金銭解決について朝日新聞でコメント
今朝の朝日新聞は1面トップでどどーーんと「不当解雇 金銭で解決」と、規制改革会議の意見書のニュースが載り、7面では「安易な解雇懸念」と言う記事もあり、そして二人の有識者のコメントが載っています。
http://www.asahi.com/articles/ASH3T7FHGH3TULFA03Q.html?iref=comtop_list_pol_n01(不当解雇の金銭解決、改革会議が提言 政府は導入検討へ)
http://www.asahi.com/articles/DA3S11670031.html?iref=reca(「安易な解雇」懸念 金銭解決制度、労組反発も 解決金水準も焦点)
が、実は記事をよく読めば、書いている記者もよくわかっているように、こういう見出しは実は大変ミスリーディングです。
そして、それは一見対立する立場からのコメントのように見える佐々木亮さんと私のコメントをじっくり読めば、結局現状認識は大して変わらないということもわかるはずです。
今現在、安易な解雇は山のように横行しているのです。
そして、不当な解雇の金銭解雇も山のようにあるのです。
さらにいえば、不当な解雇の泣き寝入りが数的には一番多いはずです。
そういう下からの目線でものを見るか、ごく一部の上澄みの世界からものを見るかの違いでしょう。
私のコメントは以下の通りですが:
裁判上の和解や労働審判は、今でも金銭を支払うことで解決されているケースがほとんどだ。裁判で解雇無効が認められても、実際には復職できずに、解雇時以降の給料が払われる形で解決されている場合が多い。今回の提言は、必ずしも労働者にとって不利にはならない。むしろ、解決金の目安ができれば、低い金額を示された労働者には有利になる。不当に解雇しても金を払わない例が目立つ中小企業に対しても、きちんと支払うよう圧力が強まるだろう。
詳しくは、一昨年『世界』5月号に載せた「「労使双方が納得する」解雇規制とは何か──解雇規制緩和論の正しい論じ方」 をお読みください。
http://homepage3.nifty.com/hamachan/sekaikaiko.html
なお、昨日発行された『ジュリスト』4月号の判例評釈(労働審判における「解決金」の意義--X学園事件 )の最後のところで、今朝の朝日新聞で並んでいる佐々木亮さんを引用しながら、こう論じているのも参照のこと。
・・・ 本件のような事態が生じないようにするために当面必要な対応としては、雇用関係の将来にわたる存在を確認する意図があるのでない限り、労働審判の主文において「金銭補償をした上で労働関係を終了させる」旨を明示することであろう。これは、現実に圧倒的多数の事案において行われていることを確認するだけのことであり、労働契約法上の問題を生じさせるものではない。
ただ、こうした問題は結局、解雇無効による地位確認請求のみを解決方法として認めてきた訴訟実務を何ら変更することなく、労働審判においても(多くは形式的に)解雇無効による地位確認請求という形式をとらせながら、事実上の取扱いとしてはその大部分について暗黙に雇用終了と引き替えの金銭解決というやり方をとってきたことの矛盾が露呈したものと言うべきであり、解雇事件に対する裁判上の金銭解決という問題に正面から取り組むことが求められていると言うべきではなかろうか。
この点を極めて明示的に語っているのは、労働審判を多く扱ってきた弁護士による伊藤幹郎他『労働審判を使いこなそう!』(エイデル研究所)の記述である。そこでは解雇事件について、「申立人が必ずしも職場に戻るつもりがなくても地位確認で行くべきである。申立の趣旨を「相手方は申立人に対して金○○円を支払え」などとし、はじめから慰謝料等の請求をするのでは、多くを得ることは望めないと知るべし。必ずしも職場に戻る意思がなくとも、そのように主張しないと多くの解決金は望めないからである。」(11頁)と述べられ、とりわけ第5章の座談会では、「私も基本的には地位確認で進めるのですが、まず申立人を説得します。辞めたくても地位確認をしなければならないのだと。日本の裁判制度はそうなっているのだと。」という発言もある。労働者が不当な解雇に対する金銭補償を求めようとすると、民事訴訟法上は異なる訴訟物である地位確認請求をしなければならないというわけである。
ここに現れているのは、解雇無効による地位確認請求と、不当な解雇に対する金銭給付請求とが、あらゆる民事訴訟法理論の想定を超えて、法社会学的にはほとんど同一の訴訟物となっているという社会的実態である。解雇の金銭解決問題の本質とは、多くの論者の認識とはまったく異なり、かかる民事訴訟法理論と法社会学的実態との矛盾をいかに解きほぐすかという問題に他ならない。
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