原発事故で一時、全村避難した福島県川内村で23日、たった1人の小学6年生が卒業した。村が出した帰村宣言を受けて3年前に戻ったが、同級生18人は戻らなかった。担任と二人三脚でこぎ着けた巣立ちだ。

 「みんなが戻ってきてくれると信じ、1人では広すぎる教室で過ごしました」。川内小6年の秋元千果(ちか)さん(12)は卒業式の「別れの言葉」で、4年生に進級した当時を振り返った。全校児童29人に教職員が15人。村で唯一の小学校だ。

 2011年3月の東京電力福島第一原発事故で、祖父母と両親、3歳離れた兄の6人で避難。約40キロ離れた福島県郡山市内で1年間過ごした。12年1月、村が帰村宣言を出し、学校も春から再開することになった。それに合わせて家族と帰還した千果さんは、約3千人の村民と元通りの生活に戻れると思っていた。

 だが、現実は違った。先生と1対1の授業。教科書を忘れても、見せてくれる子はいない。

 この2年間、担任を続けてきた先崎里美先生(38)はすぐに気づいた。「19人いれば児童も授業中に適度にサボれるが、それができない。いつかパンクする」

 5年生の2学期、意を決して言った。「千果、お互いがんばるの、もうやめっぺ」。授業中、できるだけ雑談をした。アニメや恋バナ、職員室の様子……。

 あるとき、千果さんが打ち明けた。「里美先生。お母さん、ひどいんだよ。『友達が戻ってくるの、もうあきらめろ』って私に言うの」。先生は言った。「1人のクラスでいいと思う親なんて、いねえ。友達が戻るのをあてにしても仕方ない。今を楽しむしかない。それを千果にわからせるために言ったんだ」