自治はどこへ:2015年統一選 民意のかたち/5止 京都府京丹後市 机上の「人口3割増」 提案力で交付金に差

毎日新聞 2015年03月21日 東京朝刊

 統一地方選を7カ月後に控えた昨年8月26日、安倍晋三首相も参加し、地方創生に関する有識者懇談会の初会合が官邸で開かれた。

 「トリクルダウンは起きない」。経営共創基盤の冨山和彦最高経営責任者の発言が注目を集めた。政権の経済政策「アベノミクス」では、大企業や都市部から景気回復し、次第に中小企業や地方に波及する効果(トリクルダウン)が期待されたが、地方には失望感が広がっていた。

 東北のバス会社など地方企業再生の実績を持つ冨山氏は、グローバル経済圏(Gの世界)とローカル経済圏(Lの世界)は直接的な関連性が薄いとし、雇用の80%を占めるLの世界こそが成長の原動力になると説いた。それぞれの世界の特性に応じた成長戦略を求める発想だ。首相は「冨山さんにはグローバルのイメージがあるが、ローカルな仕事もやり賃金も上がった。やり方次第で世の中が変わる」と会議をしめくくった。

 甘利明経済再生担当相は昨年11月に「トリクルダウンのスピードを速める」と語った。しかし、トリクルダウンには「地方後回し」の印象がつきまとう。首相は今年2月の国会答弁で「アベノミクスはトリクルダウンではない。地域経済の底上げだ」と強調した。

 どう「底上げ」するのか。昨年末、政府は地方創生の骨格となる総合戦略を閣議決定した。地方が自らの発想で再生をはかるという考え方で、冨山氏の提案と符合する施策が随所に盛り込まれた。各自治体は個別に策定する地方版総合戦略で、将来人口などの数値目標を設定し、自ら検証する。自治体の提案力次第で交付金の配分額に影響が出る仕組みとした。石破茂地方創生担当相は7日の講演で「北海道から九州、沖縄まで全ての市町村の競争になる」と語った。

 選別される自治体は浮足立つ。閣議決定からわずか3カ月後の今月2日、京都府京丹後市は全国初の地方版総合戦略を策定した。人口約5万8000人。日本創成会議が指摘した消滅可能性都市だ。国立社会保障・人口問題研究所による将来推計人口に基づけば、2060年には2万6000人に減る。

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