東京ディズニーリゾート(「Wikipedia」より)

写真拡大

 オリエンタルランドが運営する東京ディズニーリゾート(以下、TDR)。TDRを構成するレジャー施設のひとつ、東京ディズニーランドの混雑ぶりについては、3月19日付当サイト記事『ディズニーR崩壊寸前?異常な混雑で長い行列だらけ 飲食店は険悪、泣き出す子供…』で紹介したが、もうひとつの施設である東京ディズニーシー(以下、TDS)も同様に行列、また行列が常態化している。

 筆者も初夏の暑さとなった3月中旬に取材に訪れたが、「学生限定 春のキャンパスデー」と銘打ったキャンペーンの影響もあって学生グループが多く、どのアトラクションも2〜3時間待ちの行列が広がっている。

 その中で今回、注目したいのは、「ロストリバーデルタ」エリアのハンガーステージで行われているショー「ミスティックリズム」だ。このショーは、2001年のTDSグランドオープン当初から公演されている。

 ジャングルを舞台に「水」「土」「火」をテーマにダンサーが蝶や鳥、精霊などに扮して、ダンスを披露する。このショーでは炎や水などの特殊効果がふんだんに使われており、最前列付近は水や煙に巻きまれるなど、臨場感もたっぷりだ。

 ただし、キャラクターは一切出てこない。その代わりにミュージシャンによる生バンド演奏と、20人を超えるダンサーたちの体を張ったパフォーマンスに引き込まれる、どちらかといえば大人向けのショーだ。「海」をテーマにした、世界唯一のディズニーテーマパークとして、お酒も飲める大人向けのコンセプトを設定したTDSの象徴的な名物アトラクションの1つとなっている。

 取材に訪れたこの日も満員で、ダンサーたちがステージの水に飛び込む様を見て、悲鳴を上げる外国人グループなども多い。日本の高いショーレベルをアジアに伝える一面もありそうだ。

●名物アトラクションもリストラ対象に

 しかし、このTDSの名物アトラクションが4月5日で終了するという。ゲスト(観客)もたくさん入っているのに、いったいなぜなのだろうか?

 キャスト(従業員)の労働環境の改善を要望するオリエンタルランド・ユニオン(以下、ユニオン)は、その背景を次のように語る。

「オリエンタルランドは、利益を最大化しようとTDRの人件費をギリギリまで圧縮しています。このため、パフォーマーが多数登場するようなショーは人件費コストが大きいため閉鎖の対象になっているのです。これまでも、次々とコスト削減を重ねてきましたが、最近では、『リニューアル』と称してリストラを図っているのです。今回のミスティックリズムの終了も、以前はパフォーマーがもっとたくさん出演していた華々しいショーでしたが、少しずつ人数を減らしてきました。今では残った出演者に負担を押し付け、ギリギリの人数で回してきたのです。16年度からは、プロジェクションマッピングを駆使した新エンターテインメントが導入されることになるといい、パフォーマーは最小限もしくはゼロになりかねないのです」

 実はユニオンは、元出演者たちを中心に結成されたものだ。彼らは、7〜17年間にわたりパフォーマーとして派遣契約で出演してきたが、「ショーをリニューアルオープンする」との名目で、昨年3月末で解雇を通告された。

「ミスティックリズムのパフォーマーたちの多くは、オリエンタルランドに直接雇用されているのではなく、中間会社を経由して雇われているにすぎません。彼らは個人事業主扱いで健康保険や国民年金、労災保険も自己負担です。しかも、オリエンタルランド側としては簡単にリストラができる格好の契約形態。今回も長年ショーを支えてきたパフォーマーたちを必要なくなったとして一方的に解約しています」(ユニオン)

 名物アトラクションでも使い捨てが発生している“夢の国”の実態があるわけだが、長年働いてきたパフォーマーたちが、新技術プロジェクションマッピングに取って代わられる現実は、飛躍的に能力を拡大していくコンピュータに人間はますます仕事を奪われる「テクノロジー失業」の未来を描いた『機械との競争』(エリク・ブリニョルフソン、アンドリュー・マカフィー/日経BP社)の世界そのものだ。つまり、TDRはまるで『機械との競争』のテーマパークだ。

「ミスティックリズム終了についても、オリエンタルランド側に見直しを働きかけていきますが、次にリニューアルという名のリストラ対象として心配されているのが、『アラビアンコースト』エリアにある『マジックランプシアター』です。このショーは3D映像とパフォーマーがコラボレーションする人気のマジックショーですが、パフォーマーもステージのスタッフも外注なので、解雇しやすい状況にあるのです」(ユニオン)

 ユニオンが結成されて約1年。ユニオンの要求によって、従来は前月までに届け出なければ認められにくかった有給休暇が直前の申請でも認められるようになり、また、その日の客数に合わせて短縮を余儀なくされていた労働時間もキャスト側が「シフト時間通り働きたい」と申し出れば希望が通りやすくなったという。このようにキャストの労働環境も少しずつは改善されつつある。

 しかし、使い捨ての経営方針は変わらないのが現実なのだ。パフォーマーやミュージシャンたちの日々の鍛錬の賜物でもあるミスティックリズムは、別れを惜しまれつつも、幕を閉じる。
(文=松井克明/CFP)