3月20日、地下鉄サリン事件から20年を迎えたこの日、そのアーチャリーこと松本麗華さん(31)が、自らの半生と教団、 事件についての告白本「止まった時計 麻原彰晃の三女・アーチャリーの手記(講談社刊)」を上梓した。
本書では、自身の生い立ちや教団内での生活、事件や裁判の裏側を自身の言葉で率直に語っている。また、松本死刑囚の家族として、当局からの監視、ときに悪意ある報道の中での生活を余儀なくされてきたこと、オウム真理教の後継団体アレフとの関係も取り沙汰され、進学やアルバイトでは何度もつらい目にあったことも綴られている。松本さんに本書を執筆することになった経緯や、自身が体験した教団内の実態について話を聞いた。
「三女アーチャリー」ではなく「松本麗華」として生きる
―今回、著書を執筆し、ご自身の考えを社会に訴えていこうと考えたきっかけ、動機を教えてください。「止まった時計 麻原彰晃の三女・アーチャリーの手記」
松本麗華、講談社 写真拡大
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ですが、出版社の方から「そんな甘い考えでは無理だ」と言われました。お父さんのことだけを書くならば、それは甘い考えだと指摘されたんです。その言葉は、自分の心に突き刺さりました。
「甘い考えじゃないなら…」という問いは、「あなた自身が生きるなら…」という問いでもあると思いました。「お父さんのこと、お父さんのこと」ではなく、自分自身が生きていきたいのか、と考えたときに、改めて自分の中の「生きたいのかもしれない」という気持ちに気が付いたんです。
一方で、今までのような形では生きていけないということは、もうはっきりしていました。執筆中に、公安調査庁は、私を、オウム真理教の後継団体とされるアレフの幹部だと認定したのです。
さかのぼれば、「10年たったら普通に生きられるようになる」と思って10年耐えてきました。10年たった頃に、ちょうど妹が家出するなどの騒動があり、再び「三女アーチャリー」の名前が報道されるようになってしまいました。結果として、平和になるどころか、余計に激しい好奇の目にさらされることになりました。
それからさらに10年経過し、20年の時が経ち、アレフとの間に、何のやり取りがないのにもかかわらず、幹部だと認定されてしまう。いつまでも、「麻原の三女」「三女アーチャリー」と言われてしまう。
教団、父の付属物として扱われるのではなく、一人の主体性のある人間として、松本麗華として生きられる道を模索しようと考えました。そのためには、何か変えなければいけない。
自分のプライベートなこと、自分の考え方、そういうものを知られることは非常に恐ろしいですし、逃げたかった。それでも、本を書くことそのものが、自分自身を取り戻していくための作業でした。今、こういうことをお話しできるのも本を書いたからだと思っています。
本を書くことで、好奇の目や新たな批判に晒される可能性もあるので、今でも怖いですし、発売日以降、どうなるんだろうと考えると不安にもなりますが、やってみるしかないと思って執筆しました。
―オウム真理教は犯罪者集団であり、松本死刑囚はそのトップという認識を持っている方がほとんどだと思います。ただ一方で、ご著書を拝読すると、一連の事件後の教団や麗華さんをめぐる報道では、行き過ぎたものや誤ったものもあったと思いました。オウム真理教や関連団体に対するメディアの報道をどのように見ていますか?
松本:メディアの報道は「わかりやすさ」を求めすぎているように思います。「犯罪者集団なら犯罪を起こすのが当然ですよね、当たり前ですよね」と。そういうものを求めているのではないでしょうか。
最初から“ストーリーありき”での情報集め、証拠集めになっているものも多いと思います。漠然とした、どうなるかわからないものの中から、証拠を見てストーリーを作るのではなく、“ストーリーありき”なんだろうなということは、20年間ずっと感じていますね。
―例えば、ご著書の中では、自身の来歴によって解雇される不安を抱えながらアルバイトで資金を貯めたにも関わらず、語学留学を週刊新潮に「大名旅行」と報じられたというエピソードが紹介されています。(※名誉棄損で訴訟、地検で謝罪広告の掲載などが認められる。後に控訴審で和解。)
松本:この20年間、父に関する報道も、あまりにも嘘が多かったので…。例えば、「父の側近だった と言って、いろいろ書いた人もいるのですが、私はその人のことを覚えていないんですよ。要は「側近」でも何でもないわけです。
ちょっと遠くで父の警備をしていたことぐらいはあったかもしれません。でも、おそらく父と話したことはほとんどないでしょう。にも関わらず、あたかも父の側近だったかのように装って、虚実織り交ぜて、「怪物麻原」を作り上げていく。そうした過程も体験しているので、報道に対してはずっと不信感を持っています。
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