ユナイテッドアローズ(以下、UA)の名誉会長である重松理さんとは、UAの立ち上げ時から、ご縁を得てきた。それは1989年のこと、重松さんをはじめとする数名がビームスを離れ、新たなショップをスタートするというニュースは、ちょっとした事件だった。1990年、渋谷と原宿のちょうど半ばあたりに作った第一号店オープンにあたり、重松さんの濃く熱い思いを聴いた。掲げたコンセプトは「進化する老舗」ーーーそれから25年、セレクトショップの雄として、UAは確かな存在感を築いてきた。表現のかたちは変わっても、重松さんの意思にブレるところはまったくない。
いつも端正な装いに身を包み、静かな語り口の重松さんは、かっこ良過ぎて近寄りがたい印象を与えかねないが、これはちょっとした誤解。語るべきことを語る、語らなくていいことは語らない。筋が通った姿勢を貫きながら、無駄のない言葉を紡いでいく。自分が大好きな話題になると、目が輝いて言葉のテンポが早くなる。心なしか身を乗り出し、口元に笑みが浮かぶ。夢語る少年のような一面が垣間見える。そんなキャラクターの持ち主なのだ。今回は、UAについて、そしてご自身の夢について、もろもろ語っていただいた。
「進化する老舗」ではなく「進化し続けたら老舗」
川島:この連載は「老舗が問う」というタイトルです。UAはそもそも、「進化する老舗」を掲げて立ち上げたと記憶しています。まずはそのあたりから、お話をうかがいたいと思います。重松さんにとって、老舗とは何なのでしょうか?
重松:今振り返ると、僕がUAを立ち上げた当初は、老舗の真意がわかっていなかったと思うのです。
川島:えっ、そうなんですか?
重松:老舗とは、長い歴史を持っているけれど、どこか旧態依然としているところであり、新しいことに挑んでいくイメージが薄かったのです。何か足踏み状態にあるような。
川島:びっくりです。では当時、重松さんが言っていた「進化する老舗」とは、そういう旧態依然とした老舗ではなく、革新する老舗になりたいといった意思の表れだったということですか。
重松:そうです。その後、虎屋の黒川社長などとご縁を得て、老舗の素晴らしさを知ることになりました。本当の老舗は凄いと。つまり、当時の僕は、何もわかっていなかったということです(笑)。