2009年11月29日

フランス危機一髪! '07 <第二章>


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  第二章  銘子、危機一髪!

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その朝、銘子はベッドの中でまどろんでいた。


「もうそろそろ起きなきゃ…」

かすかに携帯の呼び出し音(マナーモードのバイブレーション)が

聞こえた。

「え?何か着信?」


今回は一人旅ということもあり、銘子はDoCoMoで携帯を

レンタルしていた。

すでに発売されている903i シリーズ以降のものであれば

そのまま自分の携帯を持って行けるのだが

銘子のは惜しくも902i だった。

(2007年のお話)

FOMAカードを入れ替えるといつもの銘子の携帯番号と

メイルアドレスで通信出来る。

(もちろん通信料金は違ってくるが)

一日105円、保険料一日105円、

つまり一日210円で借りられるのだ。

ちょっとでかくて不格好だけれども、レンタルだから仕方ない。

見ると、桐子からのメイルであった。

ちょうど銘子の滞在時期に夏時間から冬時間へと変更されるので

その注意をするように、という内容であった。

飛行機や列車の出発に間に合わなくなるので、これは銘子も

もちろん、しっかりチェックしていた。

先日買っておいたPAULのパンをかじりながら

『大丈夫だよ!』と返信し、しばらくテレビをぼ〜っと

眺めていた銘子はまた着信に気づいた。

また桐子からであった。

『もひとつ。今、France2(ニュース番組)見てたら

 エールフランス(飛行機会社)が大規模なストライキ

 やるみたいよ。

 よかったら銘子さんの便を調べるけど…』

慌てて返信する。

すぐに返事が来た。

『それ…欠航になってる…』

少しだけ血の気が引く。

桐子はともかくフランス語の教師である俊にその旨を

知らせてくれたらしく、すぐに彼からメイルが届く。

『今すぐに空港のチェックインカウンターに行って、

 飛んでいるどの便でもいいから

 振り替えて乗せてもらうよう交渉すること!』

銘子は腹を据えてしっかり化粧し、

荷物をまとめて部屋を出た。

まだ夜が明けきらない暗い中を、ホテル近くから地下鉄で2駅の

Denfert-Rochereau に向かう。

ここからOrly空港まで“Orlybus(オルリー・バス)”が出ているのだ。

勿論、銘子がこのバスを利用するのは初めてである。

この駅は地下鉄とSNCF(フランス国鉄)の駅が

それぞれ隣接しているのだが、銘子はSNCFの駅正面左側の

地下鉄出口から出て来た。

「えっと…バス停は…と」

キョロキョロする銘子に駅の壁際で寝ていたおっちゃんが

声をかけて来た。

「おねえちゃん、Orly行きのバス停探してんの?」


「あ、はい、そうです」

「それやったら、この信号渡ってまっすぐやで!」


「あ、そうですか、ありがとう!」

おっちゃんはニンマリ笑った。

まだ暗いのでその先にバス停があるのかよく見えない。

この際、出会う人みんなに聞いてみる。

向こうからおねえさんが歩いてくるので銘子は尋ねた。

彼女は銘子の今、来た道を指差す。


「えええ〜っ?反対方向ってか?」

すぐさま回れ右して、また次に来た老夫婦に尋ねる。


「あ。あれやで!」

おじいさんが指差したのはSNCFのDenfert-Rochereau駅正面に

停車中のバス!

「げ〜〜〜〜〜っ!」


銘子はダッシュする。

さっきのおっちゃんが騙したのだ。

朝一番のイジワル。

そんなことしたおっちゃんの一日がサイテーになりますように!

発車には間に合って、

何とか銘子は30分後にOrly空港に到着した。

さ、今から本腰入れなきゃ!

気合いを入れて出発口がある2階へと進んだ。

午前7時15分。どこがToulouse行きのカウンターなんだ???

尋ねる係の人も見当たらず、ぐるぐる回っていたら

それっぽい表示が見えた。

列の最後尾の若いおにいさんに聞くと、ビンゴ!そこだった。

そのままおにいさんの真後ろに並ぶ。

チェックイン・カウンターはどれも開いていない。

銘子の前には20人程の人が並んでいて、

最前列の人の前はロープが張ってある。

係の人もいない。交渉すら出来ないではないか。

一人の場合、そういうときに列を離れて周りの様子を見に行くことが

出来ない。列の最後尾に回っても仕方ないと諦めて列を離れるか、

荷物を取られてもいいと覚悟して荷物を列に置いたまま離れるか、

である。

まだ銘子はそのどちらも出来ずにそのまま並び続けた。

午前7時40分。アナウンスが流れる。

それでなくても聞き取りが出来ない銘子なのに、

マイクを通した声は割れていて何を云っているのか

全く聞き取れない。

アナウンスの合間、後ろにいたおっちゃん二人と雑談する。

「大丈夫や、ねえちゃん、いつかToulouseに行けるって!

 おっちゃんが約束するわ!」

「あかんねんて!私は今日中にToulouse経由でNarbonneまで

 行かなあかんねん!」

「お〜、そりゃそりゃ…」

「でも、この放送何云ってんのか聞き取られへん!

 私、フランス語がよう分からへんから…」

おっちゃん達に愚痴を云っても仕方ないのだが、

つい云ってしまう。


すると、その後から流れるアナウンスに耳を傾ける銘子に

真後ろのおっちゃんは、聞く必要がないものだと

「違う!関係ない!」


と知らせてくれるようになった。


ただ、その知らせ方が徐々に変わって来たのが気になったのだが。

最初は、後ろで

「違う!これはMarseille(マルセイユ)便の(アナウンス)!」と

云ってくれていただけなのに、徐々に、銘子の肘を引っ張って、

更に引き寄せて、顔を近づけて「違うよ」と云うようになったのだ。

確認できたらすぐにおっちゃんと距離を置くのだが、

列が長くなるにつれ、徐々に前と後ろの間隔が狭められてくる。

アナウンスがないのに、おっちゃんが銘子の肘を引く。

「フランス人の恋人が出来たら、フランス語上手になるよ♪」


「あっそ」


出来るだけ離れる。

待つこと2〜3時間、係のおねえさんが出て来て一言云った。

「本日のToulouse行きの便は一本もございません。

 お帰りください」

えええ〜〜〜〜っ!

混乱した銘子に文章が浮かぶはずがない。

「aucun?aucun???」

(全くないの?一便もないの???…のつもり)


後ろのおっちゃん達にただこの言葉を繰り返すと

「しゃあないなあ。今日はあかんわ」

と首をすくめていた。

でた〜〜〜〜っ!アクシデント。


銘子の旅程は、その日に飛行機でToulouseに向かい、

TGVでNarbonneへ、そこで一泊して

翌日にTGVでCarcassonneへ行ってそこでまた一泊して

翌日TGVでToulouseに戻って

飛行機でParisに戻るというものだった。

しかし、ストライキはその日から3日は続くと云われていた。

帰りの便もあやしい…。

どうしよう、混乱を避けてこのままParisに残るか?

もちろん、予約してあるNarbonneとCarcassonneの

ホテルの宿泊代はキャンセル料として取られてしまう、

しかもこれからParisのホテルを手配しなくてはならない。

思わず携帯を取り出してとにかく誰かに連絡を取ろうとして

…気づいた。

電池の残り時間がない!赤ランプが点灯している!

さらに追い討ちをかけるごとく、銘子は気づいた。

携帯の充電器をParisのホテル(3日後に戻る予定の)に

置いて来てしまっている!!

これから3日の間、日本との緊急連絡が取れなくなる!!

(まあ、公衆電話を使えばいいんだけどね)

とりあえず、携帯の電源を切り、電力を温存することにした。

銘子の顔から血の気がグングン引いて行く。

「さて、どうすんの?」

さっきから馴れ馴れしい方のおっちゃんが銘子に聞いて来た。

もう一人のおっちゃんはすでにそこにはいなかった。

「わしは火曜日までParisにいることにするけど、

 君はどうすんの?」


なぜかウインクしている。

ボツボツと周りの人がその場からいなくなっていく。


さあ、どうする?銘子!早く決めなければ!!


posted by 小池 紫 at 22:14| Comment(0) | TrackBack(0) | 旅行記
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