栃木県の総合内科医のブログ

栃木県内の総合病院内科の日々のカンファレンス内容や論文抄読会の内容をお届けします。内容については、できる限り吟味しますが、間違いなどありましたら是非ご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

論文抄読会:BMJ & Lancet ガイドライン間の薬剤相互作用/癌検診の過剰診断の許容範囲/大うつ病へのクエチアピン併用療法の効果/タバコのない世界特集/最新のてんかん学

BMJ

ガイドライン間の薬剤相互作用 
Drug-disease and drug-drug interactions: systematic examination of recommendations in 12 UK national clinical guidelines*1

 最近あちらこちらでMultimorbidityの話題が出ている中で、ガイドライン中心の診療ではどうにも太刀打ちできないことが分かってきています。今回は、ガイドラインの推奨の第一選択同士が相互作用的に禁忌になる組み合わせがどの程度あるのかということを、NICEの11ガイドラインとDM・心不全うつ病の3つのガイドラインを用いて調査しています。禁忌の組み合わせとして「drug-disease」と「drug-drug」の組み合わせを評価しています。

 具体的には、Commonな11疾患をピックアップ(2型糖尿病うつ病心不全心筋梗塞、慢性腎臓病、心房細動、COPD、慢性疼痛、関節リウマチ、認知症、高血圧)し、それぞれの疾患の第一選択(全患者に推奨)と第二選択(一分患者に推奨)の薬剤をピックアップします。そして、British National Formulary(BNF)が規定したserious riskの組み合わせがどの程度あるかをプライマリアウトカムとして、ガイドラインの組み合わせを評価しました。
 
 結果として、「drug-disease」の組み合わせの問題は、あまり多くなく、大半はCKD患者によるものでした。これはまあ仕方ない部分ですかね。しかも、多くの場合薬剤投与時に腎機能で調整することは一般常識になっており、さほど問題ないかも知れません。もう一つは、「drug-drug」の組み合わせですが、これはかなりの数になります。糖尿病患者では11疾患との組み合わせで133件の不適切な組み合わせが、うつ病では89件心不全では111件の不適切な組み合わせが存在するという結果でした。

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(本文より引用)

 やはり臓器別の専門科がそれぞれ切り分けて診療をしていくことには少なからず医原性の問題が起こりうる素地をはらんでいるといって良いと思います。これからの高齢者診療の時代、これらを統合しバランスを取り、優先順位を決めていくことが出来る総合医を育てていく必要がありますね。

✓ 主要疾患ガイドラインの推奨薬の組み合わせで潜在的に不適切な薬剤組み合わせが起こる可能性が高い


癌検診の過剰診断の許容範囲 
People's willingness to accept overdetection in cancer screening: population survey*2

 Overdiagnosisが問題になっていますが、一般の方々がoverdiagnosisという概念をどの程度許容しているか?というのが今回のテーマです。イギリスの住人をオンラインでリクルートしてアンケート調査しています。まあ、この時点で意識が高い人達が組み入れられそうな予感はありますが・・・

 対象となった疾患は、乳癌・大腸癌・前立腺癌です。コクランやNICE guidelineのデータを元にそれぞれの癌の頻度・治療効果・治療による副作用を説明し、その上で各癌毎にシナリオを作成します。1つめはある治療が癌死亡を10%減らす、2つめはある治療が癌死亡を50%減らす、とした場合に、どれだけoverdiagnosisを許容しますか?という問いかけをしています。対象患者の平均年齢は46歳で、検診受診歴があるのが53%、癌既往9%の方々でした。

 結果ですが、
①癌死亡を10%減らす
 乳癌 150/1000人、前立腺癌 126/1000人、大腸癌 113/1000人
 過剰診断を許さない人:乳癌 5.1%、前立腺癌 5.5%、大腸癌 7.4%
 過剰診断問題ない人:乳癌 10.2%、前立腺癌 7.1%、大腸癌 8.4%

②癌死亡を50%減らす
 乳癌 150/1000人、前立腺癌 126/1000人、大腸癌 113/1000人
 過剰診断を許さない人:乳癌 3.5%、前立腺癌 4.5%、大腸癌 5.2%
 過剰診断問題ない人:乳癌 13.9%、前立腺癌 9.2%、大腸癌 9.7%

 と、一般には過剰診断は許容される傾向にあることがわかりました。特に治療効果が高くなるにつれてその傾向が高まるのは当たり前かなとも思いますが、一方でoverdiagnosisが問題になっている前立腺癌や乳癌の情報提供をしてもなかなか、その通り理解されにくいというのもポイントでした。

✓ 一般住民は比較的overdiagnosisに寛容かもしれない


うつ病へのクエチアピン併用療法の効果 
Adjunctive treatment with quetiapine for major depressive disorder: are the benefits of treatment worth the risks?*3

 非定型精神病薬であるクエチアピン(セロクエルⓇ)について。2009-2010年にクエチアピンが認可された根拠に、うつ病に対するセロクエルの効果を検証した3つのRCTの結果からでした。ただし、この根拠となったRCTは全て企業スポンサー研究で、報告不十分やランダム化や盲験化の問題などがあり、バイアスが多いと言われております。

 以降、全世界的にクエチアピンの処方は増えており、米国ではうつ病患者や非精神疾患患者への処方が4.6%→12.5%に増加しています。カナダではかなり深刻で、家庭医がの受け持ち100人のうち12人が処方を受けており、大半は認知症の周辺症状への処方だということです。

 治療効果については、NNT 9とまずまずの効果なのですが、短期間使用の副作用として、鎮静がNNH 3、代謝異常(血糖異常) NNH 6、体重増加 平均0.9kg増加などが報告されています。さらには、長期安全性効果の評価はされていません。

 現在進行中のstudyがあり、企業スポンサーコホートが2つ終了し、RCTも1つ終了し結果が待たれています。現状を踏まえると、大うつ病での薬物治療は原則三環系かSSRIかで開始し、無効の場合にはswitchしましょうと推奨されています。これはNICE guidelineも同様の見解。また、セロクエル併用するようならQOLを改善しないことや副作用には十分注意すべきであり、使用開始後も注意深く経過をみましょうとのことでした。

✓ 大うつ病へのクエチアピン使用には十分な注意を払いましょう



■Lancet■

タバコのない世界特集 
A tobacco-free world: a call to action to phase out the sale of tobacco products by 2040*4

 Lancetはタバコ特集でした。色々記事があるのである程度まとめてみます。WHOは2040年までに喫煙率5%未満を目標にしています。これまでは、1980→2012年にかけて男性41→31%、女性11→6%に減少していますが、人口は増えているため、喫煙絶対数は増加しているのだそうです。

 WHOのFCTC(Framework Convention on Tobacco Control)は今年で10周年になるわけで、全世界の180ヵ国が参加しているものの、実際に実行している国は少ないのが問題で、今後の課題として全ての国が参加かつ実行できるかがkeyになります。

 その中で最も注目されている国は中国です。人口の多さと喫煙率が問題になっているわけで、中国自体はFCTCに2006年から参加しているも実行できない国の一つです。中国での禁煙対策が難しい理由として、①国とタバコ会社の関係が近いこと、②タバコ会社が様々なスポンサーになっていること、③文化的にsmoker=positiveというイメージがあること、④タバコが安く、パッケージも絵を載せたりする割合が少ない、ことなどが挙げられます。

✓ WHOはTobacco free  worldを目指して動いている


最新のてんかん学 
Epilepsy:new advances*5

 LancetのSeminarでてんかんが取り上げられていました。ざっくり取り上げていますのでまとめていこうと思います。
■Introduction■
 世界の6500万人が罹患する頻度の多い慢性疾患
 てんかん患者は世界的には差別され苦しんでおり、日常生活に支障が出ている
 大抵のてんかん患者は薬剤治療でコントロール可能
 薬剤治療に抵抗性のものは外科治療が有効

■Terminology■
 国際てんかん学会(ILAE)の定義として「脳細胞の異常な活動による一過性の症状・所見」
 てんかん寛解は、「10年以上痙攣なし」+「5年抗けいれん薬内服なし」と定義される。
 分類方法も新たに提案し、partial seizureではなくfocal seizureという名称とし、focalの定義は片側大脳半球由来。
 Generalizedは両側由来で大脳全体でなくてもOKとされています。
 Simple、complexの区別もなし、idiopathic、symptomatic、cryptogenicを削除。
 分類の軸は2軸で、ひとつは、①Generalized、②Focal、③Unknown
 もうひとつは、①Genetic、②Structural or Metabolic、③Unknown

■Epidemiology and Prognosis■
 ①疫学
 活動性てんかんの頻度は先進国で1000人に5-8人、低所得国では1000人に10人
 2011年のメタ解析で年間の発症頻度は、高所得国 45/10万人、低所得国 82/10万人

 ②予後
 てんかん患者の平均寿命は、cryptogenicやidiopathicは健常人より2年短い、symptomaticは10年短い
 ただし、小児期の自然寛解するてんかんの一部は寿命に影響しない
 てんかん患者の突然死をSUDEP(Sudden Unexpected Death in Epilepsy)と呼ぶ
 SUDEPの一番のリスクは全般性強直間代痙攣(GTCS)
 SUDEPのメカニズムは正確には分かっておらず、GTCSに伴う呼吸・心機能低下ではないか?といわれている。

 ③併存疾患
 精神疾患の併存は多い。てんかん患者の33%に不安障害かうつ病あり
 精神疾患が併存すると、薬剤抵抗性や死亡と関連する。
 原因が同じだったり、疾患の結果だったりする。

■Diagnosis■
 診断には、患者・目撃者の詳細で正確な描写が重要
 特定の検査は診断には必ずしも必要でない
 近年進歩した一番の要因はスマートフォンの普及?
 多くの医者が、てんかん性痙攣、痙攣性失神、非てんかん心因性痙攣の鑑別が出来ていないため誤診が多い
 病歴としては、家族歴・生活歴・発症年齢・痙攣type
 身体所見・検査としては、神経所見・認知機能・心電図・脳波・頭部MRI

■Medical treatment■
 ①一般論
 適切な治療で70%の患者は痙攣フリーとなる
 痙攣フリーになる患者の大半は初回治療でコントロール可能
 全ての患者の第一選択薬になるような薬剤は無い。カルバマゼピンバルプロ酸は第一選択薬
 新規抗けいれん薬は副作用がすくなく忍容性が高い

 ②Focal seizure
 2437人の1年以内に2回以上の発作がある患者対象のSANAD研究では、ラモトリギン(ラミクタールⓇ)>カルバマゼピン HR 0.78
 ※ただ、忍容性による差で、per protcolでは有意差なし
 カルバマゼピンとレベチラセタム(イーケプラⓇ)・ゾニサミド(エクセグランⓇ)を比較したRCTでは痙攣フリー期間は有意差が無かった
→新規薬剤と古典的薬剤の効果はほぼ同程度。新規薬剤の有用性は忍容性

 ③Generalized seizure
 Focalと比べてstudyが少ない。
 欠神発作の子供453人のRCTで、12ヶ月時点治療成功率は、エトスクシミド(44%)=VPA(45%)>LTG(21%)
 ラモトリギンは効果乏しく、バルプロ酸は副作用中止多い
 SANAD研究で、VPA>トピラマート、VPA>ラモトリギン
 妊娠可能女性にはバルプロ酸は使用しにくく、LTGが良いかも

 ④薬剤抵抗性てんかん
 初回薬剤治療に不応だと他の薬剤治療成功率も低下
 治療抵抗性の定義は「適切な2種類の治療薬でも治療失敗」
 薬剤併用が単剤治療より効果的かどうかはcontroversial、少なくともRCTでの検証なし
 併用するなら薬物作用部位が異なる組み合わせが良い。例えばバルプロ酸とラモトリギンなど

 ⑤緊急治療
 痙攣重責の第一選択はベンゾジアゼピン系。ロラゼパムワイパックスⓇ)が最も好ましい
 第二選択は決まっていないが、フェノバルビタール・フェニトイン・バルプロ酸
 発作を早く止めないと、痙攣重責治療失敗率は上昇していく。出来れば病院到着前に止めるのが望ましい。
 救急隊によるミダゾラムドルミカムⓇ)10mg筋注が有効

 ⑥外科治療
 外科的治療に適しているのは「薬剤抵抗性focal epilepsy」
 外科治療後に約50%は長期間痙攣フリーになる
 側頭葉てんかん患者80人対象のRCTでは、1年後の痙攣フリーでは手術群58%、薬剤群8%
 アメリカ神経内科学会では「初回薬物治療不応のfocal seizureは脳外科紹介」を推奨しているが、実際には手術も紹介もされていない
 発症から手術までの平均時間は約17年

■Key step■
 ①いつ治療を始めるかの決定
  治療の利益・害と患者・患者家族の好み次第
  大抵は2回以上の痙攣発作があった時
 ②最も適切な抗けいれん薬を選ぶ
  年齢・性別・痙攣型・副作用・相互作用・費用・併存疾患
  アドヒアランスの重要性を必ず説明する
 ③薬物量はコントロール最低限の量にする
 ④痙攣がコントロールつかなければ治療を再考
  本当にてんかんでいいのか?
  アドヒアランスは保たれているか?
  他の薬剤単独治療に切り替える
  overtreatしないように注意
 ⑤2年痙攣フリーであれば徐々に薬剤減量
  減量に関しても個別化

✓ てんかんの定義は変更されている。診断が非常に重要。適切な診断・治療で長期予後も改善する。外科的治療適応を逃さない。