奨学金を返すことができずに苦しんでいる人が増えている。2013年度、日本学生支援機構の奨学金を滞納した人は33万人、その総額は876億円にも上る。
なぜ、これ程までに多くの人が奨学金の返済に困っているのだろうか? その実態を、奨学金問題対策全国会議の事務局長・岩重佳治が、TBSラジオ「渋谷和宏・ヒント」の中で解説した。
岩重佳治 -弁護士/奨学金問題対策全国会議 事務局長- (以下 岩重)
渋谷和宏 -番組編集長/経済ジャーナリスト- (以下 渋谷)
@ TBSラジオ「渋谷和宏・ヒント」 (2015/02/02)
渋谷:
こんばんは。番組編集長の渋谷和宏です。今を知り、今を生きる情報マガジン「渋谷和宏・ヒント」。暮らしに関する問題を考えるヒントを、お届けしています。
今日は「返済できず自己破産も-深刻な奨学金の実態」に注目です。受験シーズンの今、このラジオを聞きながら勉強している人もいらっしゃるかもしれません。合格後の充実した生活を思い描いている方もいらっしゃると思います。今回は、そんな皆さんに知っておいていただきたい大切なお話、「奨学金」についてです。と言うのも、最近、奨学金を返済できずに困っている人が増えているんです。
2013年度、日本学生支援機構の奨学金を滞納した人は、およそ33万人。その総額は、なんと876億円にも上ります。中には、自己破産してしまう人もいるということなんですが、どうしてこんなことが起きてしまうのか? 今日は、奨学金の返済に苦しむ人たちの相談に乗っている、奨学金問題対策全国会議の事務局長、岩重佳治さんと考えます。
渋谷:
今を知り、今を生きる情報マガジン「渋谷和宏・ヒント」。今週は「返済できずに自己破産も-深刻な奨学金の実態」について注目します。ゲストは、奨学金の返済に悩む人の相談窓口、奨学金問題対策全国会議 の事務局長、岩重佳治さんです。こんばんは。
岩重:
こんばんは。よろしくお願いします。
渋谷:
よろしくお願いいたします。
奨学金の返済に苦しむ人の実態
渋谷:
実は、僕は奨学金をもらった経験は1度もないんですけれども、友人がやっぱりもらっていまして、卒業後、返済するのにちょっと難儀したという話も聞いているんですけれども。ただ、僕の大学時代は、1980年代の前半ですから、もう既に30年以上前ですね。
最近は、実態が全然変わってきているということですよね。奨学金を返せない人が増えている、返せなくて苦しんでいる人が、今どんどんどんどん広がっているという話をよく聞くんですけれども、やっぱり、そんなに増えているんでしょうか?
岩重:
はい。私たちは日々、返済に困っている方の相談活動をやっているんですけれども、ほぼ毎日のように電話がかかってくる状態ですね。
例えば、生活保護を受けていらっしゃる方が、保護費の中から無理をして返済を続けているとか。あるいは、長年請求がなかったんですけど、突然請求が来た、と。多額の延滞金が付いているわけですよね。少しずつ払っていっても、延滞金に充当されてしまって、元金が全然減らない。先が見えない。
それから、結婚も出産も、この返済があるのでできない。あるいは、先ほどお話がありましたように、最終的には自己破産をするという相談が、日々寄せられています。
渋谷:
今の奨学金は、利子が多く付くんですよね。で、元本と利子、それから、延滞してしまった場合は、延滞金も払わなければいけないということになるわけですよね?
岩重:
はい、そうなんですね。延滞金は、ちょっと前までは、1年間で10%という高い延滞金で、去年の4月からは5%になりましたけど、それでもかなり大きな負担になっていることは間違いないんですね。
渋谷:
うーん。具体的には、どういうご相談があるんでしょうか?
岩重:
それこそ、たくさんの相談があるんですけど、実は私、この年末に東北の方の案件を伺いました。裁判を起こされているということで、その代理人に就任したんですよね。実は、その方、年収を聞いてみたんですけど、30万なんですよ。
渋谷:
年収が30万?
岩重:
はい。私も最初、疑って、「月収ではないか?」と言ったんですけど、本当に年収が30万。たまにアルバイトをして、親族から食料の援助を受けて暮らしている。そういう方が、元金と延滞金を含めて300万ぐらいの請求を裁判でされているんですよ。
渋谷:
年収の10倍の金額ですね。
岩重:
おっしゃる通りなんですね。それで、「少しずつ払いたい」とおっしゃるんですけど、「月5万以下は駄目だ」と突っぱねられてしまって困っている、と。
渋谷:
分割して少しずつ払いたいんだけれども、「月5万円よりも多いお金を払え」と言われているということですね?
岩重:
はい、そうなんです。「そうしないと一括請求だ」ということで悩んでいらっしゃっていて、精神的な病気も抱えていらっしゃっているんですよね。本来であれば自己破産したいんですけど、実は親族が保証人に取られているということですね。それで、それができないで悩んでいるという提訴を昨年末に受けたというのがあります。
渋谷:
他には、どういった方からの相談がありますか?
岩重:
やっぱり、長年請求が来なかった、と。なので、いきなり請求が来て、延滞金があったので、「カットしてください」と言うんですけれども、「それはもう、まけることはできない」と言われてしまって、ノイローゼになってしまった方がいます。
後でフタを開けてみると、実は、この大部分が時効にかかっていたケースがあったんですよね。
渋谷:
「時効」ですか? 「時効」というのは、どういうことですか?
岩重:
奨学金も借金ですから、毎月とか毎年、返済する期限が来るんですけれども、そこから10年間を経過すると、時効にかかって払わなくて良くなるんですね。
渋谷:
なるほど、なるほど。
岩重:
そうなんですけど、ご本人は知らない。それで、時効にかかったものを一生懸命払い続けているという相談も寄せられていますね。
渋谷:
時効になっているのに、貸し手である日本学生支援機構は請求してくるということなんですか?
岩重:
そうなんですね。これは法律的には禁止されていることではなくて、時効にかかったものでも払いたければ払って良いという理屈になりますので、請求すること自体はできる、と。
ただ、実際に考えてみると、皆さんは知らないで払い続けているわけですよね。それはどうなのか?という問題はあると思うんですね。
渋谷:
そうですね。本来、10年経ったら、もう支払いは弁済されるんだ、と。それを知っておいた段階で、払うなら払ってくださいと言うのが筋のような気もしますよね。
岩重:
私もそう思いますね。
渋谷:
うーん。30万の年収の方は、さすがにこれは年収がかなり低いなという印象なんですけれど、通常の300万、400万といった年収をもらっていながら、しかし奨学金返済に苦労されている、悩んでいる方も、結構いらっしゃるんですか?
岩重:
年収がある程度ある方は、割と返済ができるんですよね。ところが、延滞していらっしゃる方は、やっぱり収入が少ない方が多いんですよ。
例えば、3か月以上延滞している方のケースを見てみますと、統計 で言うと、年収が300万以下の方が83%ぐらいなんですよね。400万を超えている方は、わずか6%ぐらいしかいないということになりますので、返せない人は、やはり返したくても返せない。なんだけども、救済されない。そこに大きな問題があるわけなんですよね。
渋谷:
「年収300万以下」と言うと、例えば、非正規の人たちも決して少なくないですし、あるいは、正社員でも年収300万以下の方が、実は今、全体の3分の1ぐらいいるとも言われていますよね。
3か月以上延滞している人の83%が「年収300万円以下」という普通の人
岩重:
はい、そうですね。
渋谷:
ですから、300万以下は決して例外的な収入ではなくて、本当にごく普通の人たちの収入ベースですよね。そういう人たちだと、返すのがなかなか厳しいという現状があるということですね?
岩重:
そうなんですね。じゃあ、実際に返せている人は大丈夫か?と言うと、決してそうではないんですよね。
例えば、奨学金を返すために結婚を諦める、と。あるいは、出産を諦める方もいますし。あるいは、最近ブラック企業が問題になっていますよね。ですけど、ブラック企業と分かっていても、返すためにはそこで働かざるを得ない方もいらっしゃる。それから、親元から独立をしたいんだけども、借金を返済しなきゃならないということになりますと、なかなか独立すらもできないという状況なんです。
これは、返せている人の中にも、相当程度、困難を抱えていらっしゃる方がいると見たほうが良いと思いますね。
渋谷:
なるほど。奨学金を抱えているので、結婚したいんだけれども、ちょっと後ろ向きになってしまうという人も、どうもいるみたいですよね。
岩重:
そうなんですね。例えば、インターネットで「奨学金」と入れていただいて、1字空けて、「結婚」と入れてみてください。そうすると、そこには「奨学金があって結婚ができない」という悩みの投稿が、たくさん出てきます。
渋谷:
返せていても生活に後ろ向きの風になるみたいな、逆風になるようなことも、奨学金には付いて回るということなんですね。
昔と今では異なる奨学金の制度
渋谷:
リスナーの中でも、僕から上ぐらいの年配の方は、「え? でも、奨学金って、そんなに苦しめるようなものなの?」って思われる方も少なくないかなと思うんですが、これは、奨学金が昔と今とでは、その性質が変わってしまったということがあるんでしょうか?
岩重:
はい。おっしゃる通りなんですね。まず、奨学金の事業体としては、昔は「日本育英会」というところがやっていましたよね。
それが、2004年からなんですけども、独立行政法人の「日本学生支援機構」 に受け継がれていくわけですね。その時に注目すべきなのは、この事業が金融事業だと明確に位置付けられたわけです。そして、「回収をちゃんとしろ」と言われてきたもんですから、回収がどんどん厳しくなってきているということがあります。
それからもう1つは、今の若い人たちの状況が、私たちの時とは全然違うんですよね。やっぱり、就職が厳しいですよね。
日本学生支援機構になってから、「奨学金は金融事業」と明確な位置付け
渋谷:
そうですね、はい。
岩重:
今は、卒業する時に何十社もエントリーをしないとなかなか就職が決まらない学生さんもたくさんいますし、就職活動の交通費を稼ぐために年生から貯金をしているような方もいるんですね。
そういう意味では、奨学金制度も変わってしまったし、若い人の状況も困難になっている、と。なんですが、こういうことを私たちの世代がなかなか認識することができないということで、顕在化しないという問題があると思います。
渋谷:
なるほど。しかも、かつては無利子が多かったのが、今は利子が付く奨学金が、割合としては非常に多いということも伺ったことがあるんですが、やっぱりそうなんでしょうか?
岩重:
そうなんです。当初、有利子を導入した時に、これは財政がよくなったらば廃止して無利子にする、という約束だったんですよ。
渋谷:
じゃあ、奨学金は本来無利子であるべきだという趣旨があったわけですね?
岩重:
そうなんです。ところが、その後、有利子がどんどんどんどん増えていって、今、有利子が無利子の3倍になっているということになっていますので、利子の負担も、かなり大きくなっていますね。
渋谷:
全体の何割ぐらいが有利子なんですか?
岩重:
有利子のほうが多くて、だいたい7割5分ぐらいが有利子になるということになります。
奨学金全体の75%は有利子
渋谷:
75%が有利子で?
岩重:
はい。
渋谷:
そうしますと、無利子で借りられる人もいるんですけれども、すごくハードルが高い、この25%になるのは、なかなか難しいということなんですね?
岩重:
はい。無利子のほうが収入要件とか成績の要件が若干厳しいんですけども、問題なのは、無利子の条件を満たしていても枠が無いということで、有利子を借りざるを得ない人がかなりいることなわけなんですよね。
渋谷:
そうか。そういう人は、もう無利子は諦めざるを得なくて、じゃあ、有利子で借りるか、あるいは大学に行かないかっていう選択しかないわけですよね。
岩重:
そうですね。
卒業後に重い負担を強いる奨学金制度
渋谷:
ただ、今、大学への進学率って5割を超えています。やっぱり、「大学に行かないといけない」という思いは、かつてより強いし、社会的にも、なかなか今は、高卒の求人が数としては減っているという問題もありますよね。
そういうことを考えると、「有利子でも大学に行こう」という選択をする人が、これはむべなるかなと言いますか、多いということですね。
岩重:
はい。仕方ないと思うんですよね。大学に行くためには借りざるを得ないということだと思います。
渋谷:
そうですね。しかも今、本当に非正規雇用の割合が増えていまして、正社員よりも相対的に低賃金で働かざるをえない人も増えています。そうなってくると、卒業後に奨学金負担が重くのしかかってくるという構図になっているということなんですね?
岩重:
そうなんですよね。奨学金が他の借金と違うところは、将来の仕事とか収入が分からない状態で借りるということなんですよね。そうであれば、救済制度がちゃんとあるべきだということなんですけど、これが非常に貧弱だということになるんです。
例えば、収入が少ない方の場合、一定期間、返還を猶予する制度があるんですけども、年数に上限があってですね、今までは5年しか使えなかった。
渋谷:
「5年」ですか?
岩重:
はい。今度、10年使えるようになったんですけど、昨今の就職の状況あるいは雇用の状況を見ますと、10年で返せるようになる保証はないんですよね。
渋谷:
ないですよね。
岩重:
それから、もう1つの大きな問題は、今まで、この救済制度は、延滞金があると、それを全部払わないと使えないとなっていたんですね。
だから、先ほどの生活保護の方は、本来は猶予が使えていたのに延滞があるから駄目だということで、無理をして返していた。今年の4月から、一部延滞があっても使えるようになりましたけども、救済手段がまだまだ充実していないということになります。
渋谷:
その延滞金なんですけれども、2014年から5%になったということですが、例えば、200万の5%だと10万円ですよね。若い人にとっては、かなりの金額になりますよね。
岩重:
はい、そうなんです。
渋谷:
この率、あるいは、延滞金という仕組み自体もそもそもどうなのかな?と僕は率直に思うんですが、その辺りは、どういうふうに見たら良いんでしょうか?
岩重:
延滞金は本来、1つはペナルティーの意味があるわけですよね。ところが、延滞していらっしゃる方は皆さん、返したくても返せない人が多いわけですから、ペナルティーを科すのはおかしいですし、本当に返せないわけですから、いくらペナルティーを科したところで返還促進に結びつかない、ただ苦しむだけなわけですよね。
そうすると、この延滞金の存在自体に大きな問題があると考えざるを得ないと思うんですよね。
渋谷:
うーん。しかし、延滞金はあるということを考えると、「奨学金」というのが、ある種の金融ビジネスって言うんですかね、債券をきちんと回収して、そこで利益を当然出すんだというような存在になっちゃっている、と。
奨学金という、本来、相対的に貧しい人たちが、貧困の連鎖がないように、あるいは自分の可能性を本当に十全に伸ばせるように、将来に向けてお金を貸してあげるよ、あるはお金を寄付するよという趣旨から、どんどん離れてしまっているような感じがするんですが、その辺りは、いかがでしょうか?
岩重:
まさに、その通りなんですよね。先ほど、有利子が増えたって話がありましたね。実は、有利子の財源は、広い意味では民間からのお金なんですよ。
従って、それに利子が付いたりするということになりますし、民間からお金を集めようっていうことになりますと、どうしても、債券の回収率を上げて、これは優秀な債券だということをアピールするわけですね。
ですから、格付け会社が付いて、この奨学金の債券はAAだとか、AA+だとか。だから、良い債券だから、どんどん買ってください、ということで事業を継続しているわけですよね。
そうすると、自ずと厳しい回収をせざるを得ないということでいうと、「これは『貧困ビジネス』だ」という言い方をする方もいらっしゃることになりますね。
渋谷:
少なくとも「奨学金」って言っていいのかどうか? つまり、諸外国、先進国では、「奨学金」って言うと、少なくとも無利子ですよね。
正確な言い方をすると、日本は「奨学金」がほとんど存在しない国である
岩重:
そうなんです。
渋谷:
あるいは給付型ですよね。今のこの日本の奨学金は、正に「スチューデント・ローン」っていう学生向け債権っていう印象を、やっぱり受けますね。
岩重:
その通りなんです。「奨学金」っていう言葉は本来、諸外国では「給付」、つまりあげるものに対して使うんですよね。貸与については「スチューデント・ローン」という言い方をして、「奨学金」って言葉は使えないわけです。正確な言い方をすると、日本はほとんど奨学金のない国だということになってしまうんですよね。
ますます高騰する学費
渋谷:
うーん。リスナーの中には、じゃあ、そういう奨学金をもらわなければいけないような、相対的に授業料の高い私立はやめて、例えば、国立を目指したらどうかと思われる方も、もしかするといらっしゃるかもしれませんが。これ、もう、びっくりしたんですが、国立の学費も、だいぶ変わっちゃったんですよね?
岩重:
はい、そうなんです。1960年頃は、1年間で納める初年度納入金なんですけど、1万円ちょっとだったんですよね。昔の人は皆さん、そう思っていらっしゃる。ところが、今、初年度納入金は、国公立でだいたい80万を超えている、と。
渋谷:
「80万」ですか?
岩重:
はい。ですから、物価の上昇率をどんどんどんどん、はるかに超えて、学費がうなぎ上りで高くなったという問題があるんですよね。
渋谷:
50年間で4、50倍になったって感じですね。
岩重:
そういうことなんですね。
渋谷:
授業料は50数万円で、入学金その他が20数万円で、80数万円っていう感じですかね?
卒業後「数百万の借金を抱えた債務者」として社会に出ていくことになる
岩重:
そういうことになります。
渋谷:
そうしますと、4年間だと、それに加えて授業料3年分ですから、80プラス、仮に50万だとしても、150ですから、200数十万円になっちゃう、と。
岩重:
そうなんです。だから、奨学金がないと大学へ行けない、ということになってきますと、学費は高いですよね。そうすると、奨学金を利用した方たちは、卒業する時に「数百万の借金を抱えた債務者」として社会に出ていくということになるわけなんですよね。
そうなっているのは、やっぱり、公的な支援がどんどんどんどん減ってきたということなんですよ。日本は、諸外国と比べて、大学教育に対する投資が低い、と。OECD諸国の中では、対GDP比で公財政支出がどれぐらいあるかと言うと、加盟国の中で、ずっと最下位を続けているんですよね。教育にお金を使わない国だということが学費を引き上げてきたという深刻な問題があります。
渋谷:
そうですよね。しかも1990年代にバブルが弾けて以降、日本はいわゆるデフレスパイラルに陥っていて、収入がどんどん目減りしていく、あるいは非正規雇用の割合が増えていって、相対的に賃金の低い層が増えていった、と。
そういう中で、学費だけは高インフレをずっと続けてきたわけで、そうなってくると、奨学金に頼らざるを得ないい人をどんどんどんどん生んでいるということですね。
だとすれば、奨学金は、学生たちの将来に向けて、言ってみればセーフティーネットになるべきなのが、それが可能性の芽を摘むみたいになってしまっている感じがしますよね。
岩重:
はい、そうなんです。奨学金は、本当はその人の可能性を広げるためのもの。それが、人生の色んな選択肢を奪っていくということで、頑張って這い上がろうとするんですけど、それが足を引っ張るものになってしまっているということなんですよね。
その問題を解決しないと、やっぱり社会自体が成り立たなくなるっていう危機感を、私自身は感じているんですよね。
渋谷:
そうですよね。若い人たちが然るべき教育を受けて、その可能性を開花させることが、日本の社会の発展につながるわけですし、必要条件ですよね。
岩重:
はい、その通りですね。
奨学金制度はどうあるべきか?
渋谷:
そうしますと、じゃあ、どうしたら良いのか?ということで、ぜひ岩重さんのご意見を、「奨学金制度をこう変えるべきじゃないか」というのを教えていただければと思うんですが?
岩重:
まず、これだけ高等教育の学費が高い国は珍しいと思うんですよね。やっぱり、きちんとお金を使って、学費を下げていくことが大事だと思うんですね。よく「国にはお金が無い無い」という話をするんですが、子どもとか若者にお金を使うと、何倍にもなって返ってくるということを認識する必要があります。
それから、奨学金。やっぱり「借金」というイメージが強いですけども、色んな国のように給付を増やしていくことも必要だと思いますね。それと、延滞金、利息の問題。そして、やっぱり柔軟な返済制度ですよね。これを作っていかないと、自分が将来どうなるか分からない状況でお金を借りるわけですから、その状況に合った柔軟な返済制度を作っていくことが必要になってくると思いますよね。
今のように、親御さんを保証人に取ることをやめるべきだと思うんですよね。その制度は、もともと「子どもの学費は親が払うべきだ」という狭い考え方に立っていると思うんですね。そうじゃなくて、「子どもや若者の育ちは社会全体で支えていくんだ」という意識で行くべきだと思うんですね。
「子どもや若者の育ちは社会全体で支えていくんだ」という意識が必要
渋谷:
うーん。OECD加盟国、他の先進国に近づけていくことが非常に重要だということですよね。
岩重:
はい。ごく当たり前のことを当たり前にすれば、この問題は解決するはずなんですよね。
渋谷:
あと、今、借りてしまって返済に困っている人、あるいは、もう返済できないんじゃないかという人に対しては、どういうアドバイスをされますか?
岩重:
まず、「独りで悩んでいないで相談に来てください」ということなんですよね。
返還に悩んでいる人たちの共通の特徴は、やっぱり自分に厳しいんですよ。こんなに無理をしているのに、まだ返そうとするんですね。どうしてか?と言うと、自己責任の意識に凝り固まっているんですよね。それで「助けて」と言えない方が、とても多いんです。
これは皆さんだけの責任だけではないんだということを認識していただいて、困ったら助けを求める、扉を叩いていただくことが1番大事なことだと思います。
渋谷:
責任感が強いのは本当に素晴らしいことですけれども、でも、そればっかりに凝り固まってしまうと、その制度の不備とか、あるいは周りにたくさん助けてくださる人、仕組みがあるわけで、そこに目が行かなくなってしまうきらいはありますよね。
岩重:
おっしゃる通りです。やっぱり、声を上げることが、事実を明らかにして制度を変えていくことにつながると思うんですよね。
渋谷:
はい。ありがとうございました。奨学金問題対策全国会議の岩重佳治さんでした。
岩重:
ありがとうございました。
渋谷:
「渋谷和宏・ヒント」、今日は「返済できずに自己破産も-深刻な奨学金の実態」について、奨学金問題対策全国会議の事務局長、岩重佳治さんに伺いました。
2013年度、なんと33万人もの人に達した奨学金の滞納者。どうしてこんな多くの人たちが返せなくなってしまったんだろう?ということの背景に、奨学金の変質があったという岩重さんのお話は、本当に目から鱗が落ちました。
かつては、8割が無利子だった。それが今、7割が有利子になっている。あるいは、延滞金として5%を払わなければいけない。さらには、国立大学も含めて、大学の入学金などの学費が非常に高騰している。そんな背景も、当然、奨学金を借りなければいけない人たちを増やしているという構造につながっている、と。それらも含めて、かつての奨学金のイメージで、このことを語ってはいけないんだな、と思いました。
日本は、先ほど申し上げたように、7割が有利子ですけれども、OECD加盟国、つまり先進国では、基本的に奨学金は無利子です。あるいは給付型です。つまりは、返さないでも良いものが中心で、有利子のお金については、スチューデント・ローン、つまりは学生向けの借金という位置付けです。ところが日本では、奨学金は基本的に有利子で、借りた人は、残念ながら債務を背負って社会に出なければいけないということになってしまいます。
でも、若い人たちに教育の機会を十全に与えて、若い人たちの可能性を伸ばしていくのは、長い目で、いや、5年、10年のタームで見ても、やはり国や社会にとってプラスなんじゃないかと僕は思います。豊かな発想や優れた技術・知能・知識を持った人たちが企業社会を支えるわけですし、社会をより良いものにしていく原動力になってくれるはずです。
ということは、やはり国は、奨学金を将来の投資として位置付け直して良いんじゃないかと思います。「財政が厳しい」と言いますけれども、長い目で見ると、その財政がプラスになるのではないかと思います。
まず、奨学金の75%が「有利子のローン」であるということに驚きました。私は幸いにも奨学金の世話になることはありませんでしたが、その手の資料などを見ると不思議に思っていたことが解消されました。つまり、私の中では「奨学金=もらえるもの」という認識があったわけです。今、就活において「大卒」は当たり前になっていて、それが無いとどうにもならない状況なのだろうと思います。また、手に職を付けるにしても、そのための専門学校に通う必要があります。いずれにしても、数百万円の学費が掛かります。しかし、その投資に見合うリターンがあるとは、もはや思えません。要は、数百万円をかけて高等教育を受けても、その後、ちゃんと就職できるのか、ましてや、奨学金を返すまでその就職先で働けるのか、そんな保証はどこにも無いということです。教育格差は所得格差に直結します。それは貧困の連鎖を助長します。若い世代にお金を使ってくれない国の、また別の問題点を知ることになりました。これからの日本を担う世代に投資できない国に明るい未来は見えません。(編集部)
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