はい、みなさん、年度末です。仕事は終わりましたか? いつもの年なら、ぼくは年度末に縛られるようなプロジェクトはほとんどないので、のほほんとしていられるのだけれど、今年はなぜか年度いっぱいの仕事がたくさん。それでも昔は、「3月50日」とか称して来年度にずれこむのもアリだったけれど、最近はかっちり年度末には納品できていないとダメという厳しい状況になってきたので、なんだかひどいことになっています。それでもやっと終わりが見えてきた今日この頃。
こうして時間と締め切りに追われていつもあたふたしているという状況は、ぼくたちの多くが経験することだ。そんなあなたにお薦めなのが、センディル・ムッライナタン&エルダー・シャフィール『いつも「時間がない」あなたに』(早川書房)。……というのは必ずしもウソではないけれど、本当とも言いがたい。というのもこれは、題名を見て想像されるような時間管理術の本ではないからだ。
いや、ぼくもこれが時間管理術の本だと思ったんだけどね。帯でGoogleのエリック・シュミットが惹句を書いているので、「この方法でワタシはバリバリ仕事をこなしてます」といったノリの本だと思ったのだ。でも、これは時間ではなく、「欠乏」というもの全般に関する本だ。ここで扱うのは、時間、お金、その他すべての欠乏に共通する話だ。欠乏は、人の処理能力を低下させてしまう、と本書では論じられている。やらなくてはいけないことがたくさんあると、あれもこれもでいっぱいいっぱい。もちろん、締め切り間際だと集中力が高まるのも事実。でも、それは他のことが見えなくなることでもある。
お金が欠乏している貧乏人も、まったく同じ。お金が足りず、目先の小銭でやりくりするしかなく、おかげでかなりクリエイティブなこともやるけれど、結果としてあれを見落とし、これも忘れ、いまのうちに返しておくべきツケの支払を先送りにし……。それがまた後でやりくりの自転車操業につながり、そして何かちょっと想定外のことが起きれば完全に破綻する。これは、ダイエットに失敗する構図もまったく同じ。
本書はそうした欠乏のもたらす心の変化を、各種の研究成果をもとに描き出す。もちろん、個別のエピソードはすでに知っているものも多いだろう。でも、それをこうして欠乏というキーワードのもとにまとめてもらうと、新しい見方が出て来る。すばらしい。すばらしいけど……じゃあどうすればいいの?
この本は、ちゃんとそれに対する答えも持っている。欠乏状態に陥ってあたふたしないようにしよう。まだ余裕があるときに、いずれやらねばならないことをきちんと片づけておけ、というのがとりあえずの処方箋ではある。お金も、あるときに必要は支払を終えておくこと。ダイエットも、日頃から間食しないようにしよう。そうすると、後で楽になる! うん、そのとおり。そのとおりなんだが——。
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