二項対立のなかで揺れながら平和を維持する
改めて、『本当の戦争の話をしよう 世界の「対立」を仕切る』の話をうかがいたいのですが、伊勢﨑さんのこれまでの著作と違うのは、高校生、しかも東日本大震災直後の福島の子どもたちと対話しているところですよね。こういうかたちで本をつくられて、どうでしたか?
伊勢﨑:やってよかったなという気持ちと、ここまでやっちゃったら次に何をつくったらいいんだろう、という気持ちがありますね。いま、空白状態なんです。これと同じ気持ちを、前にも味わったことがあります。NHKの「ようこそ先輩」に出た時です。母校の小学校で戦争の現実を伝えるなんて……と最初は断りました。でもけっきょく引き受けて、子どもたちに一国の国会議員としてロールプレイをしてもらったら、おもしろい授業になりました。
どういったことをやってもらったんですか?
東京外国語大学大学院総合国際学研究科教授。1957年東京都生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科修士課程修了。インド留学中、スラム住民の居住権獲得運動を組織。その後、国際NGOに在籍し、アフリカで開発援助に携わる。国連PKO幹部として東ティモール暫定政府の知事、シエラレオネで武装解除、アフガニスタンでは日本政府特別代表として同じく武装解除を指揮する。最新刊は『本当の戦争の話をしよう 世界の「対立」を仕切る』(朝日出版社)。その他の著書に『インド・スラム・レポート』(明石書店)、『東チモール県知事日記』(藤原書店)、『武装解除』(講談社現代新書)、『アフガン戦争を憲法9条と非武装自衛隊で終わらせる』(かもがわ出版)、『国際貢献のウソ』(ちくまプリマー新書)、『紛争屋の外交論』(NHK出版新書)、『伊勢崎賢治の平和構築ゼミ』(大月書店)、『日本人は人を殺しに行くのか』(朝日新書)などがある。アフガニスタンでトランペットを始め、定期的にジャズライブを開催している。(写真:大槻純一、以下同)
伊勢﨑:我々の国は民主国家なので、戦争するとしたら民主主義がそれを決定するのです。つまり、人を殺すという選択を多数決でするのですね。その問題を取り扱いました。多数決というのは、社会が前に進む上で大切なものですが、人を殺すこともある、と。つまり、工作で使うナイフのようなものだと。極度の緊張で臨んだこの授業のあとも、かなり放心状態になりましたね。子どもに、ウソはつけませんから。
大人を相手に話すよりも、大変ですね。