日経ビジネスにあるインタビュー記事を読んだのですが,理事長の話がちょっとひどかったので問題点を書き出しておきます。ちなみにこの記事を読むのには会員登録が必要です。
最初の方にある
意欲があって、能力があって、ただ親の経済力がない。そういう子供たちのための制度であることを、しっかりと伝えていかなくてはと思っています。
経済力の弱い親、その子供たちを救うという観点からすれば、奨学金は給付型こそあるべき姿です。返さなくていいのですから。
なんかはまともなことだと思ったんですが,後半がちょっと。
今、専門学校を含めた高等教育進学率は55%を超え、60%近くまでになっています。(p.2)
まずこの数字の認識から間違いが始まってます。「
平成26年度学校基本調査」では,高校卒業者の進学率は次のようになっています。
- 大学・短大 48.1%(通信・高校等の専攻科を除く)
- 専門学校 17.0%
- 就職(正規) 17.5%
- 非正規雇用 1.1%
進学率は60%近くどころか65%を超えてます。60%近い数字を出しているのは直近だと平成17年(大学・短大が39.3%,専門学校が19.0%で合計58.3%)だけど,「55%を超え」とか言ってるのを見るともっと前の数字を元にしてるのでは?という気がします。
多くの方が大きなイリュージョン(幻想)の中で生きているのだと思います。いい会社に入れば、子供は幸せである。そのためにはいい大学に入らないと。だから、みんながみんな大学に入ろうとする。もしくは親が入れようとする。
親は誰でも子供の幸せを願います。しっかりした社会人に育っていって欲しい。だから教育する。それは当たり前です。でも、大学に行くことが本人のいい暮らし、幸せな生活に結びつくかといえば、現実は必ずしもそうではない。そうではないけれども、幻想の中から出て行くことができない。
例えば手に職を持つとかITスキルを磨くであるとか、今だって現実に、高等教育を受けなくても収入を得ている人はたくさんいます。発想の豊かさなどで生きていくことだって、本当はできるんです。でもそうした現実ではなく、大学に行くことがいい収入を得る最善の道であるという幻想からぬけられない。その歪みが今起きている問題なのだと思います。(p.4)
このあたりの認識もだいぶまずいなあと思います。1つずつ。
いい会社に入れば、子供は幸せである。そのためにはいい大学に入らないと。だから、みんながみんな大学に入ろうとする。
なぜ「いい大学」とか言い出してるんでしょうか。むしろ「大学に入らないとまともに喰える仕事に就けず,不幸になる。だから大学に入ろうとする」あたりでしょう。
例えば手に職を持つとかITスキルを磨くであるとか、今だって現実に、高等教育を受けなくても収入を得ている人はたくさんいます。
これ,どれだけたくさんいるのでしょうか。というか具体的な資料に基づいて話してるのでしょうか。自己言及で恐縮ですが,
高等教育を受けているか否かで年収分布が大きく異なることは以前に別の記事で報告しました。それを踏まえればただの印象で話しているようにしか見えません。
大学の先生方に私はよく申し上げるのですが、進学率が55%ということは、残りの45%は社会人として働いているわけです。ざっくりとですけどね。奨学金の原資は税金です。国民の負担です。同じ世代の45%の仲間たちが汗水垂らして働いて収めた税金の上に、学生があぐらをかいていいのかと。そういうことをやはり奨学生は忘れてはならないと思います。
先ほど出した数字と大きく齟齬があります。高校卒業者で働いている人は非正規を含めても18.6%です。あとの26.4%はどこにいるのでしょうか。というか単純な引き算で語る前に,数字を見ましょうよ。
そして,pp.5-6に入るとだいぶ調子が出てきたのか次のようなのが出てきます。
今我々のところで一番延滞率が低いところは[中略]高等専門学校です。高等専門学校の子供たちは6年間必死に勉強して、手に職をつけて、社会に巣立って引っ張りだこになります。ですから延滞しない。
どうも「手に職をつけて」というのが好きなようですが,そもそも高専と入学時に競合する一般の高校に入る層がどれだけ幅広いのかを考えてるのか疑問ですし,じゃあ人文系の教育とかは誰がいつ受ければいいのかなど見えてきません。
東京オリンピックの1964年から第1次オイルショックまでの間の進学率というのはまだ30%前後ですよ。つまり、「1億総中流」を支えた企業戦士の人たちは、7~8割は大卒ではないですよ。
だから今も大学進学率が低くていいという話にはなりませんよね。なぜ50年前のことを引き合いに出すのか分かりません。
アメリカでは大学生の4割が25歳以上の成人であり、大学生の3分の1が働きながら大学に通っています。さらに言えば、こうした人の中で若い時期にはそれほど勉強しなかった人も少なくない。一度社会に出て、勉強や学問、研究の必要性を実感した後からでも改めて大学に進学してもいい。
そのための基盤,特に高卒者が大学に進学しなくても食べていける仕組み,が整ってないのにこんなことを言い始めてもしょうがないのではないでしょうか。
この理事長,
昭和45年1945年生まれとのことですが,自分の経験によるバイアスが大きすぎるのではないか,という印象を強く受けました。私自身奨学金を借りて学費を払っていましたし,その重要性は強く認識していますが,こういう方が理事長だと不安を感じずにはいられません。
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