『薄氷の殺人』 - 猟奇の果
薄氷の殺人
白日焔火/BLACK COAL, THIN ICE
2015(2014)/中国/香港/PG12 監督/ディアオ・イーナン 出演/リャオ・ファン/グイ・ルンメイ/ワン・シュエビン/ワン・ジンチュン/ユー・アイレイ/他
疑惑の女に堕ちていく――
『薄氷の殺人』を観てきた。原題は『白日焔火(真昼の花火)』なのに邦題は『薄氷の殺人』ですよ。て、そんな、毎回レンタル屋でジャケ借りタイトル借りをしたら案の定不自由な気持ちになってブログで怒気を発散しているどっかのわたくしのようないちゃもんはどうでもいいとして、原題からも何となく察せられるように前景化しているのは薄らぼんやりとした映画祭狙いのシネフィルライクな技巧であるのに、正調ノワールとしての骨太さやファム・ファタールの淫靡さも兼ね備えられており、クラシカルな“トリック”や真相のイロハを知ってしまった今となっては、中国の地方都市の因果とも相まって松本清張の社会派小説読了後のような観了感が払拭できない。バラバラ死体が物語の起点となっているので、人によっては島田荘司の吉敷竹史シリーズなんかを連想するかも知れない。
5年越しに発生したバラバラ殺人事件と、その捜査線上に浮かんできたひとりの女。
2015年にもなって渋いねぇ……まったくおたく渋いぜとテニール船長も海の底で感嘆していそうなお話ではあるが、懐古一辺倒に傾斜しているわけでもない画作りに、意図的な不協和音によるサウンドデザインがサディスティックなまでに「2時間ドラマ」に思いを寄せていた観客を翻弄する。懐かしさと技巧による斬新さの二面性に裏打ちされた現代のフィルム・ノワール。本流に従う事を拒んだ傍流がベルリン国際映画祭で二冠の栄光に輝いたというのだから、本作をリアルタイムで観た人間は歴史の生き証人として……そろそろ口が酸っぱくなってきたので止めるが、キンクマ、じゃなかった、金熊賞(作品賞)と銀熊賞(主演男優賞)を受賞したというのも頷ける創意溢れる意欲作。良いものを観た。
ノワールで1本撮る、というのはスポンサー側の要望であったらしい。が、ディアオ・イーナン監督の念頭にあったのはラングやムルナウのサイレント映画に、ウェルズの『黒い罠
核心にまつわる部分に関して、監督の興味深いインタビューの応答がパンフレットに収録されている。あるものを台無しにした社会が中国ではなく、よその国であったならば悲劇は回避できたかも知れない、と。
この一言に他国への幻想に基いた羨望を見て取るのは性悪に寄り添った穿ち方であろうか。外国のノワールやサイレント映画を観直し、自国への自己言及的な本作を撮ったディアオ・イーナンがこぼした他国への羨望。北野武映画のような唐突な暴力や、松本清張作品のようなやりきれないトリックにその羨慕とこじつけるのは牽強付会に過ぎるかも知れないが、これから「そんな時代」に回帰していくのであろう国に居を構えるジャップであるところの自分が新鋭監督の才覚にいらん想像を働かせてしまうのも烏滸がましいという自覚はある。本作ではグイ・ルンメイの儚げな美しさにミスディレクションされがちではあるが、我が朝で起こった近年の(バラバラ含む)殺人事件に目を向けてみよう。何が原因で、どのように世論が形成されていくのか。スケート靴を履いたまま、リンク場から抜け出すような真似は島国では難しい。
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20150323 │ 映画 │ コメント : 0 │ トラックバック : 0 │ Edit