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SXSW 2015

アメリカのテキサス州オースティンで3月13日から3月22日までの10日間に渡って開催される音楽と映画、インタラクティブのフェスティバル「SXSW」(サウス・バイ・サウス・ウェスト)が開催されました。元々は1987年にインディーズの音楽イベントとして始まったものでしたが、1994年からFilmと共に加わったInteractiveにおいてTwitterやfoursquare、Pinterestといったサービスが初めて注目された場ということもあり、スタートアップと多様な人々の接点として認知されています。くわえて最近では、ウェブサービスやスマートフォンアプリケーションだけでなく、TelepathyやAgICのようなハードウェアが最初に出展される場所として注目を集めつつあります。私自身は、未来予報研究会井口さんのレポートを通じてその存在となんとなく面白そう、という興味は持っていましたが、正直に言うと何がそこまで面白いのかは理解できていませんでした。しかしながら、思い起こしてみればMaker Faireも体験しない限りその面白さを理解できないイベントでした。そんなこともあり、現在生まれつつある新たな生態系のリサーチの一環として現場に行ってみることにしました。

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右側のような自転車タクシー(pedicab)はこの時期特有の伝統ということで、オースティン限定でUberからも利用することができた。

このレポートは、初めてSXSWに参加した私が個人的に書いたものです。勘違いは多々あると思いますし、客観的にSXSWに関する情報を提供するようなものではありません。それでも、最初に参加した時の新鮮な記憶が残っているうちに、個人的に印象に残ったところを中心にいくつか取り出して書いてみたいと思います。

多様性のカオスを楽しめるか

SXSW Interactiveは、Austin Convention Center(通称ACC)での基調講演やトレードショー(今年の場合には3日目から5日目まで3日間開催)に加えて、周辺のホテルなどでのセッションがパラレルに進行します。例えば、2日目となる3月14日の最初のセッションの多くは09時30分から始まるのですが、その時間帯には60以上ものセッションが同時進行しています。それぞれの会場間の移動時間もそれなりにかかり、近いところでも5分、遠いところだと15分以上かかるところがあります。セッションの標準的な時間は1時間で、30分間の休憩時間をおいて次が始まるため、よく移動のことを考えないと間に合わないことになります。また、セッションによっては定員数十人程度の小さな部屋で開催されるため、人気のあるセッションだと定員を超えてしまうとキャンセル待ちで部屋の前に並ぶか、最悪あきらめることになります。

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コンベンションセンター第5ホールのメインステージ。基調講演など大人数のセッションがこちらで開催された。
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基調講演はリアルタイムでグラフィックレコードされ、終了後にコンベンションセンター内の別の場所に運ばれて見られるように展示されていた。

正直なところ、最初はかなり混乱しました。初日から1日遅れた3月14日の朝にコンベンションセンターで登録をすませると、バッジと共にかなり分厚いプロフラムの入ったカンファレンスバッグを渡されました。プログラムを開くとパラレルに非常に多くのセッションが掲載されています。公式スマートフォンアプリのSXSW GOで検索することも可能ですが、目的の時間帯にたどり着くためにはひたすらスクロールを繰り返す必要があります。ひとまず、面白そうなセッションが1つあったので行ってみようということになって少し迷いながら到着すると、そこには長蛇の列ができていました。てっきり開始が遅れているのかと思ったら、現在のセッションはすでに満席でキャンセル待ちをしている人々の列でした。そこで慌てて他の部屋に行こうとしても、そこもまた同様でした。これを繰り返していると、延々にさまよい続けるだけで何も見れないし、得られないことになります。そういえば、未来予報研究会のウェブサイトでも予習の重要性を強調されていましたが、このことだったのかと現地で遅まきながら痛感したわけです。

しかしながら、自分で積極的に情報を収集して次々と瞬時に決断して動くことが必要なのだ、ということがわかってからは俄然楽しくなりました。噂に聞いてはいましたが、SXSWは多様性のカオスで、これをどう捉えるかは見る角度によって大きく変わります。いわゆるビジネス系のカンファレンスの様に、決まった部屋に座っていればある程度のレベルの内容が勝手に展開され、配布される資料(典型的には話す内容が全部書かれている)を見ていればなんとなくわかった気になる、というようなことはありません。自分の興味に合わせて積極的に動くことで初めて何かを得ることができます。そこがつかめればかなり面白くなります。例えば、小さな部屋で行われるセッションであれば終了後もスピーカーとディスカッションを続けることができます。また、数あるセッションの中から自分と同じセッションを選んだ人はなんらか共通点があるので、待ち時間に話してみるとそこからもつながりを得られます。何人かで話が盛り上がればそのまましばらく立ち話をしてもいいですし、そのまま一緒にコーヒーを飲みに行くのも、セッションではなく別会場の展示を見て回るのもまた自由です。

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セッション終了後に会場の外でディスカッションする参加者たち。こうした光景は期間中のあちこちで見られた。

そのようなわけで、自分なりにそんなコツがわかってからはかなり楽しめるようになりました。これから、その中で印象に残ったものをいくつか紹介したいと思います。

セッション

セッションはどれもかなり濃い内容だったため、その中の1つを取り出して紹介したいと思います。Local Motorsの共同商業者でCEOのJay Rogersと、Oak Ridge国立研究所のJesse Smithの二人によるセッションでは、昨年発表された大きな話題になったAdditive Manufacturing(積層造形や付加製造と訳される、以下AM)による電気自動車の製造プロセスの詳細と、現在取り組んでいる中で新たに得られた知見に関する紹介がありました。「Welcome to the Third Industry Revolution」(第3次産業革命へようこそ)と題したこのセッションのメッセージは、人々の創造性とデジタル工作機械、材料工学の組み合わせによって新たな産業革命が起きる、というものです。

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Oak Ridge国立研究所のJesse Smith(左)とLocal Motorsの共同商業者でCEOのJay Rogers(右)。

Local Motorsが2014年9月にInternational Manufacturing Technology Show 2014で発表した電気自動車は、熱で溶解させた樹脂を200以上の層を順次重ねて造形し、コンピュータ制御で高速に回転する刃物で切削して精度を高め、AMでは製造しない部品と組み合わせて製造されたものでした。それまでにも一部の高級車でインテリアの一部をAMで製造した例はありましたが、シャーシを含めて全て製造した例はなく、しかもショーの期間中に会場内に設営したマイクロ工場の中で公開で製造れたことから大きな話題になりました。2015年1月のCESで展示された際には「自分たちの美しい製品でなく、Local Motorsばかり人だかりができる」とGMはクレームをつけたそうです。また、今回のSXSWでもこの自動車を展示することを検討したそうですが、公式スポンサーの1つである自動車メーカーのクレームで実現しなかったようです。こうした圧力があったことからも、Local Motorsの取り組みが注目されているということになるでしょう。

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IMTS 2014の会場内に設営され、期間中に車のボディを製造したマイクロ工場。

セッションの後半では3Dプリンターで自動車を製造するために行われている取り組みと、その中で新たに得られた知見が紹介されました。まず、現在Local Motorsは自動車の製造工場とショールームを兼ねた工場を建設中です。この工場はAMを最も効率よく行えるように設計されています。日進月歩で進化するAM用のデジタル工作機械を常に最新に保つため、機械の入れ替えをスムーズに行えるように最初から設計されています。つぎに、鋳造や鍛造、板金や射出成形といった従来の製造方法と比較してまだ劣っていると思われているAMに関して、新たな特長があることを示しました。例えば、最近の車は衝突時に一部の空間をつぶれやすく設計することで衝撃を吸収するようになっているため、数十年前の車と比較すると随分大型化しています。これに対して、AMで適切な積層を行うことにより、衝突時に先端から順に壊れていくような特性を持たせることができるそうです。これがうまくいけば、コンパクトさと安全性を同時に実現した自動車が実現できます。この他、複数の材料を切り替えて、あるいは自在にグラデーションさせながら積層する方法や、拙作との組み合わせによる効率的な製造方法など、材料工学を得意とするOak Ridge国立研究所との密接な連携によりかなり先端的なところに踏み込んでいます。

Local Motorsは、オンラインコミュニティの中でクラウドソーシングによって集めた設計を元に、自動車業界のサプライヤーから必要な部品を集め、ローカルに製造するというのが特徴です。ガソリンやディーゼルといった燃料を用いる内燃機関から電気自動車になることにより、設計の自由度は大幅に高まります。Tesla MotorsのTeslaシリーズはその自由度を最大限に生かし、ソフトウェア的な設計思想で作られた電気自動車として成功しましたが、製造方法に関しては従来の自動車と大きく変わるものではありません。これに対して、Local Motorsは今までの取り組みを通じて作り上げたコミュニティによるクラウドソーシングによる設計とAMによる製造を組み合わせるという、根本的に今までとは異なるモデルを採用しています。

これらの現在進行形で行われつつある試行錯誤は、Local Motorsのウェブサイトでほぼ全てが公開されています。最初のニュースは「3Dプリンターで電気自動車をつくった」というところだけが伝えられましたが、背景にある哲学と材料工学と密接に結びついた取り組みを知ると、今後も継続して注目すべき存在であるといえるでしょう。個人的に最も印象に残っているのは、普段は淡々と語っていたJesse Smithが、なぜLocal Motorsと積極的な連携を行っているかに話が至ると、急にテンションが高くなり「多くの自動車メーカーは美しいコンセプトカーを様々なモーターショーに展示してきた。だが、それらのほとんどは実際に世の中に出ることはなかった。Local Motorsは実際に世の中に出る車を作り続けている」という意味のことを熱く語っていたことです。昨年は世界最大規模の企業であるGEとの、クラウドソーシングやコミュニティの運営に関するノウハウを提供して実現した「First Build」というウェブサービスも大きな話題になったLocal Motorsですが、今後の展開には引き続き注目する必要がありそうです。

この他参加してみて印象に残ったセッションとしては、ワシントンDCを中心に活動するチームによる法律をハックしようという世界的なムーブメントに関するセッション「Legal Hackers: A Global Movement to Reform the Law」や、食べ物や飲み物のミュージアムをつくろうというプロジェクトに関するセッション「Making the Museum of Foods and Drink」などが個人的に興味深いものでした。セッションの概要はウェブサイトで公開されていますし、それぞれの活動はウェブサイトでアーカイブされていますので、詳しくはそちらを参照すると良いかと思います。

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Legal Hackers: A Global Movement to Reform the Law」セッションのスピーカの4名。
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Making the Museum of Foods and Drink」セッションのスピーカの4名。

トレードショー

トレードショーに関しては既に多くのレポートがありますし、そもそもかなり数が多いため詳細には触れませんが、今回が2回目の出展となる東京大学のチームTodai To Texasと、今回が初めての出展となるDMM.make AKIBAの2つが並んでかなりのスペースを占め、大きな注目を集めていました。それぞれ、それぞれの組織の中で直接的にインキュベートしているプロジェクトの紹介に加えて、なんらかの形で間接的に関わっているプロジェクトをメディア的に集めて紹介するものの2つから構成されていました。これは、それぞれの組織にとってもプレゼンスを出せますし、そこに出展する人々にとっても最小限の負担で展示の機会を得られるということで、良い方法だと思います。

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会場でのランドマークともなっていたDMM.make AKIBAのブース。
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Todai To Texasのコーナーの中での安価な筋電義手handiiiを製品化すべく取り組んでいるexiiiの展示(デモンストレーションをしているのは森川さん)

特に、Todai To Texasで素晴らしいと思ったのは、東京大学の川原圭博さんたちが具現化した銀ナノインクを家庭用インクジェットプリンタで印刷するというテクノロジーがハードウェアスタートアップAgICを生み出し、さらにそのAgICのプリント技術と無線給電技術を組み合わせた安価な土壌モニタリングのセンサネットワークセンサを提案するSenSproutが生まれる、といったような創造の連鎖が起きていることです。

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展示中のSenSproutのプロトタイプ。家庭用インクジェットプリンタで回路部分を印刷し、無線給電で電力を供給することで非常に安価に実現できる。

くわえて、川原さんが担当した東京大学の授業の中で生み出されたTrickeyは同じコーナーの中でプロトタイプが展示されていて、先日からKickstarterでのファンディングも始まっています。製品として世の中に出すまでにはまだまだ課題はあると思いますが、そうした過程で学ぶことは(仮に失敗したとしても)シミュレーションを100万回繰り返すよりもはるかに大きいと思います。こうした活動を推進している川原さんをはじめとする皆さんを心より尊敬いたします。

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Trickeyのプロトタイプ。レーザー加工機でカットした部品を積層してボディを作るなどの方法を活用することで、実際に動作し体験できるプロトタイプを最小のコストで実現している。

この他にも、富士通総研や博報堂、楽天など、日本企業からの出展は他にも多く、その中には面白いものが多かったと思います。私自身も、そこに関わっている人々を直接知っていることもあり客観的な判断というのは難しいのですが、実際に人々が触れたり、見たり、感じたりできる接点に関して体験者の視点で見ると、日本からの出展者の展示はかなり面白いものが多かったと思います。その逆に、Internet of Thingsという視点で見ると、可能性はあるのにまだあまり練られていないか、考えられているのにうまく伝わらない展示が多かったようにも思います。展示物に対する注目度だけを切り出して「やっぱり日本は凄い!」という編集をすることは容易なのですが、目に見える部分だけでなくその背後にどんなビジネスモデルと生態系が考えられていているのか、まで踏み込んで分析する必要があるのではないかと感じました。

とはいえ、個人的にかなり注目しているのはハッカソンやメイカソンといったところから出てきたコンセプトを、そのあと粘り強く続けて製品化まで持っていこうというプロジェクトが出てきたことです。no new folk studioのOrpheは、靴底に多数のLEDを内蔵し、スマートフォンや様々なセンサからその光り方をコントロールできる靴です。代表の菊川さんがもともと持っていたアイデアが2014年3月に開催されたPlay-a-thonで他の参加メンバーのスキルを結集してわずか1日間でコンセプトモデルまでつくりあげたものを、粘り強く継続してABBALabのインキュベーションプログラム「ABBALab Farm Program」にも採択され、DMM.make AKIBAを活用して完成度の高いプロトタイプをつくり、クラウドファンディングのプラットフォームIndiegogoでキャンペーンを開始するところまで到達しました。SXSWの期間中にCNETの記事としても大きく取り上げられ、別会場で行ったパフォーマンスでもその美しさや楽しさが話題となったことから、今後の展開が楽しみなプロダクトです。

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DMM.make AKIBAのブースの一部で展示されていたOrpheのプロトタイプ。比較的明るい会場の中でも十分な明るさで光っていた。
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DMM.make AKIBAが2日間にわたって開催したパーティでダンサーが踊ったデモを数秒間の露光で撮影した写真。リアルタイムで見てもきれいだが、長時間露光することでこうした写真を撮影できる。

もう一つはソーシャル弁当箱XBenで、4種類のおかずを他の人と交換できる弁当箱によって昼食を食べる経験を大きく変えようというプロダクトです。一般的なサイズの弁当箱の中間部分にタッチセンサやLED、無線通信モジュールやバッテリを全て内蔵し、Bluetooth Low Energyでスマートフォンと通信することで交換相手を見つけてネットワークを広げていくことができます。こちらに関しては既にEngadget日本版の記事で何度か報じられていますが、auがEngadget日本版の協力で開催したハッカソン「au未来研究所」(8月から11月まで3回に渡って開催された中で食をテーマにした第2回目)の中で集まったメンバーが出したアイデアを統合して一気にコンセプトモデルまでを参加メンバーでつくりあげ、さらにその中でプロダクトマネジメントを担当する中澤さんが経済産業省のフロンティアメーカーズに応募し、多くの人たちの協力を取り付けてSXSWでの展示まで到達したプロジェクトです。

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XBen 2.0のプロトタイプを持つ中澤さん。
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アプリケーションもかなり作り込まれていて、実際にスマーフォンの間でBLEを用いた通信が可能。

この2つに共通するのは、粘り強くプロジェクトをリードしていくプロジェクト/プロダクトマネジャーがいることでしょう。ハッカソンやメイカソンからはその後に続く成果は出てこない、と言われています。多様なスキルや視点、経験を持つ人々がアイデアを持ち寄り、それを統合してコンセプトをつくり、それを短期間で集中してコンセプトモデルまで作り上げるというフェーズと、それを製品化しようというフェーズでは、必要となってくる人材や資金、が異なってきます。それを一気通貫で担当するのがプロジェクト/プロダクトマネジャーで、この人材無くしてはいかに優れたコンセプトがあっても、いかに優れたメンバーが集まっていてもそれが具現化されることはないでしょう。いずれも、製品として世の中に送り出すところまでにはまだまだいくつものハードルがあると思いますが、今後の展開に注目するとともに、様々な形で継続して応援していきたいと思っています。

Mini Maker Faireを彷彿とさせるSXSW Create

前回から設けられた新しいカテゴリ「SXSW Create」は、DIYの世界的な祭典「Maker Faire」のマイクロ版といった感じで、コンベンションセンターから川を渡った別会場であるLong Center for Performing Artsで開催されていました。

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SXSW Createの会場となったLong Center for Performing Arts。

入り口近くに大きなテントを構えていたのはコロラド州にあるSparkFun Electronicsです。SparkFunはArduinoやRaspberry PIと組み合わせて使うセンサやアクチェータを使いやすいサイズとインタフェースにして「部品」として提供している企業で、自分自身が何かを作ろうとした際に苦労した経験を持つ当時大学生のNathan Seidleが2001年に起業した企業です。既に14年の歴史があり150名の従業員数がいるSparkFunは、単にそうした「部品」を開発して販売するだけでなく、Kickstarterで成立したプロジェクトの製造と販売を行うプラットフォームの機能を持ちつつあります。そのSparkFunは、この会場では自社の製品を販売するのではなく、子どもから大人までを幅広く対象にしたワークショップを展開していました。このワークショップはかなり好評で、参加を待つ人々の列が常にできていました。また、サポートにあたるSparkFunの社員も、長時間にわたって熱心にサポートしていました。

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SparkFun Electronicsのブース。
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キットを組み立てた様子。右側部分がArduino互換機になっているため、組み立てて終わりではなくArduino IDEでスケッチをアップロードすることで動作を書き換えていくことができる。

こうした活動を通じてファンを増やし、コミュニティをつくることはとても重要です。例えば、コミュニティがあれば次にどんなものが必要とされているのかを、オンラインフォーラムでのディスカッションから洞察することができます。また、現行の「製品」に問題があった場合にもすぐにフィードバックすることができます。さらに、何かで大きなミスをしてしまった場合(実際にKickstaeterで成立したMicroViewという製品で製造上の大きなミスがあったことがあります)にもコミュニティが緩衝材として働くことで訴訟などの大きな問題に発展することを回避できます。象徴的なのは、かつて全米で電子部品の小売店のネットワークとして有名だったRadio Shackの破産です。SparkFunの「製品」やArduino、Raspbelly PIのビジネスの成功していることに着目したRadioShackは大々的に扱い始めました。電子部品の専門的なショップからPCの部品、携帯電話やスマートフォンとその販売の中心を移してきたRadio Shackは、他の製品と同じようにそれらをきれいにパッケージに包んで販売しました。しかしながら、のそれらが何であるかを全く理解しない店員によってお金と交換することしかしなかったRadioShackのビジネスは新たな商材を得てもなお衰退し、2015年2月に倒産しました。彼らが見落としていたのはコミュニティだったのです。

私自身は、2007年に小さなミーティングでNathanと会ってから、フィジカルコンピューティングのツールキットGainerやArduino Fioといった製品を共同でデザインしてきたという関係性もあり、1年に一度くらい会っていろいろ話す機会があるのですが、Nathanは以前から子ども達を中心に教育にかなり関心を持っていました。その姿勢は一貫していて、SXSW CreateでもArduinoの互換機をベースにしたLEDバッジのキットを配布し、その場で組み立てたものが動く楽しさと、その後プログラミング次第で自在に作り変えることができる継続性を多くの参加者に伝えていました。

その横で大きなブースを展開していたのがオースティンに拠点を構える半導体メーカーSilicon Labsです。Silicon Labsの展示は一見するとなぜここにこれがあるのだろう、と思ってしまうほど多様なものでした。例えば、LEGOブロックのように電子会を簡単に組み替えることができるlittleBitsや、スウェーデンの新鋭シンセサイザーメーカーのTeenage Engineeringが1月に発表してようやく発売が始まったばかりの新製品poも会場に置かれていました。

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littleBitsの体験コーナーの様子。
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Teenage Engineeringのpoの体験コーナーの様子。デモンストレータによるデモ演奏に加えて手前側のデモ機を自由に触ることができた。かなり低価格の製品だが、任天堂のゲームウォッチを彷彿とさせるテイストを上手く取り込んでいて、かつ音や操作性も非常にいい。

これらは多くの参加者が興味を持って触っていました。この展示に共通するのはSilicon Labsの半導体製品、マイクロコントローラを使用しているという点です。こうした電子部品は通常の製品では目に触れないため、どこで誰が設計し、製造しているものかを意識することはありません。しかし、littleBitsやopのようによく見ればどこのチップを使っているのがわかるものを展示することにより、地元にある企業が世の中とどのように関わっているのかを理解することができます。その狙いをよく表しているのがこのポップです。「Want to know what a 32-bit micro-controller sounds like?」(32ビットのマイクロコントローラがどんな音を出すのか聞いてみたい?)と書かれたところに掲載されているのはTeenage Engineeringのpoです。これはかなり低価格のデジタルシンセサイザーで、Sillicon Labsのチップ1つだけかなりの部分が行われています。Silicon Labsの本社はSXSW Createの会場から橋を渡ってすぐの所にいくつかの建物に分かれているのですが、そこで設計されたものが川の反対側で音を奏でているわけです。

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コーナー入り口のポップ。「Want to know what a 32-bit micro-controller sounds like?」(32ビットのマイクロコントローラがどんな音を出すのか聞いてみたい?)というメッセージが書かれている。poの液晶下部にSilicon Labsのチップが搭載されていることがわかる。

同じ会場には、導電性ナノインクでペンで書くだけで電子回路を作ることができる日本のハードウェアスタートアップAgICがライバル企業と並んでブースを出展していて、ここでも多くの子どもたちが目の前で電子回路ができて動き始めるのをみて興奮していました。SXSW Createはこの他にも多くの展示があり、登録だけすれば無料で見られるということもあって次々と来場者が訪れていました。会場にはMakeやMaker Faireの創始者であるDale Doughertyも訪れてミートアップも開催されていたことから、今後はさらに連携が進んで展示の規模が拡大されていくのかもしれません。SXSWがインディーズ音楽のイベントとして始まったことを考えると、その中にインディーズハードウェアが存在することはとても自然なことなのかもしれません。

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SXSW Create内でのAgICの体験コーナーの様子。トレードショーではMESHとのコラボレーションと大判を展示していたが、こちらは体験中心で多くの子供たちが常に体験していた。

おわりに

今回が初めてのSXSW参加となりましたが、結果的には非常に興味深いフェスティバルでした。カオスを楽しめるかどうかは人によって大きく異なると思いますが、フェスティバルのムードで人々がコミュニケーションに積極的になり、たまたま同じ列に並んだ人同士でも面白い会話に発展する、という経験はなかなか他では得られない経験ではないかと思いました。私が参加したのはSXSWの中のInteractive、そのごく僅かにすぎませんが、このフェスティバルで受けた刺激がなくならないうちに記録として残しておきたいと思います。実現できるかどうかはわかりませんが、来年はぜひスピーカか出展者で参加してみたいと思いました。最後になりましたが、未来予報研究会の宮川さんと曽我さんには様々な形でお世話になりました。その他現地で行動を共にさせていただいた皆さんも含めまして、SXSWの縁に心より感謝いたします。

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オースティン市内で最も賑やかな6th streetの深夜の様子。毎日深夜まで多くの人々で賑わっていた。