社説:野球ひじ 少年期の予防が重要だ
毎日新聞 2015年03月23日 02時30分
米大リーグ、レンジャーズのダルビッシュ有投手(28)がマウンドで躍動する姿を今季は見られなくなった。精密検査で異常が見つかった右肘靱帯(じんたい)の修復手術を受けたためだ。復帰には通常約1年を要すると言われる。メジャー移籍4年目の今季は初の開幕投手を任されるのではないかとの期待もあっただけに残念だ。
大リーグでは近年、肘にメスを入れる投手が珍しくない。レッドソックス時代の松坂大輔投手(現ソフトバンク)、カブスの和田毅投手らも同様の手術を受け、復帰した。
とはいえ、手術前の球速や球威が回復するという保証はなく、リスクがゼロになったわけではない。
先発投手は「中4日」が主流の大リーグにあってダルビッシュ投手は身体を保護するという思いで「中6日」を主張してきた。昨年、高校野球での連投が問題になった際には子どもたちの発達、成長段階に応じて投球制限を設けるべきだと発言してきたダルビッシュ投手でさえ手術に追い込まれた事実は重い。幼いころから野球に打ち込む日本の子どもたちにとっても人ごとではない。
肘や肩を痛める野球少年が増えている。全日本野球協会と日本整形外科学会などが今年度、国内の軟式、硬式約540チームに所属する約1万人の小学生らを対象に初めて実施した全国調査によると、投手の約半数が肘や肩に痛みを感じたことがあり、捕手は約4割にのぼる。
小学生の全力投球数について、日本臨床スポーツ医学会は「1日50球以内、試合を含め週200球を超えないこと」を提言しているが、今回の調査では200球未満でも約半数が肘や肩の痛みを訴えた。痛みがあっても休まず投げ続けたという投手は2割を超え、通院もしくは治療を受けた投手は1割ほどだった。
3割を超えるチームが年間80試合以上をこなしている実態があり、オフシーズンを設ける重要性が指摘されている。軟式の場合、1日7イニングを上限とするルールを設けているが、これは公式試合が対象で、練習試合を含めた投球制限について検討する必要がある。
成長期に起こりやすい関節障害である「野球ひじ」の発生は小学校高学年の11、12歳がピークで、放置すると外科手術が必要になり、後遺症が残る恐れもある。
故障予防のためには正しいボールの握り方、投げ方を習得することが欠かせない。啓発活動に取り組んでいる全日本軟式野球連盟は近く、加盟約1万2000チームに所属する小学生約25万人に負担の少ない投げ方を紹介した冊子を配布する。子どもたちの健全な成長のために指導者や保護者も読むべきだ。