ゴジラvsキングギドラ

 

 vsキングギドラで一番批判されるのが、タイムパラドックスが起きていない、ということですが、正直いって私、この件で騒ぎ立てるヤツらの気が知れない。

 説明が無いなら、補完すればいいではないか、我々視聴者が。

 あれが無いこれが無い、だから駄目だ、ではなく、むしろ考えうる余地がある、と見るべきだろう、視聴者としては。

 産みの苦労も知らないのに、偉そうなクチを利いてんじゃねえぞ無い物ねだりのオボッチャマどもが、とは思っても言ってはいけないこと。

 …とにかく、私はパラドックスに付いては、全然不思議に思いませんでした。

 

 なぜパラドックスが部分的にしか起きなかったのか、具体的には、ゴジラがキングギドラに入れ代わったのに、なぜゴジラの記録は残っていたのか、

 を検証する前に。

 なぜ、そのパラドックスに付いて劇中説明が無かったのかを考えます。

 単刀直入に言うと、未来人が「説明してもムダだ」と判断したからだと思います。

 そもそも彼らは二百年の未来から来て、二百年先の文明を持ってきました。

 それが起こすさまざまな事象を、我々は理解できますか?

 現代人の感覚で言うなら、例えば今から二百年前の人物−−−松平定信や大塩平八郎に向かって、ES細胞の理論を説明したところで、彼らはそれを理解してくれますか?

 

「人体には、胚性幹細胞という、全ての動物細胞に分化する能力を持ったまま増殖できる細胞があります。哺乳類の初期胚の細胞は、分離して発生させると完全な個体を形成する全能性を持つと考えられ、この細胞を他のネズミの8細胞期胚や胚盤胞に注入してでキメラマウスを作れます。これを応用すれば、胚性幹細胞から特定の組織や器官を分化させて移植することもできるはずであり、その場合本人の細胞から作るので、細胞性免疫による拒絶反応が起きる心配はなく、うんぬんかんぬんうんぬんかんぬん」

「………はあ、それでどうなるんでしょう」

「………………要するに、うまく使えば失われた腕などを再生できる可能性があります」

「ああ、そうなんですか。それは便利、では早速使わせていただきたい」

 

 …こんなもんでしょう。

 要するに誰も理解してくれないんです。聞いて、わかっても、実証する術もないし、説明なんてするだけムダ、労力と時間を失うだけで、未来人はバカを見るし、現代人はみじめになるだけでしょう。

 タイムワープと時間作用、それに伴い起きるパラドックス現象を、説明したところで、1992年に生きる人々に理解できるはずが無い。

 よけいな説明をせず、原因と、その予想結果だけをしゃべった彼らの態度は、ある意味非常に正しいのです。

 

 さて次はなぜタイムパラドックスが、局地的にしか起きなかったのか。

 具体的には、

  ゴジラが消滅したのにその資料・記憶・惨禍は消えていない、

  未来(23世紀)においては、巨大日本は資料も記憶も消えている(起きたパラドックスの差が大きい)、

 の二点でしょうか。…たくさんあると思ったが二つだけでしたな、コレ。

 いや、もっとまとめれば、「1945年の歴史介入」が、「1992年の未来」と「2204年の未来」に与えた影響の大きさに差がある、ということですね。ああ一点だけになってしまった。

 さて、ではなぜこのような事態が起きたのでしょう。検証します。…といっても、ワタシも2008年の人間だから、2204年の技術なんて理解できないんですけどね。仮説ですよ、仮説………(あぁ無力ッ!)

 迷王(冥王じゃなくて)の仮説によると、この原因を起こさせた最大の鍵は、「マザー」と「キッズ」です。

 思い出しましょう。未来人は1992年に立ち寄り、キングギドラの司令塔兼日本政府の制御・衰亡の役割をもつ、マザーを着陸させます。そして1992年にマザーを残し、キッズだけを1945年に飛ばし、ゴジラを消してキングギドラを作りました。そして1992年、キングギドラを起動、マザーに積んだコンピューターに日本を支配させようとしました。

 さてここで気になるのは、「1992年にマザーを残し」、「キッズだけを1945年に飛ばした」ことです。

 マザーが「1992年を選んだ」理由はすぐわかります。この時期(1992)は、ゴジラが二度の襲撃を行なった直後で、しかも(本来なら)それ以降、ゴジラは出てこなくなります。つまりこの1992年という年は、人々のゴジラに対する不安が最も強かったときでした。そこにやってきて、ゴジラを消すと称して取り入り、次いで脅迫しようとしたのはしごく当然のことでしょう。

 問題は、次。

 マザーが残り、キッズが別行動をとったことです。

 マザーもキッズもともにタイムマシンで、物質転送装置も両方持っていたはずです。少なくとも、キッズに積める装置が、はるかに大きく積載容量のあるマザーに「積めない」ことはなかったはず。

 なのに、マザーは92年に残り、キッズだけを45年に飛ばした−−−

 ここに、ゴジラの記憶が92年で消えなかった理由があります。

 ゴジラの記憶や惨禍が何もかも消えてしまえば、未来人は92年の日本政府に売り込みができなくなります。1992年の連中がホイホイだまされたのは、「ゴジラを消す」というその言葉を受け入れたこそです。

 ゴジラの存在は邪魔だが、記憶や恐怖心理まで消えてもらっては、彼らには都合が悪かった。

 だからマザーは残ったのです。

 ここからは完全な仮説(2204年製理論)になりますが、タイムマシンには「時間軸固定効果」があるんではないでしょうか。つまり、「タイムマシン(マザー)がいる時間」は「固定」され、「ほかの要因(キッズ)による歴史介入を最小限に留めてしまう」効果が存在し、作用したのではないでしょうか。

 そう考えれば、パラドックスの矛盾(1992年の影響と2204年の影響の、頻度の差)も解消します。

  1992年にはマザーがいたために時間軸は固定され、キッズの起こした影響は極少(ゴジラとギドラがそげ代わるだけ)に留まった。

  2204年にはマザーもキッズもいないため、キッズの起こした影響はすさまじい物(最大の大国が、すでに滅んだ国に変わった)になった。

 こう言うことではないでしょうか。

 キッズもマザーも、「同じ時」を共有してます。だから、キッズの起こした影響はマザーを守るように発動し、影響は最低限になる。

 マザー・キッズと「同じ時」を共有しているものが、いない世界には、影響は最大限のものとなる。

 コレはつまり、マザー・キッズは「2204年でも、あれ一組しか存在しなかった」ということになるんですが、大方そうでしょう。あんなものが普及してれば、世界はどうなっちゃうかわかったもんじゃないです。

 たぶん、理論を解析した人が誰かいて、しかもその人はそれを封印したのを、ウィルソンたちがどうにかして発掘し、野望のために使った、ということでしょう。

 「vsデストロイア」で、伊集院博士は芹沢博士の封印したオキシジェンデストロイヤーの理論に達しますが、彼はそれを再現しようとはしませんでした。ウィルソンたちも、恐らくは伊集院博士の場合と同じように、しかしそれを悪用しただけの違いでしょう。

 ところでそんな彼らですが、その正体は何だったんでしょう?

 だって上の理論だと、彼らの住んでいた世界に与える影響はとてつもなくでかいんですよ? ヘタすると自分たちの祖国や故郷も消えちゃうかもしれないし、本来の世界に彼らの居場所(籍その他)は無くなっちゃってるかも知れないんですよ?

 …これも仮説、というより推測ですが、彼らはたぶん「狂信的なテロリスト」あるいは「殉教的な日本(覇権国)嫌い」とかの類だったんでしょう。そのためなら自分たちの存在などどうなってもいい、とかいう…

 人間として一番 起爆性の高い(アブナイ)人種ですな…

(もちろん地球連邦政府の者なんてのは絶対ウソです。連邦と言えば利益団体の集合の場、そんなものが自分たちの破滅の危険性のある策など許すはずもないし、第一タイムマシンを持った時点ですでにテロ行為の可能性があります!)

 

 ………ということは、未来に帰ったエミーはどうなったんだろう。世界に影響を与えたテロリストの一人だったんでしょう? しかも未来には帰る場所もないかも知れないのに…

 あれから、彼女はどうやって未来を生きたんでしょうね………