角田美代子の川村家・大江家に対する乗っ取り行為の経緯です。
基本的に元ソース記事の検索を容易にするため、当サイトに掲載している断片的な新聞記事ソースなどの切り貼り編集によって構成しており、文体や呼称などが統一されていないなど不自然な点はあらかじめ御了承願います。
また新聞記事によって出来事の発生時期、期間などが異なっていたり、内容も食い違うものもあり、必ずしも全ての新聞記事を正確に反映しているものではありません。
■川村家と角田美代子の出会い
２００９年４月「孫を乗せたベビーカーが電車の扉に挟まれた」と美代子が大手私鉄にクレームをつけた。このとき私鉄側の担当者として対応したのが川村博之だった。謝罪のため、川村博之は上司と２人で何度も美代子の自宅マンションに足を運んだ。美代子は口がたつ上に威圧的で、恐怖を感じたこともあった。話し合いにいとこの男（李正則）も同席し、角田被告から「元ヤクザ。怒らせたら何するかわからん」と脅された。ようやく解決したのは半年後の秋のことだった。
だが、その夏、クレーム処理のさなかであるにもかかわらずなぜか川村は妻の裕美（４１）を連れて、美代子のマンションへ遊びに行っている。その時の状況を川村は後の法廷で「（美代子に）応対中、時計をちらりとも見ず、真剣に対応する姿勢に感心していると言われた。少し気に入られ、不満や相談を打ち明けるようになった」と振り返っている。また、知り合った直後に「子どもが見たい」と言われ、１年後には小学生だった２人の子どもだけで、美代子の自宅マンションへ遊びに行くようになったという。
■次第に川村家に介入していく美代子
川村博之は美代子に「夢はないのか」と問われ、「家族で喫茶店をやりたい」と話すと、知り合いを紹介し土地を探してくれた。「今の年齢なら最後のチャンスや」。熱心に退職を勧められ、迷うそぶりを見せると「いまさら何を言うとる。決断できん男は最低や」と責められた。川村は後に引けなくなった。翌１０年４月、喫茶店開業を目指し２０年間勤めた私鉄を退職する。美代子から高級食器を贈られ、恩すら感じていた。しかし、捜査関係者などによると、開店資金となるはずの約９００万円の退職金の一部や消費者金融からの借金数百万円は角田容疑者に渡っていた。退職の際には、角田容疑者が川村容疑者の会社に乗り込み、「なんで辞めさせへんねん」などと担当者に詰め寄ったという。
■川村家・大江家を乗っ取る美代子
「退職したら競馬はやめる」。１０年夏、川村が妻の裕美と交わした約束を破ったのがばれた。裕美は美代子に相談し、さらに夫の浮気話を打ち明けた。ここで美代子が豹変した。裕美とともに川村に離婚を迫った。１０年の秋、川村と妻の裕美（４１）の離婚問題をめぐって家族会議が開かれるようになると、子どもたちは学校に通わなくなった。そればかりか「角田さんの子になりたい」と訴えた。美代子被告は川村被告の２人の娘を自宅マンションで預かるようになり、家族は崩壊状態になった。子どもたちが美代子の影響下に置かれたことで、家族の崩壊は加速度を増していく。裕美は当時マルチ商法を手がけていた。その社名をもじり、子どもたちは母親を「○×星人（せいじん）」と呼んだ。父親は「川村」、祖母の和子のことは「ばばあ」。裕美をたたくこともあった。そして同年１１月に離婚する。その年の１２月、裕美と離婚した川村は自宅を出て、美代子のマンションの脇にあるワンルームに引っ越した。
１０年暮れ、「本当は妻と喫茶店をしたかった」という川村被告の一言に、「話を蒸し返した」と激高し、自宅に川村被告と元妻を呼んで、連日のように「家族会議」を開いた。大江和子と裕美の姉の香愛、川村被告の兄（４５）も巻き込まれた。 「美代子被告が怒り出すと『殺されるのでは』と思った。人生で感じたことのない恐怖だった」。兄は、家族がからめ捕られていった会議をこう振り返る。また、親族によると、家族会議は２０１０年１０月−１１年２月、美代子被告宅などで十数回開催。美代子被告の義理の娘、角田瑠衣被告（２７）＝窃盗罪で公判中＝と李正則受刑者（３８）も同席。美代子被告が呼び出して会話を仕切る形で進行し、帰宅や仕事を理由に欠席することは許されなかった。
美代子被告は川村被告の２人の娘を自宅マンションで預かった。「人質」を取られ、「生活費はどないするんや」と迫られた両親は借金を重ねた。午後８時に始まった会議が翌日の昼まで続くこともあった。「最後は美代子被告の意に沿う答えを探して、早く終わらせることだけを考えていた」と（川村博之の）兄は言う。
やがて会議のテーマは子どもの養育と、二世帯住宅の処分に絞られた。話し合いは朝まで続き、疲れ果てて居眠りすると、美代子に怒鳴られた。川村が「もう一度、裕美とやり直したい」と言ったときのことだ。美代子は「マサ、殴ったれ」と李正則に命じた。これを境に、会議に暴力が加わるようになる。矛先は裕美にも向かった。「子どもを虐待していたやろ」。連日の家族会議で意識がもうろうとする中、裕美が認めると、美代子は「責任を取って死ね」とののしり、殴った。「他人の私が殴っているのに知らんぷりか。身内がやらなあかんやろ！」この言葉で家族は互いを責め、殴り合うようになる。誰が責め、誰が責められているのか分からない。何も考えられず、言われるままに暴力を振るう。そんな異様な光景が川村家の日常となっていった。川村被告の母親が周囲から長時間立っているよう命じられたり、父親が張り倒されたりしたこともあった。暴力もエスカレートした。美代子被告は「私には『実動部隊』が何百人もいる」と、いとこの李正則被告（３８）を呼んで、川村被告と元妻を顔が腫れるほど殴らせた。兄は警察への通報を勧めたが、川村被告は「言いなりになるしかあらへん」と抵抗する気力を失っていた。
川村被告の親族は１１年２月に勤務先や親戚宅に避難し、川村被告との連絡を絶った。親族は取材に「私は何とか追跡を振り切ったが、同じ立場だった和子さんや香愛被告は最後まで逃れられなかった」と話した。
■さらにエスカレートする美代子らの虐待行為でついに死者が出る
１１年４月からは香愛、裕美両容疑者と裕美の次女は次々に川村容疑者のワンルームマンションに移り住んだ。大江和子は「一緒に暮らしていけない」と同居に抵抗して、一時は東京の親類宅に身を寄せたが、川村容疑者に強引に連れ戻され、１１年６月末ごろからワンルームマンションの一室で再び同居生活が始まった。裕美の長女だけは美代子と生活を続けた。睡眠や食事、トイレは角田被告の許可が必要で、指示を破れば、いとこの男が暴行し、公園に一日中立たされる「罰」もあった。角田被告は指示を守らなかった家族に別の家族が暴力を振るうようにした。
ワンルームでも家族会議は続いた。「子育てなどあれやこれやと反省させ、一人一人に自分が悪いと総括させた」と捜査関係者。８畳一間は壮絶な暴力の場と化していく。美代子が暴行に使ったとされるのが、通信販売のカタログを固く丸めた「しばき棒」だ。これで目や口を突く。耳が裂け、唇が切れ、かさぶたになるとまた突いた。自分がいないときは、発言や暴行を記録した「報告メモ」を提出させた。納得のいかない発言を見つけると「なんで、たたいてへんのや」と追い込んだ。全員が外出を禁じられた。さらに８月ごろ、内鍵のダイヤル錠が取り付けられた。川村は１年足らずの間に体重が１５キロ減り、「寝ないで話し合いを続け、食事をする気にもなれなかった」と証言。ある捜査員は「疲弊しきって思考能力が奪われていたのだろう」と分析する。そのうちに暴力が和子に集中するようになった。川村はその理由を「すぐに居眠りをして会議が進まなくなったから」と法廷で述べている。
そしてこうした暴行、虐待の末に、２０１１年９月１１日ごろ、和子が死亡する。６６歳だった。９月１６日、川村は美代子の片腕の李正則（３８）とともにドラム缶とセメントを買い、近くの倉庫で和子を詰めて遺棄する。
■大江香愛が逃走し警察に駆け込む、そして逮捕される美代子。
大江和子の長女の香愛容疑者（４４）は２０１１年１０月３０日未明、ワンルームマンション２階で同居する次女の裕美容疑者の元夫、川村博之（４２）と隣のマンションに住む知人の角田美代子（６３）の両容疑者とともに、乗用車の中にいた。香愛容疑者は川村容疑者に何度も顔面を殴られ、左目の上にたばこの火を押しつけられた。香愛容疑者はそのままワンルームマンションの居室に押し込められた。暗証番号付きの内鍵をかけられると、両手首と両手足を粘着テープで巻かれた。脱出しようにも内鍵の暗証番号は教えてもらっていなかった。川村容疑者も部屋に残っていた。
気付くと川村容疑者が眠っていた。隙を突き、両手首に巻き付けられた布テープを、咬（か）みちぎった。香愛容疑者は同午前８時ごろ、２階の窓から飛び降り脱出できた。ただ、すぐさま近くの警察署や交番に駆け込んだわけではない。大阪市内のホテルに２泊し、４日後の１１月３日夜、なぜか少し離れた大阪市北区の交番に向かった。
「妹夫婦がトラブルになって、母親（大江さん）が死んだ」
香愛容疑者が交番で最初に相談したのは、こんな内容だった。確かに香愛容疑者は顔を負傷している。大阪府警は話に信憑性があると判断し、尼崎市を管轄する兵庫県警に連絡する。
香愛の逃亡で事件の発覚を恐れたのだろうか。美代子は別の手下仲間に指示し大江和子の遺体の入ったドラム缶と、同じ場所に一緒に保管されていたもう一つの死体（橋本次郎）の入ったドラム缶を別の場所に移動させ、すぐに川村に遺書を書かせている。「和子の遺体処理は全部私がやりました。遺体を詰めたドラム缶は尼崎港に捨てました。私の資産管理は角田さんにお願いします」自殺するしかない。１１月４日夜、川村と裕美は気持ちを固め、小学生の次女とともに尼崎市内の駐車場に止めた車の中にいた。そこへ、行方を追っていた兵庫県警の捜査員が急行、身柄を確保し、間一髪で自殺を食い止めた。並んで止まっていた車には美代子被告らが乗っていた。「最期を見届けようとしたのだろう。もう少し遅ければ、一連の事件は闇に葬り去られていたかもしれない」と捜査幹部は語る。裕美は耳が欠け、唇はえぐれていた。話しかけても、放心したように無表情だったという。そして同日、香愛容疑者に対する傷害容疑で川村博之、角田美代子の両容疑者を逮捕した。
■川村家・大江家のその後
川村容疑者は逮捕から間もなく、大江さんの遺体を遺棄したことを認めた。県警の捜査員らは１１月７日深夜、家族のマンションから約６００メートル離れた貸倉庫でコンクリートが詰まったドラム缶を発見。（大江和子の死体の入ったドラム缶は美代子の親族らによって一旦は別の場所に移動させられたが、川村博之の逮捕を受け、他の事件の発覚を防ぐためにあえて発見されるように既に元の場所に戻されていた）９日にコンクリートを除去すると、底の部分に大江さんの変わり果てた姿があった。和子の遺体はやせ細り、司法解剖の結果、肋骨３本とのどの骨の一部が折れていた。胸や腹に暴行を受け、のどを圧迫されたとみられる。県警は１１月２６日、死体遺棄容疑で川村、角田両容疑者を再逮捕した。さらに、驚くことに傷害事件で被害者だった長女の香愛容疑者も、死体遺棄事件では次女の裕美容疑者（４１）、角田容疑者と同居する親族の男、李正則（３７）とともに新たに逮捕された。発覚時に被害者だった香愛容疑者は、いつの間にか容疑者に立場を変えていた。川村博之の長女は当時住んでいた角田美代子のマンションに現れた捜査員を見て「いやだ、いやだ」と叫んだという。２人の子どもは今、児童相談所に保護されている。そして２０１２年２月２９日に角田美代子と川村博之、大江裕美、大江香愛は大江和子に対する傷害致死などの罪で起訴される。
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基本的に元ソース記事の検索を容易にするため、当サイトに掲載している断片的な新聞記事ソースなどの切り貼り編集によって構成しており、文体や呼称などが統一されていないなど不自然な点はあらかじめ御了承願います。
また新聞記事によって出来事の発生時期、期間などが異なっていたり、内容も食い違うものもあり、必ずしも全ての新聞記事を正確に反映しているものではありません。
略図は美代子に介入される直前時のもの
■川村家と角田美代子の出会い
２００９年４月「孫を乗せたベビーカーが電車の扉に挟まれた」と美代子が大手私鉄にクレームをつけた。このとき私鉄側の担当者として対応したのが川村博之だった。謝罪のため、川村博之は上司と２人で何度も美代子の自宅マンションに足を運んだ。美代子は口がたつ上に威圧的で、恐怖を感じたこともあった。話し合いにいとこの男（李正則）も同席し、角田被告から「元ヤクザ。怒らせたら何するかわからん」と脅された。ようやく解決したのは半年後の秋のことだった。
だが、その夏、クレーム処理のさなかであるにもかかわらずなぜか川村は妻の裕美（４１）を連れて、美代子のマンションへ遊びに行っている。その時の状況を川村は後の法廷で「（美代子に）応対中、時計をちらりとも見ず、真剣に対応する姿勢に感心していると言われた。少し気に入られ、不満や相談を打ち明けるようになった」と振り返っている。また、知り合った直後に「子どもが見たい」と言われ、１年後には小学生だった２人の子どもだけで、美代子の自宅マンションへ遊びに行くようになったという。
■次第に川村家に介入していく美代子
川村博之は美代子に「夢はないのか」と問われ、「家族で喫茶店をやりたい」と話すと、知り合いを紹介し土地を探してくれた。「今の年齢なら最後のチャンスや」。熱心に退職を勧められ、迷うそぶりを見せると「いまさら何を言うとる。決断できん男は最低や」と責められた。川村は後に引けなくなった。翌１０年４月、喫茶店開業を目指し２０年間勤めた私鉄を退職する。美代子から高級食器を贈られ、恩すら感じていた。しかし、捜査関係者などによると、開店資金となるはずの約９００万円の退職金の一部や消費者金融からの借金数百万円は角田容疑者に渡っていた。退職の際には、角田容疑者が川村容疑者の会社に乗り込み、「なんで辞めさせへんねん」などと担当者に詰め寄ったという。
■川村家・大江家を乗っ取る美代子
「退職したら競馬はやめる」。１０年夏、川村が妻の裕美と交わした約束を破ったのがばれた。裕美は美代子に相談し、さらに夫の浮気話を打ち明けた。ここで美代子が豹変した。裕美とともに川村に離婚を迫った。１０年の秋、川村と妻の裕美（４１）の離婚問題をめぐって家族会議が開かれるようになると、子どもたちは学校に通わなくなった。そればかりか「角田さんの子になりたい」と訴えた。美代子被告は川村被告の２人の娘を自宅マンションで預かるようになり、家族は崩壊状態になった。子どもたちが美代子の影響下に置かれたことで、家族の崩壊は加速度を増していく。裕美は当時マルチ商法を手がけていた。その社名をもじり、子どもたちは母親を「○×星人（せいじん）」と呼んだ。父親は「川村」、祖母の和子のことは「ばばあ」。裕美をたたくこともあった。そして同年１１月に離婚する。その年の１２月、裕美と離婚した川村は自宅を出て、美代子のマンションの脇にあるワンルームに引っ越した。
１０年暮れ、「本当は妻と喫茶店をしたかった」という川村被告の一言に、「話を蒸し返した」と激高し、自宅に川村被告と元妻を呼んで、連日のように「家族会議」を開いた。大江和子と裕美の姉の香愛、川村被告の兄（４５）も巻き込まれた。 「美代子被告が怒り出すと『殺されるのでは』と思った。人生で感じたことのない恐怖だった」。兄は、家族がからめ捕られていった会議をこう振り返る。また、親族によると、家族会議は２０１０年１０月−１１年２月、美代子被告宅などで十数回開催。美代子被告の義理の娘、角田瑠衣被告（２７）＝窃盗罪で公判中＝と李正則受刑者（３８）も同席。美代子被告が呼び出して会話を仕切る形で進行し、帰宅や仕事を理由に欠席することは許されなかった。
美代子被告は川村被告の２人の娘を自宅マンションで預かった。「人質」を取られ、「生活費はどないするんや」と迫られた両親は借金を重ねた。午後８時に始まった会議が翌日の昼まで続くこともあった。「最後は美代子被告の意に沿う答えを探して、早く終わらせることだけを考えていた」と（川村博之の）兄は言う。
やがて会議のテーマは子どもの養育と、二世帯住宅の処分に絞られた。話し合いは朝まで続き、疲れ果てて居眠りすると、美代子に怒鳴られた。川村が「もう一度、裕美とやり直したい」と言ったときのことだ。美代子は「マサ、殴ったれ」と李正則に命じた。これを境に、会議に暴力が加わるようになる。矛先は裕美にも向かった。「子どもを虐待していたやろ」。連日の家族会議で意識がもうろうとする中、裕美が認めると、美代子は「責任を取って死ね」とののしり、殴った。「他人の私が殴っているのに知らんぷりか。身内がやらなあかんやろ！」この言葉で家族は互いを責め、殴り合うようになる。誰が責め、誰が責められているのか分からない。何も考えられず、言われるままに暴力を振るう。そんな異様な光景が川村家の日常となっていった。川村被告の母親が周囲から長時間立っているよう命じられたり、父親が張り倒されたりしたこともあった。暴力もエスカレートした。美代子被告は「私には『実動部隊』が何百人もいる」と、いとこの李正則被告（３８）を呼んで、川村被告と元妻を顔が腫れるほど殴らせた。兄は警察への通報を勧めたが、川村被告は「言いなりになるしかあらへん」と抵抗する気力を失っていた。
川村被告の親族は１１年２月に勤務先や親戚宅に避難し、川村被告との連絡を絶った。親族は取材に「私は何とか追跡を振り切ったが、同じ立場だった和子さんや香愛被告は最後まで逃れられなかった」と話した。
■さらにエスカレートする美代子らの虐待行為でついに死者が出る
１１年４月からは香愛、裕美両容疑者と裕美の次女は次々に川村容疑者のワンルームマンションに移り住んだ。大江和子は「一緒に暮らしていけない」と同居に抵抗して、一時は東京の親類宅に身を寄せたが、川村容疑者に強引に連れ戻され、１１年６月末ごろからワンルームマンションの一室で再び同居生活が始まった。裕美の長女だけは美代子と生活を続けた。睡眠や食事、トイレは角田被告の許可が必要で、指示を破れば、いとこの男が暴行し、公園に一日中立たされる「罰」もあった。角田被告は指示を守らなかった家族に別の家族が暴力を振るうようにした。
ワンルームでも家族会議は続いた。「子育てなどあれやこれやと反省させ、一人一人に自分が悪いと総括させた」と捜査関係者。８畳一間は壮絶な暴力の場と化していく。美代子が暴行に使ったとされるのが、通信販売のカタログを固く丸めた「しばき棒」だ。これで目や口を突く。耳が裂け、唇が切れ、かさぶたになるとまた突いた。自分がいないときは、発言や暴行を記録した「報告メモ」を提出させた。納得のいかない発言を見つけると「なんで、たたいてへんのや」と追い込んだ。全員が外出を禁じられた。さらに８月ごろ、内鍵のダイヤル錠が取り付けられた。川村は１年足らずの間に体重が１５キロ減り、「寝ないで話し合いを続け、食事をする気にもなれなかった」と証言。ある捜査員は「疲弊しきって思考能力が奪われていたのだろう」と分析する。そのうちに暴力が和子に集中するようになった。川村はその理由を「すぐに居眠りをして会議が進まなくなったから」と法廷で述べている。
そしてこうした暴行、虐待の末に、２０１１年９月１１日ごろ、和子が死亡する。６６歳だった。９月１６日、川村は美代子の片腕の李正則（３８）とともにドラム缶とセメントを買い、近くの倉庫で和子を詰めて遺棄する。
■大江香愛が逃走し警察に駆け込む、そして逮捕される美代子。
大江和子の長女の香愛容疑者（４４）は２０１１年１０月３０日未明、ワンルームマンション２階で同居する次女の裕美容疑者の元夫、川村博之（４２）と隣のマンションに住む知人の角田美代子（６３）の両容疑者とともに、乗用車の中にいた。香愛容疑者は川村容疑者に何度も顔面を殴られ、左目の上にたばこの火を押しつけられた。香愛容疑者はそのままワンルームマンションの居室に押し込められた。暗証番号付きの内鍵をかけられると、両手首と両手足を粘着テープで巻かれた。脱出しようにも内鍵の暗証番号は教えてもらっていなかった。川村容疑者も部屋に残っていた。
気付くと川村容疑者が眠っていた。隙を突き、両手首に巻き付けられた布テープを、咬（か）みちぎった。香愛容疑者は同午前８時ごろ、２階の窓から飛び降り脱出できた。ただ、すぐさま近くの警察署や交番に駆け込んだわけではない。大阪市内のホテルに２泊し、４日後の１１月３日夜、なぜか少し離れた大阪市北区の交番に向かった。
「妹夫婦がトラブルになって、母親（大江さん）が死んだ」
香愛容疑者が交番で最初に相談したのは、こんな内容だった。確かに香愛容疑者は顔を負傷している。大阪府警は話に信憑性があると判断し、尼崎市を管轄する兵庫県警に連絡する。
香愛の逃亡で事件の発覚を恐れたのだろうか。美代子は別の手下仲間に指示し大江和子の遺体の入ったドラム缶と、同じ場所に一緒に保管されていたもう一つの死体（橋本次郎）の入ったドラム缶を別の場所に移動させ、すぐに川村に遺書を書かせている。「和子の遺体処理は全部私がやりました。遺体を詰めたドラム缶は尼崎港に捨てました。私の資産管理は角田さんにお願いします」自殺するしかない。１１月４日夜、川村と裕美は気持ちを固め、小学生の次女とともに尼崎市内の駐車場に止めた車の中にいた。そこへ、行方を追っていた兵庫県警の捜査員が急行、身柄を確保し、間一髪で自殺を食い止めた。並んで止まっていた車には美代子被告らが乗っていた。「最期を見届けようとしたのだろう。もう少し遅ければ、一連の事件は闇に葬り去られていたかもしれない」と捜査幹部は語る。裕美は耳が欠け、唇はえぐれていた。話しかけても、放心したように無表情だったという。そして同日、香愛容疑者に対する傷害容疑で川村博之、角田美代子の両容疑者を逮捕した。
■川村家・大江家のその後
川村容疑者は逮捕から間もなく、大江さんの遺体を遺棄したことを認めた。県警の捜査員らは１１月７日深夜、家族のマンションから約６００メートル離れた貸倉庫でコンクリートが詰まったドラム缶を発見。（大江和子の死体の入ったドラム缶は美代子の親族らによって一旦は別の場所に移動させられたが、川村博之の逮捕を受け、他の事件の発覚を防ぐためにあえて発見されるように既に元の場所に戻されていた）９日にコンクリートを除去すると、底の部分に大江さんの変わり果てた姿があった。和子の遺体はやせ細り、司法解剖の結果、肋骨３本とのどの骨の一部が折れていた。胸や腹に暴行を受け、のどを圧迫されたとみられる。県警は１１月２６日、死体遺棄容疑で川村、角田両容疑者を再逮捕した。さらに、驚くことに傷害事件で被害者だった長女の香愛容疑者も、死体遺棄事件では次女の裕美容疑者（４１）、角田容疑者と同居する親族の男、李正則（３７）とともに新たに逮捕された。発覚時に被害者だった香愛容疑者は、いつの間にか容疑者に立場を変えていた。川村博之の長女は当時住んでいた角田美代子のマンションに現れた捜査員を見て「いやだ、いやだ」と叫んだという。２人の子どもは今、児童相談所に保護されている。そして２０１２年２月２９日に角田美代子と川村博之、大江裕美、大江香愛は大江和子に対する傷害致死などの罪で起訴される。
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