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内科医・酒井健司の医心電信

多くの国でポリオは根絶されましたが、いくつかの国ではまだポリオが流行しています。その一つがパキスタンです。CNNが伝えるところによると、パキスタンにおいて、子どもにポリオのワクチンを受けさせなかった親500人あまりが逮捕されたそうです。

子どものポリオ予防接種を拒否、500人以上の親逮捕 パキスタン
http://www.cnn.co.jp/world/35061298.html

イスラマバード(CNN) パキスタン北西部カイバル・パクトゥンクワ州の警察は2日、州都ペシャワル周辺で、子どもにポリオ(小児まひ)の予防接種を受けさせなかった親513人を逮捕した。
警察幹部によると、親たちは子どもにワクチン接種を受けさせるとの宣誓書に署名すれば、保釈が認められる。


ポリオが根絶された地域では、ワクチンのメリットはそれほど大きくないためジレンマが生じます。しかし、パキスタンではポリオが流行していますので、普通に考えればワクチンのメリットはかなり大きいはずです。いったいなぜ、ワクチン接種を拒否するのでしょうか。

CNNの記事によると、オサマ・ビンラディン容疑者を追跡するために、米中央情報局(CIA)がポリオワクチン接種と称して同容疑者の家族らのDNAサンプルを採取したことなどから、ワクチン接種への不信感が強いのだそうです。あるいは、西洋の価値観に対する反発もあるのかもしれません。

いずれにせよ、ワクチン接種を拒否するから逮捕というのは、行き過ぎのように私には思えます。医療行為は正しい情報を提供され、納得した上で受ける側が選択するものです。メリットがデメリットを上回るからと医療を強制するのは人権侵害です。

ただ、ポリオワクチンの場合は、もっと話は複雑です。一つは医療の対象が子どもであることです。ワクチン接種を拒否する選択をするのは親ですが、その選択によって麻痺などの不利益を被るのは子どもです。先進国においても、医療ネグレクトや宗教上の理由による輸血拒否などの子どもが被る不利益が著しい場合には、強制力を持った介入がなされることもあります。

話が複雑であるもう一つの理由は、ポリオが感染症であることです。ワクチンを拒否することによる不利益は一人に留まりません。やはり先進国においても、感染症に対する強制力を持った介入がなされることがあります。最近では、アフリカでエボラ出血熱の診療を行っていた医療従事者がアメリカ合衆国に帰国したときに、強制隔離されるべきかどうかが議論になりました。

しかしながら、パキスタンにおけるポリオワクチン接種拒否については、逮捕という方法は果たして適切であったのか、他に方法はなかったのかと、私は思います。子どもの不利益や感染の広がりによる被害の拡大を当局は懸念したのでしょう。逮捕してワクチンを受けさせても不信感は増すばかりです。ポリオの根絶はまだ遠い将来のことでしょう。

酒井健司 (さかい・けんじ)

1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務しています。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていないのです。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えて行くのが、このコラムの狙いです。

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