政府は3月6日、防衛省の「背広組」(内局文官)が「制服組」より優位に立つ「文官統制」の根拠とされてきた防衛省設置法の改正案を閣議決定するとともに、「文民統制」に関する政府見解を示した。見解は、文民統制は「軍事に対する政治の優先」を意味するとし、「文官統制」を事実上否定する内容。これについて、朝日新聞は3月7日付朝刊で「過去の首相らが示した考え方と異なる」と報じ、東京新聞も「過去の政府答弁と明らかに矛盾する」と報じた。しかし、日本報道検証機構が過去の国会答弁などを詳しく調べたところ、約10年前から歴代の防衛相などが「文官統制」に否定的な見解を繰り返し示していた。朝日と東京の報道は近年の政府答弁を無視し、これまでの歴代政権が一貫して「文官統制」に肯定的な見解を示してきたかのごとき事実と異なる報道だったといえる(関連=【GoHooレポート】文官統制廃止 制服組の軍事的補佐「改正で追加」は誤報)。
運用権限、制服組に集中 「文官統制」撤廃 改正案閣議決定
…(略)…
■防衛相に一層の責任
「防衛省の統制は、文民である防衛大臣が自衛隊を統制すること。文官が部隊に対し指揮命令する関係にはない」。中谷元・防衛相は6日の衆院予算委員会で、文民統制に関する政府の統一見解を示した。これは過去の首相らが示した考え方とは異なるものだ。
過去の首相らは国会答弁で、防衛庁内の文官が自衛官を統制する「文官統制」を認めてきた。政府が2008年にまとめた報告書でも日本独特のあり方として、「防衛庁内部部局が自衛隊組織の細部に至るまで介入することが、文民統制の中心的要素とされてきた」と認めていた。…(以下、略)
朝日新聞2015年3月7日付朝刊4面より一部抜粋
東京新聞2015年3月7日付朝刊2面
朝日新聞は、中谷元防衛相が6日に示した文民統制に関する政府見解について、「過去の首相らは国会答弁で、防衛庁内の文官が自衛官を統制する『文官統制』を認めてきた」と解説。その根拠の一つとして、「政府が2008年にまとめた報告書」を取り上げ、「日本独特のあり方として、『防衛庁内部部局が自衛隊組織の細部に至るまで介入することが、文民統制の中心的要素とされてきた』と認めていた」と指摘した。
しかし、朝日新聞が引用した2008年の報告書は、町村信孝官房長官が設置した有識者会議である防衛省改革会議がまとめたもので、政府見解そのものではない。しかも、この報告書は、「文民統制のラインの確立よりも、いわゆる『文官統制』ともいうべき状態をもって文民統制とした戦後日本であった」と指摘したうえで、「戦後日本のこうした文民統制の問題点を承知しつつも、・・・内部部局の文官と自衛官の双方によって補佐される政治という基本骨格を鮮明にすること」を主張する内容。「文官統制」は本来の文民統制ではないとの立場で書かれており、この報告書をもって政府が「文官統制」を肯定していた証拠の一つに挙げるのは不適切といえる。
また、朝日新聞は、過去の首相らの国会答弁の例として、別表で1970年の佐藤榮作首相の答弁と1985年の竹下登大蔵相の答弁も掲載している。たしかに、佐藤首相は当時、「シビリアンコントロール」が4つの面から構成され、「国会の統制」「内閣の統制」に続けて3つ目に「防衛庁内部の文官統制」を挙げていた。竹下大蔵相も「最終的に一番大きなシビリアンコントロールといえば、私は国会だろうと思っております」と述べた上で、その他に内閣、国防会議、国防会議の幹事会、大蔵省を順にあげ、最後に「防衛庁そのものの中でいわゆるシビルの方、内局の方がコントロールしていかれる」と述べていた。しかし、いずれの答弁も「文官統制」を文民統制の一手段として挙げてはいるものの、「文民統制の中心的要素」と位置づけていたわけではなかった。朝日新聞は2003年3月の石破茂防衛庁長官の答弁も引用しているが、後に述べるように背広組による制服組の統制に否定的な考えを示した部分を割愛して載せていた。
文民統制に関する政府統一見解 (2015年3月6日、衆議院予算委員会)
文民統制(シビリアンコントロール)とは、民主主義国家における軍事に対する政治の優先を意味するものであり、我が国の文民統制は、国会における統制、内閣(国家安全保障会議を含む)による統制とともに、防衛省における統制がある。そのうち、防衛省における統制は、文民である防衛大臣が自衛隊を管理・運営し、統制することであるが、防衛副大臣、防衛政務官等の政治任用者の補佐のほか、内部部局の文官による補佐も、この防衛大臣による文民統制を助けるものとして重要な役割を果たしている。
文民統制における内部部局の文官の役割は、防衛大臣を補佐することであり、内部部局の文官が部隊に対し指揮命令をするという関係にはない。
当機構が国会議事録などを詳しく調査したところ、遅くとも2003年以降、防衛庁内の文官が自衛官を統制する「文官統制」を文民統制の手段として肯定的に認めた政府・閣僚の答弁は確認できず、むしろ歴代の防衛相はそうした見方を繰り返し否定していた。石破茂防衛庁長官は2003年3月の参院予算委員会で、文民統制の意味について「政治と軍事の話であって、背広が制服をということではない」「シビリアンコントロールの主体というものは、第一義的にはあくまで私ども選挙によって選ばれた者なのだということは間違えてはいけない」と指摘。2008年1月には、石破防衛相が参院本会議で「内部部局が文民統制を行うとの考え、自衛官が防衛大臣を補佐することが文民統制に反するとの考え方は取っておりません」と言明し、「文官統制」を事実上否定していた。2009年4月、麻生内閣が閣議決定した文民統制に関する政府答弁書にも「文官統制」は盛り込まれておらず、今回示された政府見解とほぼ同じ趣旨だった。さらに、2011年5月、民主党政権(菅内閣)の北澤俊美防衛相も参院外交防衛委員会で、「官僚は統制をされる側であって統制をする側の文民には当たらない」との見方について「そのとおりであります」と同意。第二次安倍政権発足後の2014年6月、小野寺正典防衛相は参院外交防衛委員会で「文官統制は文民統制には該当しない」と明言していた。
東京新聞も、中谷防衛相が示した文民統制の政府見解について、3月7日付朝刊で「『文官統制は文民統制守る手段』否定 統一見解示す 歴代政府見解と矛盾」と見出しをつけて大きく報道。「省内に文官統制の制度が存在するとしてきた過去の政府答弁と明らかに矛盾する」「過去の政権は文官による防衛省内の統制を、文民統制の重要な手段として位置づけてきた」などと、2003年以降の歴代防衛相の国会答弁などを無視し、文民統制に関する政府見解について誤解を与える報道をしていた。
参議院予算委員会 2003(平成15)年3月5日(第1次小泉内閣)
○国務大臣(石破茂君) シビリアンコントロールというのは、もう委員御案内のとおり、戦前の日本にはなかったお話で、占領軍がシビリアンコントロールを入れろと言われて、何なんですかその言葉はということで大議論になったようなものだそうでございます。
要は、よく政治の軍事に対する優越というふうに言われます。…(略)…加えて申し上げますと、正しく政治の軍事に対する優越ではあるのですけれども、それは政治と軍事の話であって、背広が制服をということではないのだろう。それが時々文官統制という言葉になって現れることがあります。しかし、シビリアンコントロールの主体というものは、第一義的にはあくまで私ども選挙によって選ばれた者なのだということは間違えてはいけない、私はそのように理解をいたしておるところでございます。
参議院本会議 2008(平成20)年1月22日(福田康夫内閣)
○国務大臣(石破茂君)
…(略)… まず、文民統制と内部部局の関係についてでありますが、そもそも文民統制とは軍事に対する政治の優先、民主主義国家にありましては軍事力に対する民主主義的な政治統制を意味するものであります。
委員御指摘のように、防衛省・自衛隊におきましては、制服であれ背広であれ、同じく自衛隊員であります。文民統制の主体は、主権者である国民に対して選挙という手段を通じて直接に責任を負い得る、そういうものが第一義的な主体である、そのように考えております。補佐の体制をどうするかということが委員の御指摘の中核ではないかと考えております。
我が国の現行制度におきましては、国防に関する国務を含め、国政の執行を担当する最高の責任者たる内閣総理大臣及び国務大臣は憲法上すべて文民でなければならないこととされ、また、国防に関する重要事項については内閣総理大臣を議長とする安全保障会議の議を経ることとされており、さらに、国防組織たる自衛隊も法律、予算等について国会の民主的コントロールの下に置かれていることなどにより、文民統制への仕組みが構築をされておるわけでございます。
こうした制度の下、防衛省におきましては、幕僚監部が自衛隊に関する方針や計画を作成し、内部部局はこれらの方針や計画について防衛大臣が行う指示、承認に関し補佐するなど自衛隊の業務の基本的事項を担当することとされており、また、各幕僚長は各自衛隊の隊務に関し最高の専門的助言者として防衛大臣を補佐することとされており、内部部局が文民統制を行うとの考え、自衛官が防衛大臣を補佐することが文民統制に反するとの考え方は取っておりません。
防衛省改革・組織改編における文民統制の考え方に関する質問に対する答弁書 2009(平成21)年4月17日(麻生内閣)
我が国の現行制度においては、国防に関する国務を含め、国政の執行を担当する最高の責任者たる内閣総理大臣及び国務大臣は、憲法上すべて文民でなければならないこととされ、また、国防に関する重要事項については内閣総理大臣を議長とする安全保障会議に諮らなければならないこととされており、さらに、国防組織たる自衛隊も法律、予算等について国会の民主的コントロールの下に置かれているなど、厳格な文民統制が確保されているものと考えている。
また、内閣官房長官が開催する防衛省改革会議は、「文民統制の徹底」を主要な検討事項として議論し、その報告書においては、文民統制の徹底を図るとの観点から防衛省の組織改革等に関する提言が行われたところである。政府としては、今後とも、文民統制の実効性が確保されるよう不断に努力してまいりたいと考えている。
防衛省ホームページ
参議院外交防衛委員会 2011(平成23)年5月19日(菅内閣)
○宇都隆史君 よく分からなかったので、もう一度確認しますけれども、いわゆる官僚は統制をされる側の人間なわけですよね。いわゆる統制をする側の文民には当たらないんですね。そのことだけはっきり答えてください。
○国務大臣(北澤俊美君) それはそのとおりであります。
参議院外交防衛委員会 2014(平成26)年6月5日(第2次安倍内閣)
○国務大臣(小野寺五典君) 文民統制は民主主義国家において軍事に対する政治の優先を意味するものであり、防衛省においては、文民たる防衛大臣が自衛隊を管理運営し、副大臣及び政務官が大臣を補佐するという体制によって担保されております。したがって、防衛省職員である文官が自衛官を統制するといういわゆる文官統制は文民統制には該当しないと考えております。
現在の防衛大臣の補佐体制は、文官を中心とする内部部局が防衛省・自衛隊の基本に係る政策的見地から、自衛官を中心とする各幕僚監部が軍事専門的見地から車の両輪として補佐するものであり、適切な役割分担の下、防衛大臣による的確な統制を支えております。
ここで、戦後日本における文民統制(シビリアン・コントロール)の在り方が独特であったことを想起しておかねばならない。戦後の政党政治がなお未成熟であり、社会が安全保障問題に理解を欠いていたことを想えばやむを得ない面もあるが、防衛庁内部部局が自衛隊組織の細部に至るまで介入することが、文民統制の中心的要素とされてきたのである。国民→国会→首相→防衛庁長官→自衛隊という議院内閣制民主主義の本旨に沿った文民統制のラインの確立よりも、いわゆる「文官統制」ともいうべき状態をもって文民統制とした戦後日本であった。
戦後日本のこうした文民統制の問題点を承知しつつも、本会議はそれを全壊させるのではなく、内部部局の文官と自衛官の双方によって補佐される政治という基本骨格を鮮明にすることが、21 世紀に安全保障上の任務を達成する上で最も適切と考える。
防衛省改革会議報告書(2008年7月15日)(首相官邸ホームページ)
- (初稿:2015年3月22日 17:15)