昨年12月26日。土曜日の首相公邸に首相(当時)の鳩山由紀夫や経済産業省の幹部らが集まり、中東からの電話を待ち構えていた。アラブ首長国連邦(UAE)アブダビ首長国のムハンマド皇太子からの電話だ。原発の入札結果の公表を目前に控えていた。
「一にも二にも価格です。韓国の方が安かった」。最後まで入札に残っていた日米連合とフランスが、韓国に敗北したという事前の通知だった。2人の会話は、通訳を介して約30分続いた。「将来は計14基の原発を造りたい。ぜひ加わってほしい」。皇太子の言葉に、鳩山は「これからも両国の友好関係を築いていきたい」と応じた。
翌27日、韓国大統領の李明博はアブダビに招かれ、UAE大統領のハリファ首長と笑顔で握手した。アラブ初の原発を韓国が受注した瞬間だった。2017年の運転開始に向け、4基の原発の建設にあたる。運転、人材教育なども担うほか、軍事を含めて幅広い協力関係を結ぶことも約束した。
韓国に生中継された会見で、李は満足げに語った。「今回、我々は原発を輸出できる国になった。国民の一人として誇りに思う」
実は鳩山も昨秋、アブダビの皇太子に電話を入れていた。首相が民間企業の商談のために相手国に売り込みをかけるのは珍しい。それでも動いたのは、日本が劣勢だという情報が上がっていたからだ。
最終的に、入札に勝った韓国の原発建設の受注額は約200億ドル(約1兆7300億円)で、日米やフランスの提示額より3~4割も安かったという。
「国を挙げて支援した韓国の国家戦略。赤字覚悟で受注し、実績をつくりたかったのだろう」。複数の日本の関係者はそう指摘する。さらに、韓国は60年もの長期間、原発の運転を保証したとされる。「日本でも実績は40年ほど。韓国はリスクを取りすぎだ」との意見もある。
しかし、アブダビで原子力事業を統括する首長国原子力エネルギー公社の最高経営責任者(CEO)、モハメド・ハマディは、記者(野島)に対し、価格以外の理由も強調した。「韓国企業連合の提案内容が、パッケージとして信頼できるものだったからだ」
メーカーが交渉の矢面に立った日米やフランスと違い、韓国は国営の韓国電力に窓口を一本化。同社が設計、建設、原子炉メーカー、燃料供給などの企業を従える体制を整えた。全く原発の経験のないUAEにとって、原発を建てたあとの運営まで面倒を見てくれるという点も魅力的だったようだ。
(文中敬称略)