【萬物相】度が過ぎた称賛

【萬物相】度が過ぎた称賛

 1歳でハングルを習得し、2歳で千字文(子どもに漢字を教えるために用いられた漢文の長詩)を完全に覚え、3歳で微積分をマスターし、天才少年として知られたキム・ウンヨン氏は現在、京畿道議政府市内のある大学で数学と物理学の講義を行っている。かつて米国航空宇宙局(NASA)の研究員となったが、周囲の環境に適応できず帰国し、その後は一時地方の政府系企業に就職したこともある。当時キム氏を知る人たちは彼のことを「失敗した天才」と呼んでいた。すでに50代半ばとなったキム氏は「幼いときに最もよく聞かされた言葉は『祖国と民族、そして世界平和のためにどのようなことをするのだろう』だった」と笑いながら語る。賛辞と期待を一身に受けていたそのころに戻りたいか尋ねると、彼は首を横に振りながら「ノーベル賞を受賞し、世界の有名大学の教授となることが果たして成功だろうか」と逆に問い返してきた。現在10代という2人の息子にも「しっかり勉強しなさい」ではなく「友達と楽しく過ごしなさい」とよく声を掛けるという。

 子育てをする家庭ならどこも冷蔵庫や壁などにいわゆる「称賛ステッカー」が貼られていることだろう。小学校の教室や掲示板などもそうだ。「すごいね」「よくできたね」などと書かれたこの「称賛ステッカー」や「称賛通帳」が登場したのは、2002年に『称賛は鯨も踊らせる』という本が翻訳出版され、広く読まれたことがきっかけとなった。米国サンディエゴの水族館でシャチのショーに感動した米国人の著者が、飼育係から聞いた訓練の秘訣(ひけつ)が「称賛」だったという。この本に書かれていた飼育係がシャチを褒めるのと同じように、先生が良いことをした児童にステッカーを配り始めたことがこの「称賛ステッカー」の広まるきっかけになったようだ。このステッカーをたくさん集めた子には表彰を行うこともあったという。

 しかし人間の子どもはシャチのようにはいかないようだ。親が子どもを褒めすぎると、その子は自己愛ばかりが強くなり、結果として利己主義な大人、あるいはナルシシストになるという研究結果も発表された。米国オハイオ州立大学の研究チームは「あなたは他の子と違って特別な子だ」という賞賛は、その子の自尊心を育てるのではなく「自己陶酔」に陥らせてしまうと警告した。この研究をきっかけに「称賛」は逆風に直面した。

ある心理学者は「子どもへの称賛が度を過ぎた場合、その子はいつか『自分は実のところ大したことない』と悟ることに不安を感じるようになる」と指摘する。自慢ばかりで努力を怠り、他人の視線と評価ばかりを意識してすぐに挫折するようになるというのだ。教師たちも称賛ステッカーのマイナス面を指摘する。友人よりも多くのステッカーを手に入れるために、図書館から一度に10冊以上の本を借りていく子や、先生が配るのと同じステッカーを他のところから手に入れてくる子もいたようだ。

 昔の人も「称賛が度を過ぎると毒になる」と教えていた。朝鮮王朝時代後期の実学者、李徳懋(イ・ドクム)=1741-93=は『青荘官全書』という本の中で「子どもに対して『お前は賢いので必ず成功する』と言ってはならない。その言葉を聞いた子どもは横柄になり、遠慮することもなくなり、悪人になってしまう」と指摘している。植物に肥料を与えすぎると、花を咲かせる前に根が腐ってしまうといった意味だろう。上記のキム・ウンヨン氏も「子どもが何に興味を持ち、何に幸福を感じるのか、自分で見つけ出すまでじっくり待ち、励ましてやればよい」と語った。

文化部= 金潤徳(キム・ユンドク)次長・論説委員
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