Perlのカンファレンスでなぜかベストトークを受賞した「PHPの伝道師」石田絢一氏の偏愛【30分対談Liveモイめし】
2015/03/26公開
『ツイキャス』を運営するモイのエンジニアがホストを務め、週替わりで旬なスタートアップのエンジニアや起業家を招いて放談する「モイめし」。今回のゲストは、フリーランスのWeb系エンジニア石田絢一氏(@uzulla)だ。
2011年から地元・八王子でPerlの勉強会Hachioji.pmを主催。PerlのカンファレンスであるYAPC::Asia 2014でもPHPをテーマにベストトーク賞を受賞するなど、精力的な普及活動から「PHPの伝道師」と呼ばれることも。
主にPHPを使って『ツイキャス』を開発しているモイの赤松洋介氏との対談は、最初から最後まで純度100%のPHPトークとなった。
フリーWeb系エンジニア
石田絢一氏(@uzulla)
インターネット黎明期からWeb系エンジニアとして多業界でWebシステム設計開発運用に携わり、2001年に共同で会社を設立し、インフラエンジニア兼営業を担当。2008年より軸足を移して複数の会社に所属しつつ、フリーランスでもWebシステムの開発等を行っている。コミュニティ活動として2011年より地元で勉強会Hachioji.pmを毎月主催、大規模カンファレンスのYAPC::Asia Tokyo 2014で登壇しベストトーク賞を受賞。書籍執筆等も行う。愛する言語はPHP。共著に『Webアプリエンジニア養成読本』(PHPパートを担当)
石田氏がPHPにのめり込んでいったワケ
昨年のYAPC::Asia 2014でもPHPに関する発表でベストトーク賞を受賞した石田氏。Tシャツには「ヤプシー成功祈願」の文字も
石田 モイさんと言えば珍しいPHP企業ですよね。
赤松 そうなんです。最近は「俺はPHPエンジニアだ」って言う人少ないですよね?だから何だか言いにくいというか……。石田さんはどういう経緯でPHPエンジニアに?
石田 僕はもうPHPが大好きで。PHPを愛しているんです。仕事でもPHPで書きますし、YAPC::Asia 2014のようなPerlのカンファレンスでもPHPのことを話してしまうくらいですから。
赤松 YAPCにはどうして乗り込むことになったんでしょう?
石田 乗り込むというか、もともと『bokete』のゆーすけべーさんと友達で、その縁からPerlのコミュニティに知り合いが多かったんです。Perlのコミュニティはすごくオープンなので、僕のようにPHPをやっているプログラマーでも迎え入れてくれるんです。
赤松 本当ですか?(笑)
石田 僕が証人です!昔はCGIとかもいじっていたんですけど、こうやってPHPメインになっている人間でも入っていって、トークまで許していただけるんですから。今年はYAPCの運営もやるので、ぜひ成功してもらいたいと思っているんです。
赤松 そこまでPHPにハマった理由は何だったんですか?
石田 基本的には、PHPでやる仕事が多かったから、というのがベースにあります。僕はその昔、自分が取締役を務める会社でインフラエンジニアや営業をやっていた時期があったんですが、いろいろあって別にフリーで仕事をするようになりまして。その時に受けた仕事にPHPの案件が多かったというのが発端で。2008年ごろの話です。
やっていたのは広告系の仕事なんですが、当時はまだまだPHPが活躍する場がありました。それで使うようになったんですが、使ってみると意外にいいじゃないか、と。サーバの環境とかも死ににくいですし、他の言語と比べてもタフ。そういうところも気に入って使っています。
その後もPHPは進化して、ずいぶんと使いやすくなってきています。オブジェクト指向プログラミングとかちゃんとやっていくと意外と書けますし、最近は速度も上がってきています。
「本番30分前」のリクエストにも力技で対応できるPHP
「PHPで書くメリットの一つは柔軟性の高さ」と赤松氏
赤松 なるほど。ご自身の話を聞いていても自然とPHPそのものの話になっていきますね(笑)。PHPの普及活動というか、YAPCしかり、いろいろなところで発表もしていますよね?
石田 はい。PHPはあまり最近の状況が知られていないので、重点的に話すようにしていたら、評価していただけるようになり……。その流れで、最近は『Webアプリエンジニア養成読本』という本の中でPHPのパートを担当させていただけたりもしました。
赤松 海外だとまだまだPHPのエンジニアはたくさんいますが、確かに日本だと若い人がRubyとかに流れてしまっていますよね。ウチも採用が難しくなるので困っているんですよ。
石田 PHPだけ書くことを求めると、どうしても難しくなりますから、技術的にチャレンジングな企業さんが、もともとはRubyだけどPHPも書いていいかな、くらいのイメージで募集した方がいい気がしますね。何も「RubyをやっていたらPHPを書いてはいけない」ということではないわけですから。
ただ、PHPにはどうしても昔のレガシーコードがきついというイメージがつきまとっていると思うので、その部分をどう払拭できるかで、状況は変わってくるのではないかと思います。
赤松 PHPには確かに、柔軟性があるがゆえにコードが追いにくいという側面はありますね。それで避けられているという印象です。
石田 でもさっきも言ったように、新しいバージョンで書かれたコードに関してはそんなに変でもないというか。きれいに書けますよ。
赤松 PHPのメリットとして一つ大きいのは柔軟性じゃないですか?そうすると、フレームワークを入れたりしてカチカチに書くというのはどうなんでしょう?メンテナンス性は上がるんでしょうけど、縛りが入って良さが失われてしまうということはありませんか?
石田 そこは、自分が選べるということが重要なんじゃないかと思うんです。例えば広告系で言えば、テレビなどのスケジュールの変更のできない別メディアからのリンクがあると、公開まで残り30分という状況で「ここを変えたい」という突然のリクエストを受けることがあります。こうした時にPHPであれば力技が効くので何とか対応できますが、他の言語だと難しいのではないでしょうか。この柔軟性はPHPの強みです。
一方で、根っこのところは今ではきれいに書けるようになっていますから、カチッとした描き方と両方を使い分けられるようになっておけば、一番強力と言えるのでは?
他の言語のいいところを輸入できる柔軟性
尽きることのないPHP談義
赤松 なるほど。一方で先ほどいただいた名刺の肩書きはPerlのコミュニティであるJPAとなっていましたが、どんな活動をする団体なんですか?
石田 メインはYAPCの運営ですが、Perlは日本全国にコミュニティがありまして、その支援をしていたりもします。東京にいるスターエンジニアを北海度や福岡に講師として派遣するなどの活動ですね。
赤松 どうしてPerlはあんなに盛り上がるんでしょう?そんなにエンジニアが増えている感じはしないんですけど。
石田 Perlは言語そのものというより、コミュニティが素晴らしいんですよ。そこいるエンジニアが外に出ることをいとわない。PHPで有名な日本人エンジニアを挙げろと言われてもなかなか名前が出ないんですが、Perlだと宮川達彦さんとかだ小飼弾さんとか、いろいろな方がコミュニティで活動してきたから、声がデカい、一方で受け入れが広いというのがあるんだと思います。
赤松 PHPも同じように若いエンジニアが増えて、採用につながっていったらいいんですけどね。ウチは言語自体にはそれほどこだわっているわけではないんですけど、やはり資産もあって、移行するのは簡単ではないので。
石田 そこはぜひ聞きたいところでもあるんです。モイさんは実はPHPですごい会社だと噂をいろいろと耳にします。その知見を積極的に外に出す、シェアしていくというお考えはないんですか?
赤松 恥ずかしくてなかなかシェアできないんですよねえ(笑)。
石田 おっしゃることは分かります(笑)。でも、そうしていただけると、PHPやろうかなという人も増えるのでは?
赤松 もともとはあまり考えていなくて、とりあえず手っ取り早く作れるからということでPHPで書き始めたんですよね。そうしたら思った以上に流行って、気がつけば置き換えが難しいところまで来てしまったという。
石田 でもそれは逆に言えば、PHPはスタートするのにはいいってことですよね。グロースする時にはいろいろと変更する必要もありますが、何だかんだでここまでやっていけてしまうというのも、モイさんが証明されているということで(笑)。
赤松 けっこうつらいタイミングもいろいろとあったんですけどねえ。長くやっているとボトルネックがいくつか出てくるじゃないですか。それを他の企業は別の言語に変えることでクリアするという方法を取るんですけど、私は力技で解決してしまったので(笑)。
石田 もし僕がモイさんに入っていたら、PHPを活かそうとして、ソースコードをきれいにし出すと思うんです。重いところだけを切り離すなど、いろいろやり方はあります。
赤松 まあサービスを運営する上では言語にはそこまでこだわらないです。依存するものでもないと思うので。
石田 そうですね。僕も実際にはPHP以外の言語もいろいろと書いています。プログラマーとしての能力を高めるために、他の言語を勉強して、それをPHPに輸入するといったこともしています。そういうことができるくらいにPHPは柔軟性が高いので、いろいろな言語の人が来てくれるといいな、と思っています。
PHPのエンジニアを増やすという意味で僕がプッシュしているのは、意外と何でもできる、案外苦しくないっていうところ。赤松さんからは「乗り換え時を間違えると苦しい」という話もいただいちゃいましたが(笑)、頑張れば何とかなる。
あとは、PHPのエンジニアの中には、そればっかりやっていた結果、、HTMLには詳しいけれどもエンジニアリングそのものには詳しくないという人も増えてきてしまっている。そこをどうコンバートしていくかというのも、僕のような立場の役目なのかなと思ったりします。
発信することで名が売れ、情報が集まりやすくなる好循環
赤松 しかし、そういった発表はどんなモチベーションで行っているんですか?お金にならないし、資料を作るのも大変じゃないですか。今回の対談にあたって、ベストトークを取ったYAPCの資料も拝見しましたが、200ページ近くありますよね?
石田 それはもう、愛ですよ。後は、エンジニアの人たちと話すのがやっぱり楽しいからというのが大きいです。それぞれの会社の中で蓄積された技術が、会社の外で共有される場が、勉強会やカンファレンスだったりします。そういうところに行くと、自分とは違う思想を見ることができるので、非常に勉強になるんです。
それに、有名になると自然と声がかかるようになり、情報が集めやすくなるじゃないですか。何かを得るためには、自分から出していくのが重要だと思っていて。どんどんコンテンツを出していくことで、こうやって声を掛けていただけるようになりますから。
赤松 石田さんの場合はいつごろから声が掛かるようになったんですか?
石田 それは最近ですね。地元の八王子でもHachioji.pmというPerlのミートアップをもう5年くらいやっていて、月1ペースで開催し続けています。そうやって長く続けているうちに顔が知れて、横のつながりもできて、だんだんと呼ばれることが多くなった気がします。
赤松 なるほど。ただ、そうやって資料を作ってコミュニティ活動に時間を費やす一方で、やはりコードを書く時間が一番幸せ、というところもあるんですよね? これからもずっとエンジニアとしてやっていかれるおつもりですか?
石田 最初に触れたようにもともと営業やインフラをやっていたというのもありますし、自分では何でもできると思っているんです。コードも書き続けられればとは思っていますが、その時々で要求されるものも変わると思うので。赤松さんだって、社長になられて、100%コードを書くということではなくなっていますよね?
赤松 それは深い悩みなんですけどねえ(笑)。
石田 僕もいろいろな会社にいろいろな立場で関わっているので、その時々でそれこそカメレオンのように、自分が一番活かせる道を探していければと思っています。プログラミングとその周辺に関わり続けられれば幸せかな。
>> 石田氏も運営に関わっている国内最大級の言語カンファレンス「YAPC::Asia 2015」の詳細はコチラ
取材・文/鈴木陸夫(編集部)
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