博物館は、異なる文明を結ぶ十字路である。世界中から人々が集い、交流や相互理解が生まれる。世界一といわれるモザイク画コレクションを誇るチュニスのバルドー博物館は、そのような施設の一つだ。

 18日に起きたテロの舞台が、この博物館だった。日本人3人を含む20人あまりが犠牲になった。容疑者はイスラム過激派と見られている。

 国外から旅行者を引き付ける博物館は、チュニジアの開放性を象徴してもいた。その存在を、自らの価値観以外認めない偏狭なテロリストらは許せなかったのではないか。観光収入に頼るチュニジア政府に打撃を与える意図もあったに違いない。

 「アラブの春」と呼ばれる民主化運動が起きたアラブ諸国の多くは、その後混乱や内戦に陥った。その中で唯一、チュニジアでは民主化定着の兆しが見える。このような歩み自体を、容疑者らは標的とした。

 自由で開かれた社会をつくろうと奮闘するチュニジアに突きつけられた脅しは、欧米や日本を含む民主社会への挑戦に他ならない。チュニジアの政府や市民は、これに屈することなく、取り組みを継続してほしい。

 武装グループの挑発に乗らず、自由な市民社会を守りつつ、かつ治安を回復させる。経験の浅いこの国にとって極めて困難な道のりだ。その試みが成功するには、欧米など国際社会の支えが欠かせない。

 民主社会の結束が問われているといえる。

 チュニジアでは、2010年末に民主化運動「ジャスミン革命」が起き、ベンアリ独裁政権を翌年崩壊させた。その後の「アラブの春」の先駆けとなる動きだった。

 以後、野党指導者の暗殺などを乗り越えて、世俗派とイスラム勢力が協力し、新憲法を制定した。昨年末には自由選挙で大統領を選出した。報道の自由もある程度確保され、他のアラブ諸国にとって民主化のモデルとなってきた。

 一方で、シリアやイラクなどで勢力を広げる過激派組織への参加者が3千人に及ぶなど、国内社会に問題も抱えている。その安定のためには、欧米諸国との連携が必要だろう。

 この事件を機に、欧米がチュニジアと距離を置くようなことがあれば、テロリストの狙い通りだ。これまで以上に協力するための体制を築く必要がある。

 それは、日本にとっても同様だ。不幸な事件だが、これを機に両国が結びつきを深めるよう望みたい。