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各国で原発構想

[Part1]

「石油は外貨獲得に」
産油国が原発に走るわけ

 

中東諸国は、なぜ原発を必要とするのだろうか。
ヨルダン原子力委員長のハレド・トウカンは、「エネルギーコストの問題」を挙げた。
石油を持たないヨルダンは、周辺産油国からの安価な石油供給に依存してきた。
ところが、1990年のイラクによるクウェート侵攻でクウェートから、2003年のイラク戦争でイラクから、石油の供給が途絶えた。

ヨルダン南部アカバの原発建設予定地。サウジ国境までわずか数キロだ=小杉豊和撮影

石油を市場調達するしかなくなったヨルダンのエネルギーコストは石油価格の上昇もあって03年当時の3.5倍。国内総生産(GDP)の2割にも達する。「太陽光や風力は、まだコストが高い。原子力は確立された技術。世界的な原発ルネサンスの動きに加わりたい」とトウカン。

ならば、産油国はどうか。原発導入を決めたアラブ首長国連邦(UAE)や導入を計画するサウジアラビアなど、水よりガソリンの方が安い国々でも、原発建設を急がねばならないのだろうか。

エネルギー消費が急増するサウジアラビア・リヤドの町並み=野島淳撮影

7月上旬、サウジの首都リヤド中心街。日中の外気は40度を超すが、ビルやホテルの室内は20度台前半で肌寒いほどだ。雑居ビルの一室で、記者(貫洞、野島)は、サウジ諮問評議会のエネルギー委員の一人に会った。

原発計画の意味について尋ねると、「太陽光や風力も重要だ」としたうえで、共通する理由をこう述べた。「国内の電力需要を満たすのに貴重な収入源の石油を使うのは惜しい。石油は外貨獲得の手段にし続ける方が合理的だ」

背景には、経済成長に伴う人口増加と電力需要の急増がある。
年率2%前後の人口増加が続くサウジは、国内電力需要が2032年までに現在の3倍強にあたる1億2100万キロワット(試算)に達する。現状でも原油生産量の1割を発電に回しており、このまま行けば将来、掘った石油の3割が国内の発電に回る計算だ。

UAEも現在の国内電力需要は約1600万キロワットだが、需要は年約9%も伸びており、2020年には2.5倍の4000万キロワットを見込む。

アブドラ国王原子力・再生可能エネルギー都市の総裁に選ばれたヤマニ前商工相=AP

原発計画でUAEに先を越されたサウジだが、水面下では、誘致に向けた動きを加速させている。
昨年10月下旬、サウジのプライベートジェット1機が日本の空港に降り立った。乗っていたのはサウジ電力公社の幹部たち。横浜市にある東芝の設計施設や工場を訪れ、最先端の原子炉の模型や蒸気タービンの製造現場などを見て回った。「感銘を受けた。今度はサウジに来て説明して欲しい」と述べたという。 今年3月には米国で、東芝や米エンジニアリング会社の幹部と会合を持った。

サウジのアブドラ国王は今年4月、研究機関「アブドラ国王原子力・再生可能エネルギー都市(KACARE)」の設立を命じる勅令を出した。総裁には、米ハーバード大学卒の物理学者で、前商工相のヤマニを任命した。7月には、フランスと原子力の平和利用を巡る協力協定を結ぶことを閣議決定した。

サウジの場合、いつ頃に何基を建設するかといった計画は、まだ具体化していない。しかし、東芝は7月に入り、「米電力会社などと共同でサウジでの受注を目指す」と他社に先んじて発表した。計画の初期から食い込んで、受注を狙う戦略だ。

一方、サウジやUAEは、自然エネルギーへの投資にも熱心だ。

すべてを自然エネルギーで賄うことを狙うUAEアブダビ首長国の「マスダール・シティ」の模型=2008年10月ドバイで、野島淳撮影

サウジは、米IBMと共同で太陽光を使った淡水化設備の研究を始めるなど、太陽光技術に力を入れる。UAEは、エネルギー源として太陽光など自然エネルギーだけを使う都市「マスダール・シティ」を開発中。国際機関「国際再生可能エネルギー機構」の本部もアブダビにできた。それでも、自然エネルギーだけでは急増する需要を満たせないため、両国とも原発導入に意欲を示しているのだ。

他の中東諸国も積極的に動き始めている。エジプトは、2020年までにエネルギー需要の2割を原子力や風力などで賄う計画を立てる。カイロの北西約220キロの地中海岸ダバーでの原発建設をめざす。

リビアも、03年に核兵器開発計画を放棄して欧米諸国と関係改善し、07年にフランスとの原子力協力覚書に署名するなど、原発建設を視野に入れている。

(文中敬称略)

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