社説:イスラエル政治 強硬路線は孤立を招く
毎日新聞 2015年03月23日 02時35分
「何よりも平穏と安定だ」。有権者のそんな声が聞こえそうな選挙結果である。イスラエル総選挙(17日投開票)は、ネタニヤフ首相率いる右派政党リクードが第1党となり、強硬な右派主導政権が続く見通しが強まった。ネタニヤフ氏はパレスチナ国家樹立を認めない態度も見せており、中東和平の進展がさらに厳しくなったのは心配である。
比例代表制で行われる同国の総選挙(1院制、定数120)は、1党が過半数を制したことはなく、選挙後の多数派工作が焦点になる。議席を現有18から30に伸ばしたリクードにとって過半数の連立工作は容易だろう。リブリン大統領は近くネタニヤフ氏に組閣を要請する見通しだ。
選挙前、優勢が伝えられた中道左派の統一会派シオニスト・ユニオンは24議席にとどまった。労働党などでつくる同会派はパレスチナとの和平交渉再開に前向きで、イラン核問題をめぐって冷え込んだ米オバマ政権との関係修復もめざしている。
他方、ネタニヤフ首相は徹底的に強硬路線をアピールした。今月初め、首相はオバマ政権の頭越しに米議会で演説しイランの核開発への対応を批判した。投票日前日にはパレスチナ国家を実現させないと語り、イスラエル・パレスチナの「2国家共存」を否定する姿勢に転じた。
だが、強硬一辺倒では国際的な孤立が深まるばかりだ。たとえば昨年のガザ攻撃でイスラエル軍は2100人を超えるパレスチナ人を殺害した。多くは一般市民だ。また、占領地での植民活動を禁じた国際条約にもかかわらず、ユダヤ人入植地(住宅団地)の建設も進めてきた。
こうした行為がまかり通るのは、米国がイスラエルを擁護し、同国に不利な国連安保理決議案を拒否権で葬ってきたからだ。ネタニヤフ氏の「2国家共存」否定を受けて、オバマ大統領は同氏に擁護路線を見直す可能性を伝えたとされる。イスラエルに国際法順守を要求する国際的な運動も広がっている折、同国は率直に風向きの変化を感じとるべきだ。
イランへの対応も再考してほしい。かつてイラクの原子炉やシリアの核疑惑施設を空爆したイスラエルはイラン空爆も辞さないという。だが、核開発をめぐる米欧など6カ国とイランの協議を「悪い取引」(ネタニヤフ氏)といえるかどうか。空爆しても問題解決にはならず、中東情勢がさらに悪化するのは明らかだ。
ネタニヤフ氏は最終的に「2国家共存」を支持したとされるが、楽観はできない。国際社会はもう流血を見たくあるまい。イスラエルは平和的な手段でパレスチナやアラブ諸国との融和を考えてほしい。それこそが真の平和に通じる道である。