栃木県の総合内科医のブログ

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MKSAP:慢性細菌性前立腺炎/慢性重症僧帽弁閉鎖不全症/骨盤内炎症性疾患

MKSAPまとめです。
周回遅れ・・・

慢性細菌性前立腺炎 Treat chronic bacterial prostatitis

❶症例 
 28歳男性が、6ヶ月前からの骨盤痛と頻尿、射精時の疼痛を主訴に外来を受診された。この6ヶ月間に3回ほど尿路感染症としての治療歴があり、その度に一時的な症状の改善はあるものの抗菌薬終了後短期間で症状が再燃していた。
 身体所見では、バイタルサインは正常。恥骨上部に圧迫で軽度の圧痛あり。前立腺のサイズは正常で、ごく軽度の疼痛はあるが腫瘤は触知しなかった。尿検査では、多核白血球・細菌尿は認めたが、赤血球尿は認めなかった。

 この患者の最も適切な治療はどれか?

 ❷慢性前立腺炎
 本患者は慢性細菌性前立腺炎の状態でNational Institutes of HealthのカテゴリーⅡに分類される。特徴は再発性の細菌性尿路感染症である。慢性前立腺炎患者の前立腺所見は急性前立腺炎患者よりも軽度である事が多い。
 急性細菌性前立腺炎の場合には、National Institutes of HealthのカテゴリーⅠと分類される。また、National Institutes of HealthのカテゴリーⅢとして、慢性非細菌性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群などの疾患概念があり、これらには抗菌薬は無効である。

❸治療方針
 最も適切なのは1ヶ月のフルオロキノロン抗菌薬投与である。フルオロキノロン長期投与の理由は主に、前立腺への良好な移行性の故である。カテゴリーⅠの急性前立腺炎に、最も適切なのは1週間のST合剤による治療である。また、カテゴリーⅢの慢性非細菌性前立腺炎には、抗菌薬は無効であり、認知行動療法や共感的支持療法が推奨されている。

Key Point
✓ 慢性細菌性前立腺炎の治療は長期間のフルオロキノロンが推奨される。

Touma NJ, Nickel JC. Prostatitis and chronic pelvic pain syndrome in men. Med Clin North Am. 2011;95:75-86. PMID: 21095412

 

 

慢性重症僧帽弁閉鎖不全症 Manage chronic severe mitral regurgitation

❶症例
  54歳女性が、動悸を主訴に外来受診。過去数週間で心拍不整を自覚。胸部不快や頭痛、失神、起坐呼吸、夜間発作性呼吸困難、下腿浮腫はなかった。
 既往歴として、粘液腫による僧帽弁変性が原因の慢性重症僧帽弁閉鎖不全症があった。年に一回経胸壁心臓超音波検査を施行しており、2ヶ月前には、左室収縮能は65%で、左室拡張末期径が53mm、収縮末期径38mmだった。左房は拡張し28㎠だった。僧帽弁は肥厚し、後方逸脱と重度の前方への逆流を認めた。弁口面積は0.4㎠。推定左室収縮期圧は38mmHgだった。
 身体所見では、体温 37.4℃、BP 132/74mmHg、Pulse 95bpm 不整、RR 15/minだった。指定中心静脈圧と頚動脈波は正常だった。心尖拍動は触知せず、胸部聴診では、心尖部から胸骨右縁にLevine 3/6程度の汎収縮期雑音を聴取し、肺胞音は正常だった。
 心電図は心房細動所見で、心室拍動は95bpm、左軸偏位だった。

 ワーファリンを開始し、その後に行うべき最も適切なことは何か?

 ❷僧帽弁閉鎖不全症とは?
  重症の僧帽弁閉鎖不全症で左室収縮能が正常の患者では、心房細動の新規発症が手術適応になることがある。これは長期の合併症を減らす為で、肺静脈電気的隔離術やMaze手術が僧帽弁置換と合わせて行われる事がある。
 また、通常の非弁膜症性心房細動と比較すると僧帽弁閉鎖不全症に対するワーファリンの抗凝固療法の方が効果が高いとされている。

 ❸その他の治療方針
 アミオダロン:アミオダロンの様な、抗不整脈によるリズムコントロールという戦略は、長期的な抗不整脈使用が必要になり、長期使用による副作用が高くなる危険性を持っている。
 電気的カルディオバージョン:原則は左房内血栓を除外した後だが、僧帽弁逆流と左房拡張が著明である為、洞調律復帰は一時的で、心房細動への速やかな復帰が起こる可能性が高い。
 運動中心臓超音波:運動時の肺動脈圧を評価することができるが、既に手術基準を満たしている患者への追加情報にはつながらない。

Key Point
✓ 慢性重症僧帽弁閉鎖不全症患者で、左室収縮能正常の患者では、新規に心房細動が出現した場合には手術適応になる

Foster E. Clinical practice. Mitral regurgitation due to degenerative mitral-valve disease. N Engl J Med. 2010;363(2):156-165. PMID: 20647211


 

 

骨盤内炎症性疾患 Treat pelvic inflammatory disease in an outpatient

❶症例
  23歳女性が、5日前からの黄色帯下と下腹部痛、性交時痛を主訴に外来を受診された。その他の既往歴等には異常所見はない。
 身体所見では、体温 38.0℃、BP 110/60mmHg、Pulse 90bpm、RR 12/minだった。子宮頚管は炎症を起こしており、少量の膿性排出を認めた。頚管の稼働痛はなかったが、子宮の双合診で疼痛を認めた。付属器の疼痛や腫瘤は認めなかった。
 妊娠反応は陰性。

 最も適切な治療はどれか?

 ❷骨盤内炎症性疾患
 本患者は骨盤内炎症性疾患である。子宮頚管の疼痛はないが、子宮の疼痛がある為、PIDを考えるべきである。PIDの臨床診断は一般的に不確実である。ただ、PIDを見逃すと、その後の不妊と関連する卵管機能障害・子宮外妊娠・慢性骨盤疼痛症候群などを合併する為、診断の閾値は下げることが推奨される。
 CDCのガイドラインでは、腹痛もしくは骨盤痛のある患者で、子宮頚部の稼働痛・付属器痛・子宮痛がある患者はPIDとして治療すべきとしている。

 ❸治療レジメン
 骨盤内炎症性疾患(PID)に対する最適治療は、単回セフトリアキソン筋注+ドキシサイクリン14日で、メトロニダゾールは追加しても良い。PIDは通常polymicrobialと考えられており、抗菌薬レジメンには、淋菌・クラミジア・グラム陰性桿菌・嫌気性菌などをカバーする抗菌薬を入れる必要がある。
 治療開始から72時間以内の比較的早めのタイミングのfollow upが重要で、治療に反応せず、嘔気・嘔吐などのために経口摂取が出来ないなどの場合には入院治療も考慮する。
 過去60日以内に性的接触のあったパートナーは評価と治療の為に外来受診を勧めるべきである。

 ❹その他の治療選択肢
 外来でなければ、クリンダマイシン+ゲンタマイシンの組み合わせも治療レジメンとする場合もある。シプロフロキサシンは、淋菌の耐性化が進んでおり、empirical治療では推奨されない。セフトリアキソン+アジスロマイシン単回治療は子宮頚管炎(STD)の第一選択であるが、PIDでは十分とはいえない。
※いわゆるSTDの子宮頚管炎であれば、AZMの単回使用は十分使用可能です。PIDとした場合には、AZM単回使用は不十分という見解です。

Key Point
✓ 腹部もしくは骨盤痛+子宮頚部の稼働時痛、付属器痛、子宮痛を呈した女性では、骨盤内炎症性疾患として治療すべきで、単回セフトリアキソン筋注+経口ドキシサイクリン14日が推奨される

 

Workowski KA, Berman S; Centers for Disease Control and Prevention (CDC). Sexually transmitted diseases treatment guidelines, 2010. MMWR Recomm Rep. 2010;59(RR-12):1-110. PMID: 21160459

 

MKSAP 16: Medical Knowledge Self-Assessment Program

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MKSAP for Students 5

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