先日、日本の家計部門の貯蓄率の低下について記事にしたら反響がありました。

そこで今日は我々の生活の不安に対して、一体、政府には何が出来るのかについて考えてみたいと思います。

先ず断っておくと、日本政府は我々国民の生活について真剣に考えてくれているし、色んなアイデアを試してくれていると思います。その一例が、アベノミクスです。

でもボンヤリと過ごした時期が余りにも長すぎたので、今は有り体に言えば「時間切れアウト」みたいなじり貧状態です。だから政府がいつまでもそこに居てくれる、我々を守ってくれると決めてかかる前に、まず我々ひとりひとりがデータをハッキリ把握することが重要だと思います。

下は先進国を中心とした経済、貿易、開発支援に関する助け合いの目的で設立された国際機関、経済協力開発機構(OECD)のデータです。最初のグラフは「政府の国富」と題されたもので、その定義はその国の一切合財の保有資産から、その国の借金総額を引いたネット・ベースの資産、ないしは負債を示したものです。



日本はこのグラフの一番左側にあります。カーソルをグラフの上に持ってゆくと、数値がポップアップする仕掛けになっています。日本の場合、ネットベースでの負債はGDPの126%で、これはギリシャよりも悪いです。

なお、この計算には年金資産や外貨準備も含まれています。

日本の数字が先進国でいちばん悪くなっている理由は、国債の発行による借金の金額が大きすぎるからです。



なぜ、こんなことになってしまったのか?

これはいろいろな事情が関係していると思うけれど、突き詰めて言えば、政府の収入と支出のバランスが悪すぎるという点に尽きます。まず政府の収入です。



これは税収と置きなおしても良いです。日本の場合、国家の収入はGDPの33.1%で、これは先進国中下から3番目です。

一方、政府の支出は、こうなっています。



日本政府の支出は、GDPの42.3%です。

つまり日本政府は「入って来るもの」より「出てゆくもの」の方が多い状況が、長年、常態化してきたということです。

政府には、国民に対するいろいろな約束があります。その約束の内容は、国によって違います。国によっては教育だけでなく医療も無料というところもあります。社会保障制度の運用も、国によってまちまちです。

それらを「国がやるべきこと」という風に決めると、経済全体に占める、国の経済活動の割合が増加します。上のグラフで言えば、どんどんグラフの右側に行くということです。これは「福祉国家」と呼ばれる「国の在り方」です。

北欧諸国に、そういう価値観を持つ国が多いことは、皆さんもご承知だと思います。

ところで、もうひとつ上の「政府の収入」のグラフに戻って、グラフの右側に来ている国々を見て欲しいのですが、「福祉国家」は、税金も沢山、国民から巻き上げていることが確認できます。

つまり「国に、あれもやって欲しい、これもやって欲しい」と期待するのであれば、それに応分の税金も納めないと帳尻が合わないわけです。日本は、残念ながら、帳尻が合っていない最悪の例です。

それは兎も角、経済活動全般(それは今、便宜上GDPと読み替えてもいいと思います)に占める政府部門の割合を大きくするか、それとも小さくするか? という問題は、国民が政府をどのくらい信頼するか? という問題でもあります。

もし、「政府に国民の富の再分配を任せた方が、良い判断が出来、その結果、良い社会が生まれる」という風に政府を信頼し、政府に期待する立場をとるならば、それは「大きな政府」を支持することになります。

逆に「政府は経済のことを余り知らない。だから政府に任せていたら、我々の税金を無駄遣いする」という風に政府を信用せず、なるべく政府が我々の暮らしに口出しして欲しくないという立場をとるなら、それは「小さな政府」の支持者ということになります。

極端に「大きな政府」を突き詰めてゆくと、それはソ連のような国家になります。ソ連は崩壊したので、「やっぱりあれはまずかったな」という評価が一般的だと言えると思います。

ここまでの話をまとめると、世界には「大きな政府」と「小さな政府」という考え方があり、そのどちらが良いかを決めるのは、皆さん次第だということ。そして政府は、富の再分配の機構であると理解することもできるということ。税金の負担の議論は、自分の稼いだお金のうち、どれだけを他の人のために再分配に回して良いか? というある種の社会契約、ないしは合意であるということ。そして、政府の収入と支出のバランスの問題に、日本はずっと無頓着、無神経だったので、国の台所事情は目を背けたくなるようなひどいコトになっており、いずれの場合も、もう「時間切れアウト」かもしれないということです。

自分の生活は、自分で守るしかありません。


(文責:広瀬隆雄、Editor in Chief、Market Hack

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