2015年3月24日(火)

東電福島第一原発 廃炉作業に初めて密着

大越
「長い道のりの入り口に立ったばかりの東京電力福島第一原発の廃炉作業。
1日に7,000人が作業にあたっています。
私たちの番組では、原発の敷地内に何度か取材に入って、除染などによって作業環境の改善が進んでいることをお伝えしてきました。
とはいえ廃炉の最前線は、依然、高い放射線量との戦いです。」

井上
「今回、取材班がその作業の様子を初めて密着取材しました。
危険を回避する懸命の努力、さまざまな制約。
苦闘する作業員の姿です。」

福島第一原発の廃炉作業 密着取材で見えたのは?

今回初めて許された、廃炉作業の現場の密着取材。
取材班がまず向かったのは、作業員たちの詰め所でした。
そこには大勢の作業員が集まっていました。
原発の敷地内ですが、防護服は必要ないといいます。


ここは原子炉建屋から最も離れた一角。
事故発生直後に比べ、放射線量が大幅に下がった場所の1つなのです。




集まっていたのは協力企業10社ほどのおよそ200人。
作業開始を前に綿密な打ち合わせが行われていました。

「現場の合図が聞き取りにくいので、合図、連絡をよく確認して作業に当たりたい。」

現場では顔全体を覆う防護マスクを着けるため、指示や合図はよく聞こえません。
効率よく作業を行うには事前の打ち合わせが欠かせないのです。
しかも、この作業員たちが向かう現場は今も線量が高く、作業できるのは最長で3時間まで。

「右よし!左よし!前方よし!APD(線量計)の確認よし!
きょうも1日安全作業で頑張ろう、ご安全に。」

40年はかかるといわれる廃炉作業。
放射線、そして時間との闘いの現場に密着しました。


核心:廃炉へ40年3時間の苦闘

廃炉作業に初めて密着 “放射線・時間との闘い”

打ち合わせが終わると、すぐに作業員たちは現場に向かう準備を始めました。
顔を完全に覆う防護マスク。

「マスクをつけると気持ちが変わる?」

作業員
「変わる、緊張もある。」



さらに、テープですき間を徹底的にふさいでいました。
放射性物質がわずかでも入り込まないようにするためです。
バスに乗り込み、いよいよ現場へ。
私たちも作業員に同行しました。


作業員
「きょうは暑いね、熱中症になる。」




向かったのは「凍土壁」の建設現場です。
福島第一原発では毎日、山側から地下水が建屋に流れ込み、汚染水を増やし続けています。
凍土壁の建設は、建屋の周囲の地盤を1.5キロにわたって凍らせ、地下水を遮ろうという前例のない工事です。


私たちが取材したのは、4号機の原子炉建屋のすぐそばの現場でした。
バスを降りた作業員が現場の作業小屋から何かを持ち出しました。
放射線を遮る鉛などが入った特殊なベストです。



作業員
「結構重い、5キロから…10キロまではないが、それくらいはある。」




建屋の近くの放射線量は、場所によっては毎時500マイクロシーベルトに達するといいます。
動きやすさを犠牲にしてでも、臓器などへの被ばくを最小限に抑えようという対策です。

現場では、地盤を凍らせるパイプを地下30メートルまで打ち込む作業が山場を迎えていました。
しかし、防護マスクをつけているため意思の疎通は簡単ではありません。



作業員
「中だ中だ。
中だって、引っかかってる。」



パイプの打ち込みは細心の注意が求められます。
地下には重要なケーブルなどが無数にあるためです。
事前の打ち合わせが、作業の成否を左右するといいます。
現場にいられるのは3時間まで。
効率を上げるため、隣の現場では新たな機材も導入していました。

沓掛記者
「こちらでは現場での作業時間を短くするため、自動による溶接作業が行われています。」




この特殊な機械、パイプのつなぎ目の周囲をまわりながら自動で溶接します。
できるだけ短い時間に大量のパイプを正確につなぎ合わせるためです。




鹿島建設 凍土遮水壁工事事務所 浅村忠文所長
「技量に関係なく、誰がやっても同じ良好な物ができるのが特徴。」




このチームのタイムリミットが迫ってきました。
速やかに作業を終え、交代で来た別のチームに引き継がなければなりません。

一方、到着した交代の作業員が集まった場所にあったのは…。
1枚のホワイトボードです。
前のチームが作業の進捗状況を書き残していました。
時間的余裕がない中、確実に作業を引き継ぐための唯一の手段だといいます。


作業チームのリーダー
「(引き継ぎで)細かい部分まで伝えるのが難しいところがある。
それを補うために書き残しをする。
時間のないところでは有効な引き継ぎ方法。」


入れ替わりに帰っていくチーム。
一刻も早く現場から離れなくてはいけません。

作業員
「きょうは疲れた。」


作業員
「マスクを脱いだ瞬間、ホッとする。」

「戻ってくると、ああよかったって感じで?」

作業員
「無事に帰ってこられれば。」

40年かかるとされる廃炉作業。
そこで見たものは、想像以上の制約に直面する現場の姿でした。

凍土壁の現場担当 東京電力 佐賀賢太郎さん
「線量が高いのはもちろん、普通考えられない状況に間違いなくある。
多くの作業員に協力してもらわないと(廃炉作業は)成立しない。
一歩ずつ実現に向けてわれわれは歩んでいきたい。」


今後、燃料の取り出しなど建屋内の作業が本格化する福島第一原発。
放射線、そして時間との闘いは厳しさを増していきます。

廃炉作業に密着取材 時間の制約の中で

大越
「『ご安全に』ということばがあいさつがわりに使われる現場です。
そして3時間という制約の中で、廃炉に向けた取り組みを、それこそリレーのようにつないでいく姿がありました。
廃炉の作業は40年かかるとされています。
短くつなぐこのリレーは、きわめて長いリレーでもあります。」

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