社会

【社説】「八紘一宇」 歴史学んだ上の発言か

 安倍晋三首相による戦後70年談話をめぐり、中韓両国はもちろん、欧米からも日本政府の歴史認識に注目が集まる。そうした状況にもかかわらず、国会で過去の軍国主義の亡霊のような言葉が政権与党の議員から平然と発せられた。聞き流すことはできない。

 16日の参院予算委員会で、自民党の三原じゅん子議員が「八紘(はっこう)一(いち)宇(う)」を「日本が建国以来、大切にした価値観」と主張した。日中戦争から第2次世界大戦にかけて、大日本帝国の政策の屋台骨を担ったキーワードである。

 意味は「世界(八紘=あめのした)を一つの家(宇)のようにする」ということ。日本書紀で「神武天皇の建国」について書かれた文言を基に、大正時代に造語された。

 だが、大日本帝国の軍部がスローガンとして頻繁に用いるようになると、言葉の重みが増した。

 1940年、第2次近衛文麿内閣が「基本国策要綱」で「大東亜共栄圏」の建設をうたった際、公式に「皇国の国是は八紘を一宇とする」と明記。以後、「天皇を家長として世界を一つの家にする」ためとし、旧日本軍のアジア侵略を正当化する旗印となった。

 戦勝国にとっても、この言葉は国家神道や軍国主義、過激な国家主義と切り離せないとの認識だった。連合国軍総司令部(GHQ)は45年12月に発令した「神道指令」で、「大東亜戦争」とともに公文書での使用を禁じた経緯がある。

 まさに日本の負の歴史そのもの、という言葉であろう。

 今回、三原議員は言葉の表面上の意味のみを捉えて発言したはずであろう。この言葉が従来、どう使われてきたのかを十分に理解した上での発言とすれば、戦時中の軍国主義を真っ正面から肯定することにもなってしまう。

 「『侵略』という定義は学会的にも国際的にも定まっていない」と発言し、負の歴史を直視していないと物議を醸した安倍首相の政権下での、戦後70年談話を控えたデリケートな時期である。三原議員の認識は対外的に誤解を与えかねず見逃せない。国民の代表として歴史を学んでいるか、という疑問もある。

 安倍首相は先の大戦への「深い反省」を公言している。ならば当然、今回の発言には厳正に対処する必要があるだろう。

【神奈川新聞】