逆説的な資本主義への想い
—— 『たった一人の熱狂』のなかで、すごく印象的なのが、21歳のとき、学生運動で世界を変えようと志すも、挫折する話です。そこから見城さんは、醜い資本主義のこの世間でのし上がってやろうという、真逆の方向につきすすむわけですよね。これも厚みのある激しいドラマですね。
見城 いやいや、みんな人それぞれがそれぞれのドラマがあるでしょう。俺はたまたまこうやって自己表出をしなければいけなくなっただけで、この本はそれを説明しないと嘘になってしまうから。
俺はね、単なる野心家が嫌いなの。「野心なんか豚に食われろ」と思う。自己否定を重ねた上で、自己肯定をしない限りは、本当の自己肯定にはなりえない。
—— 起業家になりたいギラギラした人たちが集うようなパーティとかは?
見城 死ぬほど嫌い。ヘドが出る。
—— 本書の中では、「金が全てだ」の項で、儲けることが善だと言い切っていますが、やはりこれは見城さん流の強烈な逆説なんですよね。
見城 「儲かることが善だ」と本気で思いこんでいる人がうらやましいよ。俺は、無理にでも自分に、「儲かることは善だ」と言い聞かせて生きてきたんだから。まあ、自分で格好つけるために言っているから、言わないように努めてきたけど、この本ではそこを言わざるをえなかった。
—— 資本主義にまみれて、経営者をやっている以上、偽善者ぶるのはやめようということですよね。
見城 本当は「金が全てだ」とは言いたくない。だけど「金が全てだ」と言い切らない限り、自分が格好悪いと思うわけ。「金が全てじゃない」と言いながら金を儲けることぐらい、偽善的なものはないと思う。僕は松下幸之助にはなりたくない。
—— 755の質問でも「松下幸之助についてどう思いますか」という質問に対して、「偽善者」と一言でお答えになってますね。
見城 だって、全部自分が収奪しているわけですよ。労働っていうのは、自然や世界に対して自分が働きかけることによって新しい価値創造をすること。そこがきちんと拮抗していればいいんだけど、剰余価値※が生まれるわけでしょ? 経営とは、その剰余価値を資本家が独占していくことなわけです。
※剰余価値:労働者の労働力の価値(賃金)を超えて生み出される価値のこと。これが資本家に搾取され、利潤・利子・地代などの源泉となる。
—— はい。
見城 剰余価値を独占する松下幸之助が、「あなたはよく生きなさい」「あなたは仲間を大事にしなさい」「あなたは一生懸命勉強しなさい」なんて言うのは偽善じゃないか。儲けてるんだったら、「金が全てだ」「金以外には結局何もない」と言うべき。
でもそんなことは言わないでしょ? 「愛だ、平等だ」っていうならあなたの儲けた富を分配しなさいよ、と言いたい。
—— 言ってしまえば、資本主義社会のシステムの中にあって、搾取される側を洗脳しているだけのようにも見えますね。
見城 意図的かはわからないけど、結果、洗脳しているだけです。
吉本隆明の「反祈祷歌」の最後
見城 あの、吉本隆明の「反祈祷歌」※っていう詩があるんだ。
※反祈祷歌:思潮社『吉本隆明全詩集〈5〉定本詩集 1946‐1968』収録
(目をつむり、暗誦を始める)
「世界は祈祷をあげている/貧民は平和によって愛されないが/平和を愛せよと」
見城 「貧民は平和によって愛されないが 平和を愛せよと」という言葉で終わるんだよ、反祈祷歌という詩は。
cakesに登録すると、多彩なジャンルのコンテンツをお楽しみいただけます。 cakesには他にも以下のような記事があります。