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【社説】

プーチン氏発言 核での脅しに耳を疑う

 ロシアによるウクライナ南部クリミア半島併合一年を前にロシアのプーチン大統領が、欧米介入に備え核戦力を準備していたことを明らかにした。冷戦時代に逆戻りしたような発言には耳を疑う。

 大統領は国営テレビの番組で、昨年三月のクリミア併合の際、核兵器使用を準備するよう指示したことを明らかにした。北大西洋条約機構(NATO)による軍事介入に備えたとし「歴史的にロシアの領土で、危険な状態の住民を見捨てられなかった」と説明した。

 大統領は「どの国も世界的紛争は望んでいない」とも述べた。

 併合一年後で実効支配が進む中での発言は、欧米による、併合への批判や今後の介入をけん制する狙いがあるとみられるが、国連安全保障理事会常任理事国でもある核大国のロシア大統領の発言が広げる脅威や不信、混乱は大きい。

 旧ソ連時代の大量の核弾頭が残されたウクライナは、一九九四年に核拡散防止条約(NPT)に加盟して核廃棄し、米ロはウクライナの独立主権を保証した。プーチン大統領の発言は、この合意を踏みにじるものだ。

 来月にはNPT再検討会議が開かれる。ロシアの「核準備」発言は、イランの核問題解決などにも影を落とし、中東の混乱を加速させ、非核保有国の反発を招いて、核軍縮、核不拡散への国際努力にも水を差しかねない。

 広島、長崎の被爆七十年を迎え、核廃絶実現を目指すわが国にとっても、絶対に許すことのできない暴言だ。

 プーチン大統領はまた、クリミア併合を決意したのはウクライナ政変直後だったとし、住民投票の結果決めたとの主張を覆した。ロシアによる一方的な併合はウクライナの主権に対する侵害だ。さらに同国東部でもロシアは、親ロ派を通じ影響力を強めている。

 ウクライナ東部の戦闘で米国は武器供与も検討するが、ドイツ、フランスの仲介で先月、停戦合意にこぎつけた。来日したメルケル独首相は「私たちは外交的解決策を模索している」と強調した。プーチン大統領の強硬姿勢はなお続きそうだが、戦火を拡大させないため、今後も粘り強い平和解決への取り組みを続けたい。

 日本や欧米各国は、ロシアによるクリミア併合を認めていない。鳩山由紀夫元首相は今月、クリミアを訪問し、併合を肯定的に評価したが、国際社会の結束を乱す行為は慎みたい。

 

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