地震国に暮らす国民への背信行為である。

 東洋ゴム工業(大阪市)が製造した免震装置のゴムに、国土交通大臣の認定基準に満たない性能不足の製品があった。

 免震ゴムは建物の基礎などで使われ、伸縮で地震の揺れを吸収する機能をもつ。その能力が不足していたのに、製品データを偽って販売していた。

 性能不足の製品が使われた建物はマンションや役所の庁舎、病院など18都府県の55棟。災害時に防災拠点となる建物も含まれており、影響は大きい。

 同社はすべての建物の安全をすみやかに再確認し、改修や製品交換を急ぐべきだ。財産価値が下がるなどの理由から公表されていない共同住宅などについても、利用者に誠実に伝え、不安にこたえる責任がある。同時になぜこんなことが起きたのかを調査し、公表してほしい。

 子会社で製品評価を10年以上担当していた課長代理が、国の認定基準に収まるよう試験データを改ざんしていたのが発端という。国交省は「納期に間に合わせるため、営業からのプレッシャーもあったようだ」と説明する。だとすれば製造工程はもちろん、チェック態勢のあり方まで見直す必要がある。

 理解できないのは、子会社で不良品の可能性が浮上した昨年2月以後も1年間、不良製品が出荷され続けたことだ。確証を得るのに手間取ったとしても、危機感が薄すぎないか。

 東洋ゴムでは07年にも建築用断熱パネルの試験データ偽装が発覚し、社長が辞任した。その際、「二度とこのようなことを起こさない」ため、品質管理を経営の中核にすると発表した。

 にもかかわらず偽装を繰り返すようでは、安全を軽視する姿勢が改まっていない、といわれても仕方ない。

 免震ゴムは80年代から使われるようになり、95年の阪神・淡路大震災後、急速に普及した。今は大規模なビルを中心に約3300棟で使われている。

 品質保証の裏付けとなる大臣認定を得るには、メーカーが設計者や施工者と実験を重ね、国から認証を受けた評価機関にデータを提供して審査してもらう。だが審査対象は書類だけで、データが改ざんされれば不正を見抜くのは難しい。

 南海トラフ地震などに備え、被害を小さくする技術は災害に強い社会を築くために欠かせない。国交省は今後、大臣認定のあり方を含めて検討するという。品質管理は国の役割も重要だが、一義的にはメーカーの責任だと肝に銘じてほしい。