現地直送! 北米ゲーム事情リポート

ゲームをセーブせよ――実機、エミュレーション、家族写真? いかにゲーム体験を後世に残すか【GDC 2015】

 ビデオゲームの信じられないほど豊かな歴史をいかに保存していくかという試みは、近年真剣に取り組まれるようになってきた。特にアメリカでは、2011年6月に最高裁が、ビデオゲームは合衆国憲法修正第一条に規定されるアートに値するという判断を示してからは。(※編注:修正第一条は表現の自由を定めている。この判断は“暴力的なビデオゲーム”の販売規制に関してカリフォルニア州とEMAとの間で争われていた裁判の判決で示された)
 今月頭にサンフランシスコで開催されたGDCでのパネルディスカッション“Saving It, Showing It: Collecting and Exhibiting Videogame History”では、この我々が愛するメディアの歴史が時間の流れによって消失してしまわないようにするにはどのようなステップを踏むべきかが議論された。


 出席者は、ニューヨーク州ロチェスターの通称“The Strond”ことナショナル・ミュージアム・オブ・プレイ(国立遊戯博物館)、ロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館、そして古いコンピューター資源の将来について懸念を示している様々な研究者ら。古いゲームのカートリッジに含まれている電池とともにそのゲームも破壊されていき、ハードドライブは劣化し、古いアーケードゲームに搭載されているCRTは生産されなくなってから何年も経つ。近い未来、いつか代えのパーツはなくなる。そして次に何が起こるのか?

01

 登壇者のひとり、ジョン・ポール・ダイソンは、The Strongのディレクターだ。年間50万人が訪れる同博物館は、街の一区画分にも及ぶ、世界でもっとも包括的な遊戯とおもちゃのコレクションを収蔵する。歴史博物館と科学博物館と遊戯博物館がひとつになったようなものだ(公式サイト)。
 同博物館は5万5000に及ぶビデオゲームとその関連物をコレクションしており、その中には200台のアーケード筐体とピンボールマシンを含む。最初期のアーケード筐体に始まり、いくつかの現存する超レアなコンピューターやゲーム機までが、G.I.ジョーのプロトタイプと同じように保管されているのだ。

 同氏によると、The Strongは2009年から「いかにしてゲームが設計され、生産され、宣伝されてきたか、あらゆるものを集め、保存し、解釈する」ことを使命のひとつとしてきたという。続けていわく、「その文化的な意味合いも考慮の対象です。例えば、あるゲームが人々の生活にどのような意味をもたらしたか、そして社会にどのような影響をもたらしたか?」

02

 The Strongは単に古いゲームを展示して“賞賛”するのではなく、当時のゲームがいかに設計・開発され、どのように人々に受け止められたかといった展示も実施している。ウィル・ライト(シムシティ)やラルフ・ベア(世界初のゲーム機Odysseyの開発者・故人)、ジョーダン・メックナー(プリンス・オブ・ペルシャ)、ケン&ロバータ・ウィリアムズ夫妻(アドベンチャーゲームを発展させたシエラ創設者)といった伝説的なゲームデザイナーたちの仕事がアーカイブされ、インタラクティブな展示として閲覧できるほか、1万から1万5000冊ものビデオゲーム雑誌も収蔵している(ファミ通も持っている!)。

03

 同氏は、The Strongができるだけ古いゲームのオリジナルの体験を複製し維持するために、多くの労力を割いていることを指摘した。それが古いアーケード筐体のためにCRTモニターのデッドストックを買い占めておくことを意味するとしてもだ。しかしながらもちろん、いつかはエミュレーションやLEDモニターへの置き換えといった、さらなる未来に残すための譲歩が必要となる。


 かのスタンフォード大で科学と技術の歴史を担当するキュレーターのヘンリー・ローウッドが語ったのも似たような話だ。「データ移行などの問題は我々にとってつきものです。ロムにしてもカートリッジにしてもカセットにしても、それ抜きではうまくいかない。だから我々は国立ソフトウェア資料ライブラリ(NSRL)と共同で、オリジナルの媒体から我々がデジタルリポジトリとして永久に保存可能な形へとデータを移し替えています」
 1998年から75プラットフォームにわたる1万5000ものソフトウェアをアーカイブしているそうで、その多くは個人収蔵のコレクションが元になっている。世界中のあらゆる人が、スタンフォードの研究成果としてこのコレクションを利用できる――研究者じゃなくても(スタンフォード大公式サイト内の該当ページを参照のこと)。

 そしてローウッドは伝統的なパッケージゲームだけでなく、仮想世界のアーカイビングにも話を発展させた。「我々は仮想世界がサービスを終了してシャットダウンされるようなケースにも関心があります。どうやってその体験を後から知ることができるでしょうか?」
 それを知るためにスタンフォードは、2008年に閉鎖寸前だった『EA-Land』(元『シムズオンライン』)のプレイヤーを招待し、最後のクロージングパーティーの様子を録画した。この感傷的なビデオは、いずれは解散するバーチャルコミュニティが何を意味するのか、オンラインの活発な議論を呼んだ。


 こういった人々に新たに加わったのがサンフランシスコが誇る非営利団体、インターネット・アーカイブだ。この世界最大のインターネットのアーカイブ団体は、近年古いソフトウェアとゲームにも注力するようになり、現在はブラウザベースのエミュレーション技術を使って時代から取り残されたプラットフォームのソフトウェアとゲームを保存し公開している(The Internet Archive Software Collection )。


 オーストラリアのフリンダース大学准教授のメラニー・スウォルウェルがこのパネルディスカッションのトリを飾った。彼女が取り組んでいるのは、1980年代のオーストラリアのゲームビジネスにフォーカスして、それを保存するプロジェクト“Play it Again”(公式サイト)だ。
 いくつもの博物館や大学とのコラボレーションにより、データ、画像、ボックスアート、映像、そしてその他の関連する文字資料といった包括的な資料を集め、地元産の約50のビデオゲームを扱っている。キープレイヤーとして指名されているのはメルボルンハウス。恐らく8ビット時代ではもっとも有名なオーストラリアのソフトハウスだ(『The Hobbit』で知られる――もちろんインターネット・アーカイブで公開されていてプレイできる)。

b-2

 スウォルウェルは、ゲームを歴史的側面からアーカイブすることを公衆と広く対話するよう専心しているそうで、その中のひとつとして、個人から初期のゲームをプレイする昔の写真を提供するよう訴えかけているそうだ。
 「人々がゲームをしている写真というのは、公共の写真記録にはなかなかありません。まぁアーケードで遊ぶ様子が欲しかったんですから、それが難しいというのはわかります。人々が自宅でゲームを遊ぶ様子の写真はさらに難しいです。しかし何枚か個人のアルバムからご提供頂くことができました。人々のその時代の記憶はかけがえのない価値があります」

b-1

 そして最後に彼女は色褪せたポラロイド写真を示し、このように語った。「もし1980年代にオーストラリアでコモドール64を所有する幸運に恵まれたら、多分“友達”には困らなかったことでしょう」。

b-3

プロフィール

Jason Brookes

ジェイソン・ブルックス

イギリスのスタイリッシュな辛口ゲーム雑誌『Edge』の元編集長。ふと思い立って渡米後、『LOGiN』アメリカ特派員などを経て、現在は学生としてデジタルアートを学び直す日々。イギリス人らしいシニカルさは、アメリカに渡った現在も健在だ。実は日本のあるゲームの名付け親だったりもする……。

最近のエントリー

バックナンバー