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7万棟の廃屋、空き家は「宝の山」 荒廃したデトロイトを支えるリサイクル事業

ニュースカテゴリ:政策・市況の海外情勢

7万棟の廃屋、空き家は「宝の山」 荒廃したデトロイトを支えるリサイクル事業

配信元:ブルームバーグ

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米デトロイトの空き屋で解体作業を行う男性。同市では老朽化した建物からの回収資源をビジネスチャンスに変える試みが進められている(ブルームバーグ)  デトロイトにある7万の廃屋は、起業家にとっては宝の山だ。築100年の建物に使われている木材、レンガ、ガラスなどがリサイクルされ、テラリウム(植物の栽培や小動物の飼育に使うガラスの容器)やギターに姿を変えている。

 がれきリサイクル

 非営利団体リクレイム・デトロイトでエグゼクティブ・ディレクターを務めるクレイグ・バーテリアン氏(55)は「宝探しのようなものだ」と語る。同団体は解体する住宅の資材の回収・加工・販売などを行い、すでに70棟ほどを手がけた。20世紀初期に作られたカエデ、ウォールナッツ、ヒッコリー、モミ、クリなどの床材は、よく締まっていて木目が美しい点が評価されている。

 デトロイトで空き家の解体作業が進んでいることを受け、マイク・ダガン市長は市が所有する建物を拠点に資源を回収し、雇用や商業取引を生み出すための再利用センターの設立を計画している。同市において、リサイクル事業は財源確保に苦慮している廃屋撤去活動の中核を担うに違いない

 典型的な地下室つき住宅を解体すると、約400トンのがれきが生じる。つまりデトロイトのすべての空き家を解体すれば、2800万トンのがれきが出ることになる。

 同市の人口は1950年代の180万人から近年では70万人未満に減少しており、約360平方キロメートルの市内は荒廃が目立つ。老朽化した建物からの回収資材の再利用は他の都市でも行われているが、デトロイトの荒廃の規模はあまりに大きい。そこで起業家、企業、家屋のリフォーム業者らが、回収された木材や壁材を「自動車の町」の歴史を語るものとみなして無限のビジネスチャンスに変えている。

 バーテリアン氏は「デトロイトのがれきをマーケティングの道具として活用するという手法が流行している。デトロイトは新たなブランドだ」と述べた。

 デトロイトは負債総額180億ドル(約2兆1604億円)を抱えて財政破綻し、2014年12月に破産法の管理から脱した。再建タスクフォースの調査によると、同市には14年時点で7万8000棟以上の空き家がある。これらをすべて解体するには8億5000万ドルが必要だ。

 デトロイト・ビルディング・オーソリティーのプロジェクトディレクターのブライアン・ファーカス氏によると、同市は今年4月までに連邦政府の支援金1億ドルの半分を使って4000棟の建物を取り壊し、さらに年内に3300棟を解体する予定である。

 ダガン市長は、支援金以外にも解体作業の資金を調達することを目指している。活動の支援者によると、解体現場で出る資材のリサイクルによって雇用が生まれ、今では地元産業の支えになっている。

 リクレイム・デトロイトは住宅の取り壊しに携わる非営利団体の一つである。建物の構造を破壊する前に、3日をかけてリサイクル可能な資材を取り出すという。

 木材をリサイクルする非営利団体アーキテトクチュラル・サルベージ・ウェアハウス・デトロイトのエグゼクティブ・ディレクター、クリス・ラザフォード氏は「われわれは13年にデトロイトで事業を始めたが、当時の売り上げは月に9000ドル弱だった。今では月に9万ドルを超える」と述べた。同団体では常勤スタッフが15~18人と、下請け業者、パートタイムの作業員が働いている。向こう1年間で100棟を解体する見通しだという。

 サングラス、ギターに

 デトロイトではすでに多くのレストランや企業でリサイクルの木材が使われているが、それだけでなく、崩壊した都市の残骸が思いもよらないような商品として新たな役割を与えられている。ある起業家は住宅に使われていた木材を用いてサングラスを製作している。

 ゲイリー・ジムニッキ氏(57)とマーク・ウォレス氏(37)はギターを作っている。ウクレレやマンドリンも製作するジムニッキ氏によると、古い木材で作った楽器は豊かなサウンドを生み出すという。通常はふつうの木材でアコースティック・ギターを製作しているが、中には古い住宅の100年物の木材で作った楽器を希望する買い手もいる。

 ジムニッキ氏は1910年に建てられた住宅の木材で製作した4500ドルのギターを見せながら、「過去や遺産を保存する活動に参加できるのは素晴らしいことだ」と述べた。

 このギターのトップは、通常のスプルース材ではなく住宅の天井板だったベイマツ材だ。バックとサイドは床材だったカエデ材である。

 ウォレス氏が製作するのはソリッドボディのエレキギターで、ツーバイフォー工法の住宅から回収した木材を使用している。同氏は「これらの住宅には樹齢の高い木が使用されている。そのため木目が詰まっていて非常に美しい」と述べた。

 デレク・スマートカ氏(40)とチャド・アクリー氏(30)の手にかかれば、ガラスと材木がテラリウムに変身する。両氏は2013年にリード・ヘッド・グラスを立ち上げた。14年には米国で40~190ドルの商品を販売し、50%の利益を得た。スマートカ氏は元ロビー活動家で、アクリー氏は元ファイナンシャル・プランナーである。アクリー氏は「デトロイトとのつながりによって顧客に興味を持ってもらえることが、明らかに事業の急成長に役立っている。デトロイトにはアーティスト同士が助け合う強力なコミュニティーがある」と述べた。(ブルームバーグ Chris Christoff、Alexandra Mondalek)

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