BLOGOSを読んでいて(これはチョットなぁ……)と思ったので、敢えて書きます。
僕が「カチン」と来た記事は元産経新聞ロンドン支局長木村正人さんの:
韓国・豪も中国インフラ銀になびく 日米の囲い込み破綻
という記事です。木村さんは普段は確かな記事を書く方で、僕も彼の記事を楽しみにしていますが、この問題は専門外、明らかに生半可な理解で、そこらへんにあるニュース記事をかきあつめただけで記事にしているので、ちょっと反論したくなったのです。
まずアジア・インフラ投資銀行(AIIB)とは中国政府が中心となって進めようとしている国際的な貸付機関です。その直接のライバル、ないしはモデルとなっているのはアジア開発銀行(ADB)です。
ADBは広義には国際通貨基金(IMF)、世界銀行(World Bank)などと合わせてトロイカを構成する、いわゆるワシントン・コンセンサスによる世界金融秩序を構成する機関のひとつです。
これはアメリカの覇権に基づいた体制であり、言い換えればドルの覇権に基づいた体制です。
でも中国が経済大国としてめきめき頭角を現してきている今日、そういうドル支配体制以外の価値観が、世界にあっても良いのではないか? という考えから、AIIBを支持する国々も多いです。
もっと踏み込んだ言い方をすれば、長期的には、人民元による支配体制を構想しているとすら言い切れるでしょう。
僕は、中国がAIIBをやりたいのなら、おおいにやれば良いと思っています。僕が「問題だな」と感じている箇所は、そこじゃないんです。
僕が問題と感じている箇所は、仮に日本がAIIBに出資したとして、いまADBやIMFが批判されているのと同じような問題を、AIIBも抱える可能性が大きい……その点をじっくり考えずに、ただ「バスに乗り遅れるな!」式の軽いノリで参加を決めても、すぐに「なぜあんなモノにカネを出したんだ!」という批判が出る羽目になるということを言いたいのです。
このへんを、少し説明させて下さい。
話は第二次世界大戦当時にさかのぼります。1944年7月にニューハンプシャー州ブレトンウッズで国連金融財政会議が開催され、「第二次世界大戦が終わった後で、どうやって世界経済を復興させるか?」について44か国の730人から構成される代表団の間で、延々と議論が戦わされました。
このときの議論は、第一次大戦の戦後処理への反省に立脚しています。つまり第一次大戦の後では、戦勝国がドイツに賠償金を要求し、それがドイツのハイパー・インフレを招き、ナチの台頭する土壌をこしらえたのです。
だから「ただ戦勝国が敗戦国から奪うという方法では、また戦争になる」という共通の認識を参加各国は持っており、なにか別のやり方で世界を立ち直らせる手法が考案されたのです。
ディスカッションのリーダーシップを執ったのはイギリスの経済学者、ジョン・メイナード・ケインズです。
ケインズは「需要の減退が景気後退をもたらす」という信念を持っており、経済は、自然に放置しておくだけで、アダム・スミスの「見えざる手」のようにいつも均衡してくれるとはかぎらない……特に戦争で過去に蓄積された資本のストックがぶち壊された今となっては、人為的かつ積極的な関与が必要だと考えたわけです。
言い換えれば、「政府は需要が弱ければ意図的に需要を作り出すような政策をしなければいけない」というのが彼の考えです。そのためには金融政策も必要だけど、それでも足りないときは財政出動する必要がある……
ただ当時イギリスは第二次世界大戦を戦うためアメリカに莫大な借金をしており、財政は破たん状態同然、従ってケインズは会議での討議を100%、自分の理想の方向へ導くことができませんでした。そこで妥協を経ながら到達した合意が、当時最も経済がしっかりしていたドルを中心とする復興体制です。
僕が「カチン」と来た記事は元産経新聞ロンドン支局長木村正人さんの:
韓国・豪も中国インフラ銀になびく 日米の囲い込み破綻
という記事です。木村さんは普段は確かな記事を書く方で、僕も彼の記事を楽しみにしていますが、この問題は専門外、明らかに生半可な理解で、そこらへんにあるニュース記事をかきあつめただけで記事にしているので、ちょっと反論したくなったのです。
まずアジア・インフラ投資銀行(AIIB)とは中国政府が中心となって進めようとしている国際的な貸付機関です。その直接のライバル、ないしはモデルとなっているのはアジア開発銀行(ADB)です。
ADBは広義には国際通貨基金(IMF)、世界銀行(World Bank)などと合わせてトロイカを構成する、いわゆるワシントン・コンセンサスによる世界金融秩序を構成する機関のひとつです。
これはアメリカの覇権に基づいた体制であり、言い換えればドルの覇権に基づいた体制です。
でも中国が経済大国としてめきめき頭角を現してきている今日、そういうドル支配体制以外の価値観が、世界にあっても良いのではないか? という考えから、AIIBを支持する国々も多いです。
もっと踏み込んだ言い方をすれば、長期的には、人民元による支配体制を構想しているとすら言い切れるでしょう。
僕は、中国がAIIBをやりたいのなら、おおいにやれば良いと思っています。僕が「問題だな」と感じている箇所は、そこじゃないんです。
僕が問題と感じている箇所は、仮に日本がAIIBに出資したとして、いまADBやIMFが批判されているのと同じような問題を、AIIBも抱える可能性が大きい……その点をじっくり考えずに、ただ「バスに乗り遅れるな!」式の軽いノリで参加を決めても、すぐに「なぜあんなモノにカネを出したんだ!」という批判が出る羽目になるということを言いたいのです。
このへんを、少し説明させて下さい。
話は第二次世界大戦当時にさかのぼります。1944年7月にニューハンプシャー州ブレトンウッズで国連金融財政会議が開催され、「第二次世界大戦が終わった後で、どうやって世界経済を復興させるか?」について44か国の730人から構成される代表団の間で、延々と議論が戦わされました。
このときの議論は、第一次大戦の戦後処理への反省に立脚しています。つまり第一次大戦の後では、戦勝国がドイツに賠償金を要求し、それがドイツのハイパー・インフレを招き、ナチの台頭する土壌をこしらえたのです。
だから「ただ戦勝国が敗戦国から奪うという方法では、また戦争になる」という共通の認識を参加各国は持っており、なにか別のやり方で世界を立ち直らせる手法が考案されたのです。
ディスカッションのリーダーシップを執ったのはイギリスの経済学者、ジョン・メイナード・ケインズです。
ケインズは「需要の減退が景気後退をもたらす」という信念を持っており、経済は、自然に放置しておくだけで、アダム・スミスの「見えざる手」のようにいつも均衡してくれるとはかぎらない……特に戦争で過去に蓄積された資本のストックがぶち壊された今となっては、人為的かつ積極的な関与が必要だと考えたわけです。
言い換えれば、「政府は需要が弱ければ意図的に需要を作り出すような政策をしなければいけない」というのが彼の考えです。そのためには金融政策も必要だけど、それでも足りないときは財政出動する必要がある……
ただ当時イギリスは第二次世界大戦を戦うためアメリカに莫大な借金をしており、財政は破たん状態同然、従ってケインズは会議での討議を100%、自分の理想の方向へ導くことができませんでした。そこで妥協を経ながら到達した合意が、当時最も経済がしっかりしていたドルを中心とする復興体制です。
国際通貨基金(IMF)、国際復興開発銀行(IBRD→のちの世界銀行)という二本立ての復興機関を設立することによって世界経済の立て直しをガイドしてゆく案が、そこで固まったわけです。
IMFの主な責務は第二次大戦後の世界経済が脆い局面で、再び世界が恐慌に舞い戻りしないようにすることでした。具体的には、世界の需要の総和を考えた際、需要創出に貢献していない国には「もっと需要を作りだせ!」と促すことで、世界が協調して需要の維持に取り組むフレームワークが設けられたということです。
このようにIMFはあくまでも参加各国の公的機関であり、一国の利害の伸長を意図するものではありません。参加メンバー国の国民から徴収した税金を、負担比率に応じて拠出することで、その資本としたわけです。
しかし、出資比率はいちばんリッチだったアメリカが一番多額だった関係で、米国には実質的な拒否権が付与された格好になったのです。
今日、IMFの活動はアカウンタビリティーの面から批判されています。我々の税金で動いている公的組織なのに、その活動は不透明です。「各国の持つ投票権に不公平がある」と日頃から参加国は感じており、それが疎外感を生んでいます。政策に、ポジティブな貢献をする機会が無いというわけです。
その意味において、今回、中国が「オレ様の国際機関」となるAIIBを設立したいという願望を抱くのは、無理もない話だと思います。
さて、ジョセフ・スティグリッツに言わせれば、1980年代以降、レーガンとサッチャーが登場して以来、IMFと世銀は、「新しい自由市場主義という宗教の宣教師のような役回り」になりました。
世銀の場合、発展途上国の貧困の根絶という目標があったわけだけど、いつの間にかそれが忘れられて、発展途上国の政府の欠点をあげつらい、何が何でも自由貿易最優先の、ある種、教条主義的な存在に成り下がったわけです。
こうした「使命のすり替わり」に加え、「代替案についてじゅうぶん議論が尽くされない」とか「イデオロギーが経済政策の処方箋を決めてしまう」とか「透明性が欠けている」とか「奨励した経済政策が間違っていたとき、それに対する責任が問われない」などの批判が噴出しているわけです。
一方、アジア開銀に目を転じると、ADBは世銀とは「別の視点」を提供することを目的としてきました。それは「アジア・モデル」という言葉に体現される価値観で、これをリードしてきたのは日本の大蔵省です。
僕は、昔、プラント輸出の仕事をしていた頃、ADBにはホトホト泣かされたので、ADBのファンではありません。
でもADBがAIIBに変わったところで、そっちの方が良い機構になるか? と言えば、これは慎重にならざるを得ません。特に中国には公的機関の透明性のカルチャーは無いので、AIIBだけがトランスパランシーやアカウンタビリティーの面で優れた機関になるだろうと考えるのは、甘いというのを通り越して、馬鹿げている前提だと思います。
それよりも、なによりも、日銀の黒田総裁の「旗艦」だったADBという存在が日本人には既にあるのに、それと重複投資になる上、日本がリーダーシップすら発揮できないAIIBという中国のプライドを満足させるための玩具に、日本政府は日本国民の血税を投入してオッケーという国民的なコンセンサスが出来ているのか? という点が気になるわけです。
いまの日本には、そんな余裕、ないと思うけどね。
(文責:広瀬隆雄、Editor in Chief、Market Hack)
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IMFの主な責務は第二次大戦後の世界経済が脆い局面で、再び世界が恐慌に舞い戻りしないようにすることでした。具体的には、世界の需要の総和を考えた際、需要創出に貢献していない国には「もっと需要を作りだせ!」と促すことで、世界が協調して需要の維持に取り組むフレームワークが設けられたということです。
このようにIMFはあくまでも参加各国の公的機関であり、一国の利害の伸長を意図するものではありません。参加メンバー国の国民から徴収した税金を、負担比率に応じて拠出することで、その資本としたわけです。
しかし、出資比率はいちばんリッチだったアメリカが一番多額だった関係で、米国には実質的な拒否権が付与された格好になったのです。
今日、IMFの活動はアカウンタビリティーの面から批判されています。我々の税金で動いている公的組織なのに、その活動は不透明です。「各国の持つ投票権に不公平がある」と日頃から参加国は感じており、それが疎外感を生んでいます。政策に、ポジティブな貢献をする機会が無いというわけです。
その意味において、今回、中国が「オレ様の国際機関」となるAIIBを設立したいという願望を抱くのは、無理もない話だと思います。
さて、ジョセフ・スティグリッツに言わせれば、1980年代以降、レーガンとサッチャーが登場して以来、IMFと世銀は、「新しい自由市場主義という宗教の宣教師のような役回り」になりました。
世銀の場合、発展途上国の貧困の根絶という目標があったわけだけど、いつの間にかそれが忘れられて、発展途上国の政府の欠点をあげつらい、何が何でも自由貿易最優先の、ある種、教条主義的な存在に成り下がったわけです。
こうした「使命のすり替わり」に加え、「代替案についてじゅうぶん議論が尽くされない」とか「イデオロギーが経済政策の処方箋を決めてしまう」とか「透明性が欠けている」とか「奨励した経済政策が間違っていたとき、それに対する責任が問われない」などの批判が噴出しているわけです。
一方、アジア開銀に目を転じると、ADBは世銀とは「別の視点」を提供することを目的としてきました。それは「アジア・モデル」という言葉に体現される価値観で、これをリードしてきたのは日本の大蔵省です。
僕は、昔、プラント輸出の仕事をしていた頃、ADBにはホトホト泣かされたので、ADBのファンではありません。
でもADBがAIIBに変わったところで、そっちの方が良い機構になるか? と言えば、これは慎重にならざるを得ません。特に中国には公的機関の透明性のカルチャーは無いので、AIIBだけがトランスパランシーやアカウンタビリティーの面で優れた機関になるだろうと考えるのは、甘いというのを通り越して、馬鹿げている前提だと思います。
それよりも、なによりも、日銀の黒田総裁の「旗艦」だったADBという存在が日本人には既にあるのに、それと重複投資になる上、日本がリーダーシップすら発揮できないAIIBという中国のプライドを満足させるための玩具に、日本政府は日本国民の血税を投入してオッケーという国民的なコンセンサスが出来ているのか? という点が気になるわけです。
いまの日本には、そんな余裕、ないと思うけどね。
(文責:広瀬隆雄、Editor in Chief、Market Hack)
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