場ですが毎日夜になると市場が開かれます。
「夜市」といいます。
今日の「にっぽん紀行」は夜市名物のだいこんを通じてつながるお客さんと店主の心模様を見つめます。
はい400円。
(女性)あほんと?ああ手開いた。
(女性)あ〜ありがとう!サービス!いいの?これサービス。
(女性)ああありがとう。
すみません。
いいの?ほんと500円で。
よかったら写真撮ってくんせえ。
(女性)はいチーズ。
はい。
(シャッター音)これタダやがな。
うれしいわ。
ハハハハ。
やっさんのだいこんな。
ならこないだ何で言わなんだ?こないだはあんなとこで言えへん。
41万人が暮らす岐阜市。
繁華街から500mほど離れたこの小さな駐車場で夜市は開かれます。
待ちわびた買い物客のもとへやって来たのはたくさんの野菜を積んだ軽トラック。
夕方5時夜市の始まりです。
店を出すのは花屋さんに卵屋さん。
そして野菜を売る店。
夜7時半まで雨の日以外毎晩開かれます。
並ぶのはみずみずしい野菜。
昼の農作業で取った野菜を持ってきます。
夜市を訪れるお客さんの多くは高齢者。
郊外のスーパーまで買い物に行けないお年寄りにとって夜市は大切な存在です。
(女性)いくらかね?はい400円。
あほんと?そんな大切な場所を守るのが安田力夫さん80歳。
「やっさん」と呼ばれています。
夜市で店を開いて50年以上。
カブや白菜旬の野菜はどれもやっさんが育てました。
1つ100円から300円ほどと格安です。
やっさんの売り方は…。
何だかぶっきらぼう。
だけど…。
やさしいなぁ。
やさしいサービスも。
入っとらへん入っとらへん。
すんませんありがとう。
ありがとう。
だいこんいくらですか?はい。
やっさんには冬の時期特に自慢の野菜があります。
うわぁすごいな。
重たいもう…。
大きなだいこん!値段は1本100円ですが…。
もってけ。
(女性)ハハハ。
これいくらやね?ちょっとサービス。
いいねぇ!ありがとねおじちゃん。
やっさんは自慢のだいこんを時にはおまけで渡しちゃうんです。
はいありがとう。
こんなサービス夜市でもやっさんの店だけ。
常連客の自転車の籠に勝手に入れちゃいましたよ。
安田さんあかんわこんな。
あかんあかんあかんあかん。
わし食べへんで誰も。
もってけって!
(男性)あかんて!安田さんに迷惑かけたらあかんねん!あかんて。
一生懸命…あかんていらんで!やっさんも譲りません。
卵割れんように持ってって。
うん。
なんか礼せなあかんな。
気遣ってもらったら。
頂いていきます。
すみませんご迷惑かけました。
お元気で。
はい。
(男性)ありがとう。
ありがとうございます。
最近病気がちというお客さんへのやっさん流の気遣いでした。
やっさんの畑は岐阜市の郊外にあります。
妻と2人で40種類以上の野菜や果物を作っています。
この季節は何といってもだいこん。
苗は京都から取り寄せ農薬はほとんど使わず育てたやっさんの自慢です。
父から譲り受けた畑を60年以上守り続けてきました。
若い頃から体力には自信があったやっさん。
夜市に店を出し始めたのは22歳の時。
昭和32年の事でした。
そのころの岐阜は繊維産業の全盛期。
繁華街の柳ケ瀬は「東洋一」ともうたわれ大勢の人でにぎわいました。
柳ケ瀬の周辺には100以上の夜市の店が立ち並び飲食店で使われる野菜や卵お客さんがお土産にする果物や花が飛ぶように売れました。
今では柳ケ瀬の夜もさみしくなりました。
夜市も2か所で5軒だけ。
どの店も経営は楽ではありません。
それでも夜市を必要とする人がいます。
何ですか?週に1度必ず来るこの少年。
あっいいんですか。
だいこんはやっぱりおまけです。
重てえよ。
はい。
重てえよ頑張れよ。
卵はいつも30個買います。
(少年)ただいま。
(父親)お帰り。
(少年)卵買ってきた。
自宅はこの街で3代続く老舗のおすし屋さん。
(父親)ハハハハ!
(少年)重かった。
初代の時からやっさんのだいこんを刺身のつまにしています。
時代は変わっても夜市は地域と共にあります。
(だいこんを切る音)寒いなやっさん!おう!寒いな。
おう。
こちらもやっさんの常連客竹中秀允さん73歳です。
お客が来んで。
な〜に…。
毎日のように夜市にやって来ますがやっさんに声をかけるだけ。
しょうがねえぞこれは。
(竹中)売れへんでおったって。
ヘヘッ。
買い物はせず帰っちゃいます。
夜市から歩いて5分ほどの所に暮らす竹中さん。
(鈴の音)2年前妻の奈良子さんを病気で亡くしました。
仕事一筋の竹中さんを黙って支えてくれた…2人でよく出かけた夜市に面影を求め今も通っているんです。
なっ。
俺はそう思うわ。
よっしゃここでいっぺんお茶飲んでゆっくりしよ。
家事は奈良子さんに任せきりだった竹中さん。
(竹中)こういう事やった事ねえでなぁわしは。
何にも何一つやった事ない。
ここの中入った事ないんやで。
フフフフ…。
今食事は近くに暮らす娘さんが作ってくれます。
食材は夜市で買ったものがほとんどです。
娘がさ今日はおでん作ってあるで食べやよって。
うまそうやなかなか。
フフフフフ。
奈良子さんがよく作ってくれた好物のおでん。
心を温めてくれるやっさんのだいこんです。
いつもより雪の日が多かったこの冬。
卵を売る養鶏農家の長崎さん。
花を売る松原さん。
共に思うような商売ができずにいました。
「これからも夜市を続けられるのか?」。
そんな思いが心をよぎります。
肝心のお客さんが来なければだいこんたちの出番はありません。
この日やっさんが向かったのは夜市の店主たちの集まり。
こんにちは。
どうもお忙しいとこどうも。
最年長のやっさんは夜市の組合長を務めています。
4月に行われる街の祭りに合わせイベントを仕掛けられないか市の担当者を交えて話し合いました。
一番いいのはやっぱ自分で作ったもんは自分で売るいう事なんやね。
やっさんは考えてきたアイデアを発表しました。
「市民の方に買って頂いたお礼感謝の意味で農産物を無料配布してはどうか」と…。
やっさんの店だけがやっているおまけのサービスを大々的に行うというものです。
店主たちは突然の事に何も言えずやっさんのアイデアが採用されました。
1週間後。
やっさんのもとに夜市の店主たちが集まっていました。
お客さんに喜んでもらうには別の方法もあるのではというのです。
こういうとこでもしやるんならいつかやったように…ならこないだ…こないだはあんなとこで言えへんそんなもん。
夜市を盛り上げていきたいという思いはみんな同じはずなのに…。
おっ出来たぞ!
(母親)こんばんは。
ピースして…。
一緒やぞ帽子。
(ゆず)一緒だ。
(母親)アハハハ…。
いいぞいいぞ。
いいぞ〜。
うぬま幼稚園や。
パッパットットットッ…トットットッ!おじさんこないだはどうもありがとう。
これちょっとだけ…。
あかんて!今日はプレゼント。
あかんて!いい。
今日は。
パンももらった…。
いやぁもらってちょうだい。
(女性)こんなに頂いてまた恐縮でございます。
2月下旬。
だいこんのシーズンが終わりに近づいてきました。
はい!この日はだいこんを目当てに多くのお客さんがやって来ました。
1本100円で飛ぶように売れていきます。
名残惜しいやっさんのだいこんです。
閉店時間の7時半が迫る頃だいこんは残り1本。
久しぶりに売り切れそうです。
他の店主が片づけを始めても…。
やっさんは動こうとしません。
一人お客さんを待ちます。
は?よもぎ餅を買いに来たお客さんが…。
だいこん。
はい。
だいこんも買い求めました。
ありがとうございます。
この日最後のだいこんはおまけで渡しました。
どうもありがとう。
はいどうも!ありがとうございました!お客さんの心を温めるやっさんのだいこんたち。
今夜は役割を果たせそうです。
この日も夜市に姿を見せた竹中さん。
いつもは冷やかすだけで何も買わない竹中さんですが…。
だいこんを手に取りましたよ。
(竹中)おい。
おいおい。
いつも娘さん任せの買い物を買って出ました。
ええてええて。
おうもってけよっしゃ!やっさんだいこんの料金は受け取りませんでした。
(女性)ありがとうございま〜す。
繁華街の片隅でひっそり営まれてきた夜市。
はいこれもサービス。
(女性)ありがとうございました。
はい。
ああええもってけ!すいませんありがとうヘヘヘヘ。
今夜もやっさんはお客さんにぬくもりを渡します。
200円。
ほい。
はい。
(母親)え?・
(女性)大サービス!
(母親)大サービス。
ありがとうございます。
これサービス。
(女性)いつもありがとう。
はいありがとう。
頑張ってよ!頑張れよ。
2015/03/27(金) 00:10〜00:35
NHK総合1・神戸
にっぽん紀行「夜市 やっさんの“だいこん”〜岐阜 柳ケ瀬界わい〜」[字]
岐阜市の中心、柳ケ瀬の近くに毎夜開かれる市場がある。戦前から地元の農家がとれたての野菜や果物を並べてきた。ふれあいを求め市場に集まる人たちの思いを見つめる。
詳細情報
番組内容
織田信長が奨励した楽市楽座が始まりとされる岐阜の夜間市場。かつては大勢の買い物客でにぎわったが、繁華街・柳ケ瀬の衰退や郊外にできた大型ショッピングセンターの影響で客足は激減。店を出す農家の高齢化も進み、存続が危ぶまれている。それでも、毎日のように通い続ける常連客がいる。とりとめのない会話、採算度外視の値引き…そこでしか味わえないふれあいを求めて。今夜もひっそりと営まれる、“夜市”の物語。
出演者
【出演】石田ひかり
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
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