・凸レーションとプロデューサー
凸レーションは莉嘉とみりあという年少組2人ときらりというお姉さんで構成されているユニットです。きらりはその役に自覚的で、ゲームをしていないアニメからの視聴者も杏のお世話をしていた姿を見てきた筈なので、彼女が実質のリーダーである事は容易に理解出来るだろうと思います。莉嘉はおませな中学生、みりあは遊びたい盛りの小学生とあって、Pはずいぶんとやりにくそうですが、彼女たちの奔放な個性を殺さぬよう自由にやらせるプロデュース方針であるようです。
実際やりたい放題に見える彼女達ですが、Pに掲げられた課題に対し、自主的に考え、解決しようという意欲があります。この辺りはCandyIslandのようにうまく回っているようです、が、今回はこの自分たちで考えて動くという方針が災いしてしまいます。
では本題に入ります。
・シナリオの流れからみたすれ違い
最初に述べたように、昭和の時代ならともかくコミュニケーションツールが発達した現代ですれ違いの作劇は非常に難しいものになっています。それをどう実現させているのかをシナリオを時系列で追って見てみようと思います。
1.莉嘉からPに電話をかけますが、Pは電話に出ることを禁じられます。Pが警官におとなしくしたがっているのは、画からもセリフからもヒントはありませんが、Pはこの時点で3人とはぐれてもきらりが年少組をうまく引率してくれるだろうと期待してるのだと思います。事実きらりはお姉さんを自任してますし、Pもそれを期待してユニットを組んだのは想像出来ます。さらにきらりは原宿が自分の庭だとまで言いいますが、Pもきらりの採用時点でそれを知っていたかもしれません。そうでなくては、後の狼狽ぶりから警官にくってかかるまであり得たのではないでしょうか。ともあれこの時点で、Pと凸レーションは互いの状況を知る、情報交換の機会を失います。
Pが迷子になった!
子供らしい自身を世界の中心に置く現実認識ですが、Pが置かれた状況について情報が無ければ、「Pが知らないおじさんに連れて行かれた」とも言えなくはありません。同じモノをみても、個々人の認識は違うというデレマスで度々描かれるシチュエーション。事実きらりは後に事務所に連絡している時に「Pとはぐれた」と言い、自分たちが迷子になっているという認識でいるようです。その認識のズレが、この後情報の不足と相まって混乱の度を増していきます。
2.きらりから事務所に電話をかけますが、事務所は警察からの連絡とちひろへの連絡で電話に出ることができません。ここで事務所はPの状況を知りますが、凸レーションの状況を知る、情報交換の機会を失います。それどころか新田さんは警察という言葉にうろたえ、この状況で一番頼りになるであろうちひろが事務所から引き離されてしまいます。
3.莉嘉から美嘉に電話が繋がります。Pと連絡が付かない状況で、莉嘉にとって次に頼りになるのは美嘉です。ですが、この時点で凸レーションのメンバーはPの状況について全く情報を得ていません。一方美嘉は凸レーションとPの状況について不完全な情報を得てしまいます。後、本筋ではありませんが響=きらり、やよい=みりあ、真美=莉嘉なのかなと背景のポスターに妄想。
4.莉嘉が改めてPに電話しますがPは尚も拘束中。美嘉は、莉嘉のPがいなくなったという状況判断を伝えられ、Pが莉嘉達を置いてどこかに行ったという解釈で怒り心頭楽屋を飛び出していきます。冷静に考えると本来「部外者」の美嘉が莉嘉達を保護しても、何の事態の収拾にもなりません。それでも莉嘉が困っていれば助けに動いてしまうのが美嘉というキャラクターで、逆に「Pは他に任せて、あんた達は先に次の現場に向かいな」などと的確なアドバイスをしてしまう方が不自然です。
ようやく拘束が解けたP。履歴をみると莉嘉の名前がびっしり。莉嘉達はきらりが引率してくれているだろうという期待が崩れ去り、Pは狼狽を始めます。
5.Pがいそいで莉嘉に電話をかけます。ですが、莉嘉は美嘉と電話をしている最中。Pと凸レーションは互いの状況を知る、情報交換の機会を失います。きらりは事務所と電話が通じます。事務所と凸レーションは互いの状況を情報交換しますが、凸レーションが得たのはPは警察に拘束中という古い情報、事務所が得たのは凸レーションがPとはぐれたというきらりの主観情報です。しかも、Pが拘束中という古い情報は美嘉にまで伝わってしまいます。
6.そしてそれぞれが不完全な情報で動いてしまいます。凸レーションの状況をしらないPは狼狽し、足で探すと街を走り出してちひろに諭されてしまいます。古い情報を元に交番に向かった凸レーションはPとすれ違います。凸レーションの情報について断片しか知らない事務所組は、この状況で一番役に立ちそうに無い卯月を留守番に置いて全員イベント会場に向かいます。一番情報が揃っていない美嘉に至っては、見当違いな警察署に行ってしまう始末。
例えコミュニケーションツールが発達したとしても、リアルタイムで互いの状況が分かるわけではありません。まして状況の認識にずれがあれば、情報に対して正しい行動が取れるとは思えません。ツールが発達した今だからこそ、情報に対するリテラシーと判断力が情報発信者、受信者ともに求められるという教訓めいた話まで出来てしまいます。
...が、それこそがシナリオが仕掛けた罠で、実は5の時点で美嘉がいなければ、Pは莉嘉に警察の拘束が解けた事を伝え、今から迎えに行くなり、そのまま次の現場に向かうよう指示出すなり出来たはずです。こうしてみると美嘉のシナリオ上の役割は「状況をさらに混乱させる厄介者」以外の何者でもありません。美嘉こそが10話のシナリオの鍵、トリックスターなのです。
ここから、登場人物を増やせば携帯等のコミュニケーションツールはむしろ混乱の原因に出来るというシナリオパターンを引き出せます。
しかしそれでも先に述べたとおりこの10話においては、莉嘉があの状況で美嘉に連絡しないのは不自然ですし、莉嘉の電話に美嘉が動かない方が不自然です。アニデレのシナリオは、劇的効果を上げたいシナリオライターの都合でなく、キャラクターがそれぞれの行動原理に即して動き、詰め将棋めいて視聴者に王手をかけて来ることを銘記すべきです。怖ろしい。
後半はコンテや演出について考察してみます。
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