【藤井聡】大阪都構想(9) 二重行政・解消という「幻想」


From 藤井聡@京都大学大学院教授

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なぜ、「改革」は胡散臭いのか?
そんな疑問をお持ちのあなたに役立つ内容かもしれません、、、

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大阪都構想の最も重要なテーマとして取り上げられてきたのが、

「二重行政の解消」

でした。

実際、最新のアンケートでも、賛成の理由のトップがこの点でした。
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG15H3S_V10C15A3CC1000/

しかし、これは誠に遺憾な状態です。

なぜなら、二重行政解消と、住民投票の対象となる、都構想の設計図である「協定書」とは、直接的な関連は存在していないからです。都構想の設計図である「協定書」には、「二重行政」という文言は一言も書かれていません。

そもそも「二重行政解消」というイメージは、「協定書」の解釈の一つに過ぎないのであって、「協定書」が実現すれば、必ず実現することが約束されているものではありません(無論、協定書が約束しているのは、繰り返しますが「市の廃止と、五分割」です)。

しかし、多くの人々は、これまで「二重行政の解消のために都構想を実現する」という説明に繰り返し触れてきたわけですから、都構想が実現すれば、二重行政は解消するものなのだと、当然のように、しかし漠然と、感じているのではないかと思います。

しかし、「イメージ論」を度外視して、冷静に様々な事実を見据えれば、そうしたイメージ論は単なるイメージであり、二重行政の解消という話しそのものが「幻想」の類でしかないのではないか、という「都構想の実相」が見えてきます。

第一に、そもそも、日本国内には20もの政令指定都市がありますが、大阪以外で、これほどまでに「二重行政」が大きく問題視されてはいません。

第二に、二重行政の典型として言われてきた「体育館」も「図書館」も、よくよく調べてみれば、双方ともよく使われており「二重のままでもよい」と判断され、その存続が決められています。

もちろん、二重行政が指摘され、統合される事例もありました。例えば、市と府の東京事務所は、一つを廃止してもよいだろうということになり統合されましたが、実際のところ、そうした事例が数多くあったというよりは、ほとんど見いだせなかったのが実情なのです。
http://kiziosaka.seesaa.net/article/281801686.html

なお、この東京事務所の統合で産み出された削減額は、年間計約1450万円と報道されています。もちろんそれだけでも立派な効果ですが、しばしば「4000億億円」と推進派によって喧伝されてきた効果額に比べれば、比べるべくもない程に小さな水準です。

ついては「実際の統合・廃止」が限られているという事が明らかとなった今となっては、一方の廃止という議論ではなく、「運営の統合で効率化を図る」と言われるようになってきています。

しかし、それではもちろん、「巨大な効果額」が生まれることはありません。実際の推計額も、いろいろ積み上げても、年間一億円程度ではないかと、「大阪市側」からの推計値が示されていますが、それについては後にお話します。

第三に、二重行政の同じく典型といわれた「水道局」ですが、府と市の水道局の運営方針が異なるため、様々な議論を経て、統合は見送られることとなりました。実際、現時点の大阪市の「都構想による財政効果」についての議論は、統合による効果ではなく、「民営化」の効果が計上されています。言うまでも無く、都構想を実現せずとも民営化は可能です(ここでは一旦、その是非はさておきますが)。

なお、府市の浄水場が近接しているとも言われていますが、大阪の水は基本的に淀川から取水している以上、近接せざるを得ない、という構造があるという点は、申し添えておきたいと思います。

第四に、巨大ビルの建設(WTCやりんくうタワー等)についても、二重行政の典型例と言われてきました。たしかに、両者は共に十分に稼働しているとは言いがたく、ムダであったと言える側面があります。

しかし、これらの建設は、法定事務ではなく任意事務と言われているもので、市が特別区になっても、任意事務の範囲は基本的に変わりませんから、もしも、かつての様に大阪がバブルにでもなれば、都構想実現後も、同じく建設される可能性は排除されないのです。

つまり、この点についての二重行政抑制にとって、都構想の実現が直接的な力を発揮するものではないのです(ただしもちろん、大阪が再びバブルになるとは当面考えにくいので、実際は、これからの大阪には二重行政は抑制されていくとは思われます。しかしそれは、都構想による制度上の直接的影響というよりも、景気の影響です。今の大阪市にも、あのようなビルを多数作りあげる余力は無くなっているのは間違いありません)。

その他にも実に様々な「二重行政」がこれまでの府市連携の中で議論されてきましたが、多くの事例において、当初イメージされていた「二重のムダを省いて、すっきりと効率化する!」という風には簡単に事は運ばなかったのです。

つまり、人間には肺や腎臓が二つあったり、コンビニにはローソンとセブンイレブンがあったり、ビルには非常階段があったりする様に、「二重、イコール、ムダ」とは必ずしも言えないのです。

二重行政イコール悪なのではなく、

良くない二重行政と、
良い二重行政がある、

というだけの話しなのです。

したがって、我々がすべきは、その行政が一重であろうが二重であろうが五重であろうが、その行政が、良いのか良くないのかを一つ一つ吟味していく姿勢なのです。

では、そんな「吟味」は、大阪でなされて来たのかと言うと──もちろん、進められてきています。

大阪市議会や府議会です。以下、その議論の経緯を、簡単に振り返ってみることにしましょう。まず、都構想が主張されはじめた当初は、都構想が実現すれば二重行政が解消し、年間4000億円の財源が浮いてくる、それが最低ラインだと主張されていました(2010年10月)。
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik13/2014-03-10/2014031004_01_1.htmlところが、大阪府市が取り組んだ13年8月の制度設計案では976億円に激減。日経新聞にも、『「年4000億円」目標に遠く及ばず』と報道されます。
http://www.nikkei.com/article/DGXNASHC09036_Z00C13A8AC8000/

ただし、その数字の中にも、「二重行政解消」とは無関係の項目(地下鉄の民営化や市独自で実施している市民サービス削減)が含まれている旨も、同じ記事の中で報道されています。

なぜそんなに大きく効果が減ってしまったのか、しかも、都構想とは関係の薄い項目までなぜ入れた数字が公表されたのか───この点について13年8月10日の毎日新聞にて、次のように報道されています。

『「もっとしっかり効果額を積み上げてほしい」。府市関係者によると、橋下市長は先月、都構想の制度設計を担う大都市局の職員らに号令をかけた。橋下市長や松井一郎知事は就任当初、都構想で年間4000億円の財政効果を生み出すとの目標を打ち出したが、構想が具体化すればするほど、思ったような効果が見えてこない。一部の職員らは疑問を感じながらも、市民サービスを廃止・縮小した市政改革プラン(237億円)や、市営地下鉄の民営化(275億円)、ごみ収集の民営化(79億円)などを効果額に加えていったという。』
http://sp.mainichi.jp/opinion/news/20130810ddn003010035000c.html

つまり、当初主張していた4000億円に近づけ、できるだけその効果が大きく見えるように、『財政効果かき集め』(同記事より引用)たという報道です。そしてその態度について『「まやかし」批判も』(同記事より引用)出たと報道されたという次第です。

そしてさらにその後、都構想の中身が変わるに伴い、府市が算出する効果額も縮小されていきます。そして、2014年6年7月の府市の行政的試算では、当初の実に二十分の一以下にしか過ぎない年間平均155億円(17年累計で2634億円)にまで縮小していました。
http://sp.mainichi.jp/area/osaka/news/20141017ddlk27010421000c.html
http://blog.livedoor.jp/woodgate1313-sakaiappeal/archives/40791959.html

ただし、この155億円にも、市営地下鉄の民営化などの「都構想の実現とは関係の無い項目」も加えられており、それらを差し引くと、年間約1億円にしか過ぎない、ということが、大阪市役所の推計値として議会報告されています。
http://www.nikkei.com/article/DGXLASHC22H0D_S4A021C1AC8000/

これに対して、橋下市長は、「多様な計算の仕方がある」という趣旨も発言を議会にて行っていますが、これはつまり、「年間たった1億円の効果しか無い」という「事実」もまた(多様な試算の一つとして)許容されている事を示しています。

この様に、4000億円と言われた効果額が、具体的な計算とそれに対する批判が繰り返される内に、徐々に減少し、府市が主張する金額ですら25分の1の155億にまで縮小し、かつ、議会答弁を通してさらにそれが縮小し、実に4000分の一の1億円にまで縮小していったのです。

このことはつまり、先に指摘した様に、

「皆が思っている程、二重行政の解消効果は、都構想に無かった」

という見通しが明白である事をあからさまに指し示しています。

さらに言うなら、この数字についてもまだまだ怪しいのではないか、初期投資などを考えれば黒字どころか「赤字」になるのではないか、ということも指摘されています。

2014年10月17日の府議会では、都構想とは必ずしも関係の無い項目を除外し、かつ特別区設置のための「初期投資費用」を考えれば、年間平均13億円の「赤字」が産み出されてしまうのではないかとも指摘されています(上記毎日新聞より、年平均値を計算)。

こうした話しはちょうど、民主党が、マニフェストを実行するための予算を「事業仕分け」で産み出すのだと躍起になっていた姿と重ねられるかもしれません

民主党は政権就任前は無駄な部分から「20兆円」を捻出すると言っていましたが、実際に政権をとって事業仕分けを行ったところ、その当初の目論見の約12分の1の「1.7兆円」の削減に留まったのでした。そして、民主党は、そうした「約束違反」(しばしば、詐欺フェストとまで言われていました)を繰り返していく内に、国民支持を失い、政権の座を追われる様になったのは、ご記憶の方も多かろうと思います。

いずれにしても、この様に「効果額」を大きく喧伝することは徐々に難しくなっていったのですが、それに呼応するように橋下大阪市長の発言も変遷していくことになります。

昨年(14年)3月には、当時算定されていた1375億円の効果額を指し示しながら、
「これが都構想の全てと言っても過言ではありません」
と発言しておられました。つまり、都構想の根幹にあるのは二重行政の解消を通した、行政の効率化だ、と示唆しておられたのです。
http://www.sankei.com/west/news/140307/wst1403070005-n1.html

ところが、新しい推計(年間4000億円という当初の見込額から二十分の一にまで一気に縮小された推計)によって、二重行政の財政効果があるという話しは、実は怪しいのではないか、と言う指摘がなされるようになった、その四ヶ月後の昨年(平成14年)7月には、
「僕の価値観は、財政効果に置いていない。」
と、全く逆の事を発言しておいでです。
http://www.sankei.com/west/news/140704/wst1407040060-n1.html

──以上、いかがでしょうか…?

もちろん最終的な判断は全て、読者各位にお任せしますが、イメージ論を排除しつつ、冷静に物事の判断する方ならば、二重行政の解消というお話は、

「単なる幻想」

に過ぎない(さらに直截に言うなら、それは単なるデマに過ぎなかった)、という事をご理解いただけるのではないかと──筆者は考えています。

こうした筆者の個人的見解が、理性的な読者判断を支援できますことを、心から祈念いたしたいと思います。

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