脳裏よぎるセル・イン・メイ、2年前と楽観酷似-株高の死角
2015/03/23 10:02 JST
(ブルームバーグ):2015年も間もなく1-3月期が終了、日本株は年初から10%以上上昇と世界の中でも好調だ。国内景気や企業業績の改善に加え、配当など株主還元の強化が評価されている。右肩上がりのチャート と楽観ムードは2年前と酷似、同時に5月暴落の記憶と「セル・イン・メイ(5月に売れ)」の相場格言も脳裏をよぎり始めた。
みずほ投信投資顧問の青木隆シニアファンドマネジャーは、「あの時の下落幅は1987年のブラックマンデーと同じ程度だった」と13年5月の日本株暴落 の場面を振り返り、当時と同様、足元で過熱する各種テクニカル指標に警戒感を示す。
「当時も新年度の企業業績は非常に強いという期待感が高まっていた。ふたを開けると慎重な業績見通しなどで目線が一気に下がった」と青木氏。ことしのケースでも「来年度に対する期待があり得ないほど高い」ことから、短期的には5月あたりがいったん相場のピークになりそうだと予想した。
TOPIXはことしに入り07年3月以来の高値水準を回復、20日時点の年初来パフォーマンスはドルベースでプラス11%と先進国の中でトップを走る。1ドル=120円を超えた為替のドル高・円安進行、消費税増税の影響が一巡したファンダメンタルズ改善への期待に加え、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)による日本株組み入れウエートの引き上げ、日本銀行による上場投資信託(ETF)の買い入れ拡大など株式需給面の好材料も株高を後押ししている。
一方、急ピッチの上昇でテクニカル分析からは過熱感が強い。相場の勢いを示す相対力指数(RSI)はTOPIXで76%と、目先買われ過ぎを示す70%を超え、東証1部の上昇・下落銘柄数の百分比を示す騰落レシオも過熱圏の120%以上に位置する。三井住友信託銀行の瀬良礼子マーケット・ストラテジストは、「株式市場は一本上昇で上がっていくわけではない。テクニカル面で過熱感があり、調整モードに入りやすくなる」と警鐘を鳴らす。
魔の5月23日、バーナンキ氏発言13年の相場を振り返ると、年初から3月19日までにTOPIXはドルベースで10%上昇と現在とほぼ同じ。当時はアベノミクスで為替の円安基調が強まっていた上、4月には日銀が大規模な質的・量的緩和を発表。さらに7月参院選での与党勝利、リフレ政策強化への期待もあり、暴落前日の5月22日までで年初来上昇率は23%に拡大した。当時のRSIは78%だった。
ところが、米連邦準備制度理事会(FRB)のバーナンキ議長(当時)が量的緩和第3弾(QE3)の縮小を暗示する発言を行ったことを受け、翌23日のTOPIXは1日で6.9%安と暴落。東日本大震災が発生した直後の11年3月15日以来の下落率となり、同日を含むその後12営業日で17%下げた。
楽天証券経済研究所の土信田雅之シニアマーケットアナリストは、「上げに対するマーケットのムードは13年5月と現在は似ている。日銀緩和と円安による業績期待で、当時は日経平均が3万円まで上がるという強気の人すらいた」と指摘。現在の日本株は業績や株主還元、コーポレート・ガバナンス(企業統治)改善などの期待を先に織り込んで上がっており、「4月以降の企業業績を確認するタイミングで、もし現実が追い付いていなければ、下がるだろう」とみる。
土信田氏は、現在の方が13年より期待を先取りするタイミングと上げ方が大きく、「3月中にも調整があるとみている。TOPIXは1450、日経平均は1万8000円程度まで調整しそう」と慎重だ。
異なる相場の質、在庫循環一方、13年と現在とでは相場の質が違う、との見方もある。みずほ投信の青木氏は、2年前は「不動産など業績の裏付けがなく、資産価値が上がる脱デフレのイメージで上がっていたものが相場をリードし、上げの質が良くなかった」と分析。現在は業績の質を伴い、「1-2カ月の調整で再度上に行ける。今回はもっと緩やかな調整になる」と読む。
また青木氏は、在庫循環の違いにも注目する。現在は消費税増税前の作り込みから1年が経過し、「在庫一巡から1-3月をボトムに循環的指標は改善してくる。賃金が上がるのも、生産が増加する際にはマージンが維持できると経営者が判断するためだ」と分析。これに対し、13年は「循環のボトムは12年夏で、循環が今ほど若くない」と言う。
投資助言会社のロジャーズ・インベストメント・アドバイザーズの最高経営責任者(CEO)、エド・ロジャーズ氏は「株価が調整するのはとても良いことだ。調整が大きくても長くは続かないだろう」とし、現在は企業業績が崩れるようなことはなく、「25年間にわたって日本株市場を殺してきたような要因はない」とみている。
23日の日本株は、企業業績への期待感や欧米株高によるリスク選好の動きがプラスとなり、TOPIXは前週末比0.4%高の1586.38で取引を開始、その後上げ幅を広げた。
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更新日時: 2015/03/23 10:02 JST