やあまどか。魔法少女になる決心はついたかい? 君は最強の魔法少女になれる素質があるんだ。どんな願いだって叶えられる。どうしたんだい? まだルミネのCMとやらに執着しているのかい?
まどか「だって、これはひどいよ……あんまりだよ……女性蔑視だよ……」
ふぅん、つまり君は「男女は同権である」という社会的な思い込みから服装の宣伝CMを観て勝手に憤慨しているんだ。そもそも僕たちから見ると、君たち人間は随分と「性別」というものにこだわりすぎているところがあるよ。生殖と言う目的を果たすために2種類の性別と言うものを編み出した君たちの祖先の生存戦略も理解しかねるところはあるんだけど、自意識の発達した人間ほど「性別」に縛られているよね。2種類の個体を同一に見ることなんて根本的に不可能なんだよ。
僕たちの考えからすると、作業を行うチームに所属する着飾った異性を「華」というたとえでもてはやすこと自体も異様だけど、それを忌避する感覚も同様に非合理的で極めて感情的なものだよ。着飾った異性を素敵だと素直に口にするとそれと同様の呪いが着飾らざる者から襲い掛かってくる。これは君たち「女性」の習性とだね。どうやら「女性」とやらは別の個体を見下したり差別をしないでは心の平穏を保てない傾向にあるらしい。僕たちの魔法少女システムも、その仕組みをある程度組み込んで成り立っているから、やっぱり君たちは優秀な家畜なんだよ。
別に僕は君たちの批難そのものが愚かしいということを主張したいわけじゃないよ。どうして人間はそんな多数の人間が不幸になるシステムを構造的に見直さないのかって話がしたいんだよ。話を聞く限り、根本的な問題はシステムの構造にあってそれを改善出来ればいくらかマシになるはずなのに、どうして人間はいつまでも不毛ないがみ合いを繰り返すのだい? 僕たちから見るとそのいがみ合い自体が人間の習性で、いがみ合いをしないと人間は生きていけないようだ。君たちが魔法少女になるのは必然だったのさ。
そもそも宣伝のための創作物に過度に感情を注いで我がことのように喜んだり怒り狂ったりする行為自体が僕たちには理解できないよ。架空の事物を想定してアレコレ談議すること自体結構不毛な行為なんだけど、それは感情とやらが引き起こしていることなのかな。わけがわからないよ。
まどか「で、でもあんまりだよ! もっと人にやさしくしないとだめだよ!」
まどか、君の言う「優しさ」っていうのはいくらでも裏切るんだよ。件のCMの男性だって別に女性蔑視をしようという意図で言葉は発していない。「疲れているのかい?」と尋ねることは男性の中の「優しさ」の発露に他ならないね。それを拒絶した女性に男性は絶望したのではないかい? だから当てつけに他の女性に対して親切な言葉をかけているじゃないか。極めて感情的に整合性のある行為だと僕は思うな。認められたいなら最初から相手の好意を跳ね返すようなことを言うべきではないんだよ。それにしても製作者の余計な意図が透けて見える構造は見苦しいし、宣伝として見るならその点で極めて美しくないね。それは認めるよ。
まどか「それは表面的な話だよ! 本当は違うってあなたにはわからないの?」
君の言う「本当」も「表面的」も僕から見たら客観的な事実も妄想もごちゃまぜにして、自己の経験でのみ事象を捉えているとしか認識できないよ。さっきも言ったけれど、これはあくまでも構造的な男女の抑圧のシステム齟齬が生み出した女性側の不快の発露の話であって、社会的に地位もないまどかがここで怒りを表現したって社会は何も変わらない。それとも、君は誰にも届かない「怒り」こそが社会をまともにするとでも思っているのかい?
まどか「えと、それは……」
確かに男性が女性を抑圧することで成り立っているシステムは君たちの世界にはたくさんある。おそらく、魔法少女も「女性」という個体が男性によって抑圧されているからこそ莫大なエネルギーを生み出すきっかけのひとつであると思うんだよ。つまり、君たちは君たちより腕力のある個体に抑圧されているから魔法少女になることが出来るということでもあるんだね。どうした、まどか? 願いは決まったかい? 君ならこの歪んだ社会構造を変えられる力があるんだ。だって君は最強の魔法少女になれるんだから。
ほむら「まどか、そいつの口車に乗っちゃダメ!」
暁美ほむら、執拗にまどかに契約をさせない君は一体何者なんだい? でももう遅かったね。見てごらんよ。まどかの願いはエントロピーを凌駕した。全ての女性を解放するために、最強最悪の「魔女」が誕生するんだ……この世の女性の絶望を全て抱え込んだまどかは、一体どんな姿になっているんだろう? 僕としてはちょっと興味あるかな。な、暁美ほむら、一体何をす