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ポップカルチャーにしか救えないこと おとぎ話・有馬和樹×山戸結希
インタビュー・テキスト:金子厚武 撮影:永峰拓也(2015/01/13)
「僕は人類史とは治癒の歴史そのものだと思っている。見知らぬ人の一瞬の笑顔から三日三晩に及ぶ大手術までが我々を治し、癒す。あらゆる場所で何度でも再生 / 治癒が可能なCD音盤はこれ限りである」
これは菊地成孔がUAとのコラボレーションで発表した『cure jazz』のライナーノーツに寄せた文章の引用だ。この文章の前提には「人間は傷つきながら生きている」という世界認識があり、音楽はそれを癒し、救う役割があると示している。おとぎ話“COSMOS”のMVでは、人ごみの中で泣きじゃくる少女が、曲とともに軽やかに踊り出す。まさに音楽による治癒の、救済の感覚を描いたものである。
このMVを手掛けたのは、初監督作品『あの娘が海辺で踊ってる』が異例の注目を浴び、昨年、東京女子流主演の『5つ数えれば君の夢』で商業作デビューを果たしたばかりの新人映画監督・山戸結希。『MOOSIC LAB 2013』でグランプリを含む三冠を獲得した『おとぎ話みたい』は、昨年末に新宿で2週間限定公開された際も大きな話題となり、テアトル新宿のレイトショー動員記録を13年ぶりに塗り替える大盛況となった。初めてfelicityから発表されるおとぎ話の新作『CULTURE CLUB』にも、こうしたバンドと監督との交流が色濃く反映され、音楽の持つ「救済」の力をあくまでポップに表現した、素晴らしい作品に結実している。それでは、おとぎ話の有馬和樹と山戸結希に、ポップカルチャーについて存分に語り合ってもらおう。
おとぎ話(おとぎばなし)
2000年に同じ大学で出会った有馬と風間により結成。2 年後に同大学に入学した牛尾が加入、その数年後に同大学にてCLISMSというバンドで活動していた前越が加入し現在の編成になる。2007年にUKプロジェクトより 1st アルバム「SALE!」、2008年に2nd「理由なき反抗」、2010 年に3rd「FAIRYTALE」を発表。2010 年の 4th「HOKORI」、2011 年の 5th「BIG BANG ATTACK」はROSE RECORDS から発表。2013年の 6th「THE WORLD」は再び UK プロジェクトからリリースした。2015年1月にはfelicityより「CULTURE CLUB」をリリース。日本人による不思議でポップなロックンロールをコンセプトに活動中。
おとぎ話
山戸結希(やまと ゆうき)
上智大学文学部哲学科在学中、映画研究会を立ち上げ、独学で処女作『あの娘が海辺で踊ってる』を監督。同作で『第24回東京学生映画祭』審査員特別賞を受賞。2作目となる『Her Res ~出会いをめぐる三分間の試問3本立て~』が同年のぴあフィルムフェスティバルに入選。2012年11月ポレポレ東中野で『あの娘が海辺で踊ってる』を自主配給にて上映し、当時無名の新人ながら同館のレイトショー動員記録を更新する爆発的ヒットとなった。2013年4月には『MOOSIC LAB 2013』にて『おとぎ話みたい』が公開され、グランプリほか三冠を獲得。2014年3月、商業デビュー作となる『5つ数えれば君の夢』が渋谷シネマライズの監督最年少記録で公開を果たした。現在新作待機中。
山戸結希 (@YMtoUK) | Twitter
おとぎ話って、「容器」みたいなんですよね。一方的に何かをぶつけてくるんじゃなくて、歌いながら逆に受容してる感覚がすごくある。(山戸)
―お二人の最初の出会いとは?
有馬:音楽と映画を融合した『MOOSIC LAB 2013』という企画があって、そこで監督が「おとぎ話と一緒にやりたい」と言ってくださったんです。実際に会ったのは2012年の夏かな? ただ、僕たちインディーバンドなんですけど、「インディーズ」っていう括りは嫌なんです。あくまでも独立国家として、全世界に向けてやってる意識があるので、「インディーズ映画」を中心に扱う企画に関わるというのは、ホントは断りたかったんですよね。でも監督の話を聞いて、目を見たら、通じ合う部分があるとすぐにわかって、「この人ならすべて捧げていいな」と。その場で「やってください」って返事をしたんです。
―山戸さんにとっておとぎ話はどんな存在だったのでしょうか?
山戸:大学生の頃、下北沢のライブハウスによく見に行っていました。でも3年生の春に映画を撮り始めたときに、おとぎ話の音楽を聴いていると、どんどん物語が立ち上がってきてしまって、映画がおとぎ話の音楽と溶け合っちゃうから、聴くのを禁止してたんです。私にとっておとぎ話の歌は、聴くだけで享受するんじゃなくて、物語の中で接続する形でしかありえない存在でした。当時まだ1つの映画も吐き出せていなかったので、そんなことは誰にも言えなかったけれど、心だけでも作家としての、おとぎ話の音楽への一番誠実な部分でした。映画祭に入賞した後に、『MOOSIC LAB』のお話をいただいて、「どんな人と組みたいですか?」と言われたとき、おとぎ話は人気のバンドだからきっと無理だろうなと思いながら、私は一択でした。
―聴くのを禁止するほどに、おとぎ話の音楽が山戸さんの中に入ってきてしまったと。その理由は何だったんですか?
山戸:先日『おとぎ話みたい』のトークショーで曽我部(恵一)さんもおっしゃっていたんですが、おとぎ話って「容器」みたいなんですよね。これは私が最初に映画というメディアに対して感じたことと、全く同じで。一方的に何かをぶつけてくるんじゃなくて、歌いながら逆に受容もしてる感覚がすごくあるんです。だから聴いていると、音楽そのものをなぞるだけじゃなくて、「ああ、今日はこんなことあったな」とか、「これからの私はどうなるんだろう?」とか、自分の存在が引っぱり出されちゃうんです。「昨日の自分」と「明日の自分」を接続する存在として「今、ライブを見ている自分」が存在しているという感覚に包まれて、「今を生きてる」って、強烈に感じます。
有馬:確かに、こぶしを挙げてグチャグチャになるライブも大好きだけど、自分がやりたいのはそれじゃない。例えば、誰かが落ち込んでたら、ライブでいきなりはっちゃけてもらわなくても良くて、思ってることをそのままおとぎ話の曲に重ねてもらいたい。今、監督に言語化してもらってから自分がずっとそう思っていたことに気づいて、打ち震えるものがありました。「僕がやってきたことは、やっぱりそういうことだったんだな」って。