インターネット上でよく見るからといって、あるいはテレビバラエティでよく見るからといって、「使わない方が良い」表現というのはたくさんあります。
「頭がおかしい」という表現
「頭がおかしい」という表現もその1つです。
慣用的な表現として耳にする機会も多いものですし、相手の言動をおかしいと感じたとき、その相手をたしなめるために「頭がおかしい」という表現を使っている人もいるかもしれません。
ただ、精神科医(又は整形外科医や美容師)でもない人間が、たいして親しくもない他人に向けて「頭がおかしい」と言うとき、その表現の正しさを担保するのは至難のことだと思います。
もしかしたら、侮辱罪にあたるとして慰謝料を求められることもあるかもしれない。
例えば、「逸脱した行動」をとる男性に対して、警官が「頭がおかしい」と言った。これで慰謝料1万円という判決が出た例もあるのです。
警官の「頭おかしい」発言に賠償命令 慰謝料として1万円 ― スポニチ Sponichi Annex 社会
警察官に「頭がおかしい」と侮辱されたとして、川崎市の男性が神奈川県に100万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、東京高裁は23日、請求を棄却した一審横浜地裁判決を変更し、1万円の支払いを命じた。
判決によると、男性は路上のバイク撤去などを求めて2011年11月、川崎臨港署を訪れ、「今すぐにやれ」と何度も大声を出した。対応した警部補が「あなたは頭がおかしい」と発言。後に男性が発言の確認を求めると「頭がおかしいからしょうがねえじゃねえかよ」と返答した。
高世三郎裁判長は「男性も撤去を執拗に求めるなど逸脱した行動だったが、発言を言葉の弾みとして見過ごすことはできない」と指摘。慰謝料として1万円が相当と判断した。
今のインターネット上には侮辱表現が溢れているため、言葉の危険性に無頓着なまま、つい侮辱表現を使ってしまう人も多いと思います。
その表現が適切かどうか、言葉の使い方をよく考えるようにしたいですね。
「キチガイ」という侮辱は慰謝料15万円!?
このブログでは、ちょうど1カ月くらい前にも類似の判例を紹介しました。
「キチガイ」という侮辱表現を書き込んだ発信者の情報を開示しなかったことで、プロバイダが15万円の支払いを命じられた判決です。
「キチガイ」を訴えると、裁判ではどうなるのか。 - コウモリの世界の図解
「キチガイ」という表現は放送禁止用語にもなっていますし、差別表現として使われてきた歴史があることを知るひとも多いと思います。そのぶん、「頭がおかしい」という表現よりも慰謝料が高額になっているのでしょうか。その辺りの裁量については、コウモリは詳しく分かりません。
ただ1つ分かるのは、無暗に他人の能力や性質や状態を決めつけるような侮辱表現は良くない、ということです。
関係と多様性と表現方法
もちろん、見知った間柄で「お前、キチガイだな」「お前こそ、頭おかしいだろ」と言って笑いあえるのなら、何も問題ないことでしょう。
注意するべきなのは、インターネット上などで見ず知らずの人間に対して、「キチガイ」「頭おかしい」などの表現を使ってしまうようなこと。これは、ただの侮辱罪になる場合がある。
世の中には色んな人がいるので、自分とは違う考え方や行動原理を持った人間というのは確実に存在するものです。だからまず、人の多様性を前提とした上で表現を考えることが重要だとコウモリは思っています。
多様性を前提にすれば、「あいつは頭がおかしい・あいつはキチガイだ・あいつは病気だ」というような、断定的な侮辱表現は出てこないと思うのです。
少なくとも、「自分には理解できない・自分とは考えが合わない・自分はおかしいと感じた」というような表現になるんじゃないか。これなら受け手の印象はずいぶん違ってくるでしょうし、慰謝料を請求されることもないでしょう。
たとえ内心では同じように感じていたとしても、外に出す表現を変えるだけで変わるものは多いはずです。
ちなみにコウモリは、id:xevraさんから「キチガイ・メンヘラ・頭がおかしい」と言われても気になりません。特に見知った間柄というわけでもないのですが、ゼヴラさんはそういうキャラクターだしと諦めているのが半分、ゼヴラさんには社会を良くしようという意図があると知っているのが半分、ゼヴラさんのように「大脳が壊れている」を何度も繰り返すまでいくとジョークとして受け止められるのが半分、「大脳が壊れている」などの言葉を使っている奥には細かな状況読みと優しさがあるのではと感じているのが半分、です。なんか1個分多いけど、まあいいや。
他のひとから「キチガイ・メンヘラ・頭がおかしい」と言われれば、「俺は精神疾患や精神障害ではないしそういう経歴もないし、そもそもそれを差別したり侮辱するような表現を使うのはやめろ」と思うんですけどね。不思議。
表現のテクニック
先ほどの内容を、範囲を広げて言い換えます。
「あなたは〇〇だ」のような表現は、どうしても相手に受け取ってもらい辛くなります。事実ではなくなって正しくないものになるときも多い、危ない表現です。
だから、もし伝える気があるのなら。
「私は〇〇だと感じた」のような表現にしてみるのが良いと思います。
Youメッセージではなく、Iメッセージを。
子育てとかコーチングとかカウンセリングとか、そういう類の実践系の書籍でよく言われることですが、これは本当に大事なことだと思います。
まとめ
今回紹介した名誉棄損表現について、標語風にまとめておきますね。
●「キチガイ」の 一言だけで 15万!?
● 一言の 「頭おかしい」 1万円!?
そうして、無暗に他人の能力や性質や状態を決めつける表現は避ける。
他人を攻撃する断定表現が評価されるような場所では、つい攻撃的になってしまう人もいます。流されないように注意したいですね。