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さようなら竜生、こんにちは人生 作者:スペ / 永島 ひろあき

第一話 死と生 ダイジェスト化

 さようなら竜生 こんにちは人生

第一話 死と生

 月の美しい夜だ、と私は空を見上げながら思った。思い返せばこの様に落ち着いた心持ちで空を見上げる事も久しい。
 空を仰ぎ見る視線を下げれば、不躾に私の住まいに足を踏み入れた七つの人影が映る。
怪物を討つには千人の兵士よりも一人の英雄の方が相応しいが、この七人はいずれも突出した力と英知を兼ね備えた英雄達だ。

 私は人間達の先頭に立つ青年を見つめ、口を開いた。
 同時に血の味が口の中に広がり、溢れた血が私の口から滴り落ちて水晶が形作る地面に赤い血だまりをいくつも作る。
 ほう、血の味など久しぶりに味わう。その事が、奇妙に嬉しかった。なにかを感じると言う事それじたいが私にとっては久しぶりのことなのだ。

「私の記憶に在る限り、討伐されるような真似をしたことはなく、むしろ人間の味方をした事もあったと思うのだが、これはいかなる理由あっての所業か?」

 私の心臓を貫いたばかりの剣を握る青年――世界でもっとも名の知られた勇者は、英雄譚で語り継がれるのに相応しい美貌に苦悩の色を浮かべる。
 私を討つ事は彼の本意ではないとそれだけでわかる。
 ならば勇者に命令する事の出来る立場の人間からの逆らえぬ命令。繁栄の極みに在る人間達にとっては、私の様な存在は目の上のたんこぶと言う奴には違いあるまい。

「わざわざ討伐などせずとも出て行けと言えば出て行くものを。勇者よ、そなたの手に在る剣を作る為に一体どれだけの財と時を用いたのだ。
 それを作る手間や資源で、いったいどれだけの人間を救えたかとは考えないのか?」

 勇者達とは何度か面識はあり、かつて共闘した縁もあって勇者とその仲間達が善良な心根の主である事を、私は知っている。
 そのような人間なら、こう言った物言いの方が堪えよう。私の命を奪うのだから、この程度の嫌みを言う権利くらいはあるだろう? 
 ふむ、ずいぶんと瞼が重くなってきた。

 戦闘開始当初に勇者の仲間の魔法使いが展開した生命力を吸収する魔法の影響と、心臓を貫いた勇者の竜殺しの剣の一撃によるものだ。
 やれやれカビの生えた古臭い生き物を一匹殺す為だけに、よくもこれだけ手の込んだ事をするものだ、と私は正直呆れていた。

「心せよ、勇者よ、その仲間たちよ。人間の心は尊く美しい。人間の心は卑しく醜い。いやさ、やはりそなたらはいまだ人と獣の間、人間よな。
 役に立たぬとなれば私のようにそなたらも排斥されよう。一度は肩を並べたそなたらの事、私と同じ結末を迎えるとあっては心苦しい。
 死に行く老竜の最後の忠告。しかと聞き入れよ、小さき友たちよ」

※ 以下ダイジェスト

 七人の勇者たちに討たれた「私」は、目を覚ました時、人間の女性のおなかの中にいた。
 死を受け入れていた私だったが、自分の誕生を人間の父母が望んてくれていることから、落胆させては申し訳ないと思い人間として生まれることにした。
 そうして生まれた私は、父母たちから向けられる無償の愛や慈しみに触れて、生きることの喜びを感じ、人間として生きることを決める。
ご感想でご指摘を受けまして、ドランが母親のお腹の中にいる間に、自分が人間に生まれ変わった事に気づき、外の世界に干渉していた描写に修正いたしました。
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